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エピソード1 「彼らとのキッカケ シュウとチャキ」

 金持ちだと知って近づいてくる人間にはウンザリだった。そのためにわざわざ大学まで一貫の私立校を小学校で離れ、家の近所の私立中学へと進学した。

 だというのに、親が多額の寄付をしでかしたことで教師陣からも特別扱いされてしまい、そんな特別待遇を目当てに同級生がワンサカと押し寄せてきた。

 だからフミヤの目に、彼は奇異に見えた。


「なあ」

「……あ、俺?」


 彼は携帯ゲーム機から顔を上げると、声を掛けてきたフミヤを見てきた。

 意味もなく、愛想笑いを浮かべて休み時間のたびに話しかけてくるクラスメートとは違う、教室の中でも浮いた存在。それが彼だった。


「何してんだ」

「ゲーム」

「見りゃ分かる」


 そのゲームは、フミヤはいつも自宅で一人で遊んでいるものだった。同級生の中にもそれなりの人数が遊んでいるが、その話の輪には入りたくはなかった。


「なら、別に聞かなくても……」

「一緒にやろうぜ」

「えっ。いや、俺は一人で──」

「……」


 フミヤは、驚いた顔でそいつの顔を見た。こうやって声をかけて拒否されたのは、初めてだった。

 いつもフミヤが声をかけると、誰もが喜んだ。きっとコイツも興味のないフリをしているだけだと思っていた。

 もしかしたら、なんて思ってはいたが、そのまさかだったことに、フミヤは驚きと喜びを隠せずにいた。


「というか……えっと、なんだっけ、キリ……キリヤ?」

「キリュウだ」

「ああ、そうそう。そんな感じ。でさ、ゲームしたいんだけど。もういいかな」

「だから、一緒にやろうぜ、って」

「……」


 彼は、聞かなかったフリをしてゲームに意識を戻した。

 ──コイツは、オレに興味が無い。興味を引こうとして罠を張っているようには見えないから、きっと心からそう思っているに違いない。

 それがフミヤには嬉しかった。そんな奴がいるとは思ってもみなかった。


「おい。お前、名前は」

「……貴嶋」

「お前、面白いな。友達になってやる」

「──そういうの、間に合ってるから……」


 その反応が、面白かった。

 だからフミヤは、それから休み時間のたびに絡むことにした。



「ちょっと貴方。いったい、何の用かしら」


 背が高い割りに、いまだスポーツブラすら不要だと思えるほどに胸部の平坦な女が、フミヤを睨みつけてきた。

 もしズボンを履いていたら、確実に男だと思うに違いない。それほど、女らしさを欠片も持ち合わせていないような女だった。

 学校の帰り際、たった一人だけ出来た友人と校門を通ろうとした所に、その女はいた。


「なに、お前? オレは別にお前に用なんかねーよ」

「なに、とはずいぶん大層な言葉ね」


 出会った瞬間から、彼女は敵対的だった。フミヤの事を知っているのか知らないのかは分からないが、その目つきは間違いなくフミヤを敵として見ていた。


「おいシュウ。お前こいつ知ってる?」

「……シュウ、ですって? 貴方ね、ヒデくんの名前もまともに読めないほど、頭がおかしいのかしら?」


 きつい目つきをさらにきつくして、その女はフミヤを睨みつける。


「チアキ、落ち着いてよ。フミヤは、別に悪い奴じゃないから」

「そうだぞ。シュウの言うとおり、オレがおかしい奴なわけがないだろ。お前とは違うっつーの」


 フミヤが茶々を入れても、その女はフミヤの言葉をまるっきり無視した。


「ヒデくん。貴方、これまでどれだけ痛い目に合ってきたか忘れてしまったわけではないわよね」

「いや、でもね……」

「フミヤ、と言うのね、貴方。申し訳ないけど、ヒデくんには二度と近づかないで頂戴」

「え、イヤに決まってるだろ。むしろお前がどっか行けよ」


 彼女はフミヤの前に立つと、真上から見下ろしてきた。

 フミヤの目の前に彼女の胸があるが、膨らんでいくことを想定して緩めに作られている胸の部分が緩やかにたわんでいるのが、実に愉快だった。


「エグレ胸が、ごちゃごちゃうるさいぞ。邪魔だから消えろ」

「──ずいぶんと遠回しな自殺願望ね」

「だからさ、チアキ、ちょっと落ち着いてってば。フミヤも、それ言うとチアキ本気で怒るからさ──」


 睨み合う二人の間に飛び込んで、シュウは二人を引き剥がそうと精一杯の力を込めた。

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