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色々と間違っています

星華ちゃんの苗字を『七宝院』から『西園寺』に変更いたしました!

苗字についてアドバイスをくださった20名の皆様、

本当にありがとうございました!


 朝に起きた時は、少し頭痛がするくらいだった。

 学校へ行くために荷物を持って車に乗り込んだあたりで、だんだん頭痛がひどくなってきた。

 そして――現在。



「……西園寺、大丈夫か?」


「だ、大丈夫ですわ……」



 クラスのみんなと一緒に送迎用のバスへと乗り込んだ私は、襲い掛かる頭痛と寒気をこらえながら自分の席で震えていた。



(あー、もう!なんでこのタイミングで体調を崩すのかなぁ私!?)



 あれか?昨日、お風呂から出た後に身体を冷やしちゃったからか!?それとも髪を乾かさなかったバチが当たった!?

 ぐるぐると考え込みながら、私は持参したマスクを着用する。

 前世のように『ゲッフォン!』とかオッサンくさく咳き込みたいところだけど、クラスメイトの前なのでグッと我慢だ。

 大和撫子を演じるのも結構大変だよなぁ……と今更のように実感していると、隣の席に座っていた菅原様が少し困ったような表情をしながら飴を差し出してくれた。



「す、すみません……。ありがとうございます」



 ちょうど咳のし過ぎで喉が痛くなっていた私は、ありがたくそれを受け取るとすぐに口に含んだ。

 そのままカラコロと口の中で飴を転がしていると、



「……西園寺。もしも無理そうなら、今のうちにバスを降りるべきだと思うが」



 菅原様はそう言って眉間にシワを寄せた。

 その表情は一見とても不機嫌なように見えるけれど、どうやらただ単純に私の体調を心配してくれているだけのようだ。



「い、いえ、本当に大丈夫ですわ」


「……熱とかは。ないのか?」


「今朝家で測ってまいりましたが、平熱でしたわ」


「…………ほう」



 私の言葉に不信そうな表情をする菅原様。だが、これはいたって事実である。そもそも、熱とか出してたら家から出してもらえなかっただろうしね。

 ……っていうか菅原様、そんなに何回も確認せんでいーわ!別に嘘はついてませんから!!

 心配してくれてるのは分かるしそれはとっても有難いんだけど、ここで折れてオリエンテーション合宿に参加できないとか嫌だもんね!

 『天シン』のいちファンとして、『ドレスアップした敬太様と真凛ちゃんがバルコニーで見つめあう図』だけは絶対に見ておきたいんだよー!!

 私が心の中で絶叫していると、菅原様が「ちょっといいか」と言いながらこちらへ身を乗り出してきた。

 そのまま私の額にかかっていた前髪をサラリと払いのけると、ゆっくりと顔をこちらに寄せて――って、アレ?



「…………ッ!」


「……確かに、熱は無いようだな」



 こつん。

 次の瞬間、そんな音と共に菅原様のおでこが私のおでこに当てられる。

 真っ赤になって硬直した私の視界いっぱいに広がるのは、綺麗に整った菅原様の顔で――。



(ぴ、ぴ、……ぴぎゃぁぁぁぁあああああっ!?)



 今どんな状況なのか理解した瞬間、私はギシリと固まってしまった。

 ……っていうか、え!?なんなんだコレは一体!

 もしかしなくても、私ってばいま伝説の『おでことおでこがドッキング☆』しちゃってんの!?え、なんで!?熱はないって言ったのに!!

 っていうか菅原様、早く顔を離してください!息がマスクにかかってますってば!!別に数秒経ったら体温変わるとかないから「おい西園寺、ちょっと熱上がってきてるぞ」って変わっちゃったァァアアア!?どうなっているんだ私の体内機構よ!白血球部隊、至急応答願いますオーバー!!(錯乱中)



「……やっぱり、体調が悪いんじゃないのか?オリエンテーション合宿が楽しみなのは分かるが、安静にしていた方が」



 ようやく顔を離した菅原様が、私の頭に優しく手を置きながら口を開く。……いや、だから違うんだってばー!!



(ひ、人の話を聞けぇぇえええええ!!)



 心の中で、私は思わず頭を抱えてしまった。

 ってかさ、おでこ以外にも熱を測る方法なんていくらでもあるでしょ!?なんでわざわざ『ごっつんこ☆』をチョイスしたんだよ!少なくとも出会って二日目の女子にする事じゃないと思うのは私だけでしょうか!

 心の中で菅原様にギャースカ叫んでいると、ふとどこからか強い視線を感じた。

 不思議に思ってくるりと振り返れば、視界に入ったのは窓越しに見える2組のバス。

 そしてそこには、窓にぴったりと両手を付けてこちらへ微笑む――敬太様の姿があった。



(だ、大魔王様が降臨なされたぁ!?)



 その凄みのあるエセ王子スマイルにビビった私は、すぐに視線を逸らして気付かないフリを装った。

 けれど、グサグサと突き刺さる視線の強さは変わらない。



(こ、怖いよう……!)



