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死にそうな目にあいました

 もちろん副委員長になんかなりたくなかった私は、なんとか遠回しに断ろうとした。

 でも、



『…………西園寺』



 俺の背中を押したのはお前だろう、最後まで見届けろ!という菅原様の無言の圧力には勝てず、結局は引き受けることに。



「……西園寺。明日のオリエンテーション合宿について話があるから、このあと職員室に来いと高橋先生が」


「……わかりましたわ」



 淡々と連絡してくる菅原様を睨みつけたい気持ちを押さえつつ、私は頷いて立ち上がった。

 委員長と副委員長が速やかに決まったので、私たちのクラスは他のクラスよりもかなり早い解散となった。

 今この教室に残っているのは、私と菅原様の二人だけ。



(あーあ。入学早々、面倒な事になったなぁ)



 もちろん、決まったからには副委員長の仕事もしっかりやるつもりだ。

 けど正直なところ、やらなくて済むならやりたくなかったというか。



(こっちは今年、『悪役(恋のキューピッド)』という重要な役割を果たさなきゃいけないんだよ!副委員長の仕事と重なって大事なところで動けなくなったらどうしてくれる!!)



 私は心の中で愚痴りながら、荷物を持って菅原様と共に教室のドアを開ける。

 と、そこで。



「…………ぁ」



 ある可能性に気付いた私は、小さく声を上げてしまった。



「……どうした。忘れ物か」


「い、いえ。大丈夫ですわっ」



 私は慌てて取り繕いつつ、内心で冷や汗をたらりと垂らす。

 ――気付いたのは、今日の帰りも敬太様が待ち構えている可能性。

 今朝も校門の前で私のことを待ち構えていた敬太様だもん、可能性はなきにしもあらず。



(……っていうかやばい!副委員長になったショックが大きすぎて、敬太様のことすっかり忘れてた!)



 私は心の中で頭を抱えながら、教室の外へと足を踏み出した。

 ま、まぁ、私も敬太様も車で登下校してるしね?さすがに一緒に帰るって言い出すはずがないよね!……っていうか言い出さないでくださいお願いします!!

 必死にそう念じながら、菅原様の後ろを歩き出そうとしたその時。



「せーいかっ!……どこへ行くのかな?」



 そんな声と共に、後ろから腕が巻き付けられた。

 ……ただし腰まわりとかお腹のあたりではなく、『首』に。



(……神様なんていないんや)



 私は頭の中が真っ白になるのを感じながら、身体が震えるのをこらえつつゆっくりと振り向いた。

 視界に入るのは、白を基調とした雪城学院の制服。

 一年生である事を示すえんじ色のネクタイ。よく均整の取れた身体。

 ……そして、極上の微笑みを顔に浮かべた我が婚約者サマの姿。



「ぁ、け、敬太様……!」


「やっと俺のクラス、ホームルームが終わったよ。一緒に帰ろう?」



 首を絞められないようにと向かい合った腕の中、敬太様は完璧すぎる王子様スマイルを浮かべている。

 ……たまたま廊下に居合わせた女子生徒がその笑顔を見て真っ赤になってらっしゃいますが、思わず寒気がしちゃうのは私だけなんですかねー?

 なんだか残念な気持ちになりつつ、私は小さく溜息をついた。



「すみません敬太様。今日は一緒に帰れそうになくて……」


「え?何かあったの?」


「はい。副委員長になってしまいまして……」


「へぇー?さっきの彼と一緒に?」



 その途端、エセ王子の完璧な笑顔に一瞬だけ黒いモノが走ったのを私は見逃さなかった。

 その視線の先にいるのは、私と一緒に職員室へ行こうとしていた菅原様だろう。

 うーわ、わざわざ引き離したのに早速出会っちゃってるしここの二人!

 しかたない、菅原様は私の屍を越えて先に行っていてください!ここは私が食い止めます!!

 そんなバカな現実逃避をしながら、ふと冷静になったところで――私はものすごい羞恥心に襲われた。



(ちょ、ちょっと待って!今この状況はヤバくないか!?)



 人通りの多い廊下。首元に回された腕。いつもより近いお互いの距離。

 そして目の前にいるのは、(外見だけは)完璧な王子様。



「――――ッ!!」



 ちょ、無理無理無理!なにこの羞恥プレイは!?

 入学式早々からこれってどうなんだよオイ!リア充爆発しろって言われるよ!?いや私たち別に付き合ってないけどさぁ!

 私は耳まで真っ赤になりながら俯くと、敬太様の胸に手をついて離れようとした。

 あぁ、視線が痛い!こっちをチラチラ見てるみんなの視線が痛いよちくしょー!!と思いながら、両手に力を込めて距離を作ろうとする。が。



「あははっ、耳まで真っ赤になっちゃって。可愛いなぁ」


「ぷぎゅっ」



 直前、私の後頭部へと手を添えた敬太様がそのまま力を込めてきた。

 その強い力に抗えず、私の顔は敬太様の胸元にムリヤリ埋められる。

 衝撃に呆けていた私に次の瞬間訪れたのは、敬太様から香る爽やかなコロンの匂いと――過酷すぎる圧迫地獄だった。



(ちょ、痛い痛い痛いってば!!)



 敬太様の堅い胸と後頭部に回された手によって頭をサンドされた私は、鼻が折れるような衝撃に涙目になった。

 しかも、押しつけられた場所が胸というより肋骨&筋肉っていう特に堅い場所なんだよね!めっちゃ痛いよこんちくしょう!!



(い、いかん!このままじゃ顔を潰されてしまう!)



 なんとなく嫌な予感がした私は、圧力から逃れるべく正面に向けていた顔を上に向ける。

 すると、ちょうど鼻の穴がブレザーで塞がれるという緊急事態が発生した。



「ん、んんっ」


「ほらほら、恥ずかしいからって暴れないの」



 とうとう本格的な命の危機を感じた私は、全身を使って敬太様から逃れようともがいた。

 しかし、敬太様はそれを全く気にしないどころか、余裕の表情で私の動きを抑え込んでしまう。



(ちょ、テキトーなこと言わないでよ!こっちは真剣にヤバいんだってば!!)



 このドS野郎め!お前なんか……えぇと、とりあえずハゲろ!なんて心の中で口汚く罵り始めたそのとき、



「「あーッ!!」」



 という女子二人分の高い声が聞こえてきた。

 おそらくその声に驚いたのだろう、その瞬間少しだけ敬太様の力が弱まる。



(チャーンスッ!!)



 咄嗟に私は身体を捻ると、敬太様の腕から素早く脱出した。

 こちらをドS全開の笑顔で見つめてくる敬太様は見ないフリをしつつ、私は声のした方へ視線を向ける。

 そこにいたのは――なんと、真凛ちゃんと八車さんの二人だった。

 予想外の組み合わせに驚いていると、真凛ちゃんがこちらへと駆け寄ってくる。



「あの、大丈夫ですか!?」


「は、はい。助かりましたわ……」



 もう少しで窒息するところでした、えぇ本当に。

 解放されてホッとしていると、真凛ちゃんは私に改めて自己紹介をしてくれた。

 確かに、私が一方的に真凛ちゃんの名前を知ってるだけだし、本来ならお互いの名前すら知らないような間柄だもんね。

 ついでに気になったので、どうしてこのタイミングで二人が助けてくれたのか聞いてみたところ、驚きの答えが返ってきた。



「私と真奈ちゃん、さっきメールで菅原くんから頼まれたんです!西園寺さんを助けてやってくれって!!」


「まぁ、菅原様がですか!?」



 驚いた私は、その情報に思わず目を見開いた。

 なんでも3人は、全員が高等部から雪城学院に入った『外部生』という共通点で意気投合していたらしい。

 そして今回は、敬太様に色々されている私を見た菅原様が『自分にはどうにもできない』と判断。

 二人に応援要請を出したらしい。

 じゃあ今、敬太様は……?と思った私がそちらを見ると、



「はじめましてー!貴方のクラスと名前を教えてくださーい!!」


「えぇと……はじめまして。おれは、2組の西山敬太です」


「おぉ、隣のクラスですか!……それではズバリ、西園寺さんとはどんなご関係で!?」


「婚約者です」



 ……なんか、八車さんが敬太様を質問攻めにしていた。

 すごい、すごいよ八車さん!あの鬼畜王子を質問の嵐で黙らせるなんて!!

 わぁ、会話の主導権が握れなくて敬太様がちょっと困ってる!



(やーいやーい!悪い奴には罰が当たるんだよぉーだ!!)



 笑顔で私を窒息させようとした罪、きっちりと思い知るがいい!

 ……なんて心の中で大喜びしていると、退避していたらしい菅原様がこちらへとやってきた。



「無事だったか。……すまないな、俺が助けられたら一番手っ取り早かったんだろうが」


「菅原様!いいえ、仕方ないことですわ」



 私は首を振ると、真凛ちゃんと八車さんに連絡を取ってくれたことにお礼を言った。

 っていうかお互い、今日は俺様王子に迷惑かけられっぱなしだよね。菅原様にいたっては言いがかりに近いものばかりだし。

 今度密かに『エセ王子様被害者の会』とか作ってみようかなーなんてぼんやり考えていると、緊張気味の真凛ちゃんに声をかけられた。

 一体なんだろうと首を傾げれば、切羽詰まった表情で彼女は一言。



「その、あの……っ。

もし良ければ、私と友達になってもらえませんか!?」



 ……もちろんですともッ!!



なんだか、ヒーローであるはずの敬太の鬼畜っぷりに段々と磨きがかかっている気がします……。

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