 私はダラダラと冷や汗をかきながら、しばらくその視線と菅原様の過保護っぷりに耐える事となったのだった……。




***




 途中で2回ほど休憩を挟みつつ、バスは無事に目的地である高級ホテルへと到着した。

 幸い、薬(家で飲んできた)が効いたようで、もう頭痛や悪寒は全く感じない。



「……もう大丈夫そうだな」


「はい。ご心配をおかけしました」



 どこかホッしたような菅原様の言葉に笑顔を返しつつ、私は手荷物を持ってバスから降りる。大きな荷物については、後からホテルの従業員さんたちが各部屋まで運んでくれるので安心だ。

 けれど、今はそんな事より……。



(早く見たいなぁ、真凛ちゃんのお姫様抱っこイベント!)



 私は胸をドキドキと高鳴らせながら、チラチラと2組のバスの方へと視線を向けた。

 ……けれど、降りてくる生徒たちの中にまだ二人の姿はない。



「……遅いですわね」



 しびれを切らした私が思わずボソリと呟いたその時、やっと敬太様がバスから降りてきた。

 ……けれど、その腕の中に真凛ちゃんの姿はない。



(アレ?)



 おかしいな、なんでお姫様抱っこしてないんだろう……と首を傾げていると、ふと顔を上げた敬太様とバッチリ目が合ってしまった。

 その瞬間、朗らかだった敬太様の雰囲気が一気に黒く染まる。



(……や、やばい!)



 なんとなく嫌な予感がした私は、こちらへ向けて歩き出した敬太様から逃げるべく咄嗟に背を向ける。が。



「……あ、きゃぁっ!?」


「ふふ、逃げようとするなんて酷いよ。……ね、星華」



 次の瞬間、あっという間に距離をつめてきた敬太様にガッシリと肩を掴まれていた。

 しかも、そのまま流れるように自然な動作でお姫様抱っこをされる。

 一瞬身体のバランスが不安定になった私は、ついつい敬太様の首に手を回し……ってどうなってんのコレー!?



「け、敬太様!?皆さん見ていますわ、恥ずかしいので降ろしてくださいませ!」


「だーめ。いま降ろしたら星華は逃げちゃうもん」


「当然ですわ!」


「ほらね?だからダメー」



 敬太様の腕の中でジタバタと暴れる私に悪戯っぽく笑いかける敬太様。

 しかし、微かに怒気を孕んだその瞳は語る――『逃げられると思うなよ』、と。



(ひ、ひぃぃいいいいい……!)



 思わず真っ青になった私は、すぐにハッと我に返った。

 なんか、あまりにも驚き過ぎて(あと敬太様の動きがスムーズ過ぎて)一瞬忘れかけてたけど、今ってイベントの真っ最中だよねコレ!?

 それなのに――



(なんでヒロインの真凛ちゃんじゃなくて悪役の私を抱き上げてんのこの人!!)



お前がお姫様抱っこする相手は私じゃない、真凛ちゃんなんだ!さぁさっさと私を降ろして真凛ちゃんを抱きしめに行って来い!!……なんて心の中で絶叫するけれど、当然の事ながら敬太様には伝わらない。

さてどうやって説得しようと私が頭を抱えたその時、



「……長谷川!」



 そんな切羽詰まった声と共に、真凛ちゃんを呼ぶ声が聞こえた。

 え、誰?と思いながら俯いていた顔を上げれば、そこにはグッタリとした真凛ちゃんに駆け寄る――菅原様の姿。



(す、菅原様ぁぁあああああ!)



なんて、なんて男前なんだお前は!たとえ別のクラスであろうと、具合の悪そうな友達がいたらすぐに走り寄って助けるなんて普通できないよ!!感動した!!

でもごめんね、正直その役目は敬太様に譲って欲しかった!!



(くっそぅ、またイベント失敗か……)



 心配そうに真凛ちゃんへ声を掛ける菅原様を見ながら、私はガックリと項垂れた。

 ほんと、恋のキューピッドも楽じゃない……。

 思わず深い溜息をつくと、



「どうしたの?」



と言いながら敬太様がこちらへ楽しそうな笑顔を向けてきた。

えぇい、そのエセ王子スマイルを私に向けるんじゃない!背筋が寒くなるわ!なんて心の中で叫びながら敬太様を睨み上げていると、真っ青な真凛ちゃんを抱き上げた菅原様がこちらへと歩いてくる。

それに気付いた敬太様は、少し不機嫌そうな表情をしながら私ごと菅原様の方へ向き直った。



「……西園寺の婚約者だったな。ちょうどいい、悪いがそのまま俺と一緒についてきてくれ」


「何故ですか?」


「……出発前、西園寺は体調を崩していたから」



 今は薬が効いているみたいだが、大事を取って休ませた方がいいと思う。

 淡々と紡がれる菅原様の言葉に反応した敬太様は、驚いたような表情で「そうなのか?」と私の顔を覗き込んでくる。

 私はそれを笑顔で誤魔化しながら



(余計な事言わないでよ菅原様の馬鹿ぁ!)



 と心の中で絶叫したのだった……。




ここまで読んでくださり、ありがとうございました。

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