後押ししてみました
今日はちょっと文章少なめです。
自分のクラスを見渡して気付いた衝撃の事実。
なんと、親切さん改め菅原大河様は私のクラスメイトでした。
その上、番号順によって決まった私の席は彼の前。
……これはもう、いくら『関わるな』って言われたって無理だと思う。
(いや、でもこれは不可抗力だって!『西園寺』と『菅原』だもん!)
文句を言うなら私の苗字に言ってね敬太様!なんて考えつつ、私はゆっくりと席から立ち上がった。
ちなみに現在、私のクラスでは自己紹介の真っ最中である。
「皆様はじめまして、西園寺星華でございます。いろんな方とお友達になりたいので、気軽に声をかけてくださいね」
なるべく明るく、ゆったりと話すように心がける。
外見が大和撫子な上に大仰な名前が付いているせいか、私って結構敬遠されがちなんだよねー。
中身は普通なので、ホント気軽に話しかけてほしい。
そう思いながら席に座ろうとすると、
「はいはーい、西園寺さんに質問でーす!」
元気な声とともに、教室の隅で勢いよく手が挙がった。
驚いてそちらへ視線を向ければ、少しボーイッシュな雰囲気の女の子がキラキラした目でこちらを見つめている。
その青みがかったショートカットを見た瞬間、私は彼女が誰なのか気付いた。
――八車真奈様。
情報収集を得意とする彼女は、『天シン』の登場人物である。
『天シン』では、西園寺星華こそが長谷川真凛をいじめている張本人であると突き止める人物でもある。
そんな人から、入学早々なんの質問が――と思ったその時。
「さっき西園寺さん、桜の木の下で誰かと抱き合ってましたよね!お相手は誰なんですか!?」
あまりにもストレートな発言に、思わず私は吹き出しそうになった。
(いや、まぁ、気になるのは分かるけどさぁ……!)
初対面の上、クラス中に注目された状態でそれを言えるとは。真奈様って、ある意味勇者なのかもしれない(もちろん悪い意味で)。
その真っすぐさに感心しつつ、口を開こうとしたその時。
「ハイ八車さん、そこまで。自己紹介の時間がなくなるから、その質問はまたあとで個人的にしてくださいね」
黙って聞いていた担任の高橋先生が、そう言って興奮する八車さんを抑えてくれた。
(ありがとうございます、高橋先生!)
なんとなく答えにくかった私は、心の中で高橋先生を拝んだ。
……ちなみに、この学校の半分以上の人は『見つめあっていた人=敬太様』だと知っている。
敬太様はもちろん私もパーティーなどにはそこそこ出席している上、婚約披露パーティーを昨日開いたばかりなのだ。
上流階級の子女が多く集まるこの学校においては、むしろ知らない人の方が珍しい。
(だから、『婚約者です』って即答しても良かったんだけどね……)
私は苦笑したまま、こんどこそ自分の席に腰を下ろす。
ふと頭をよぎったのは、
(私が婚約者だって即答しなかった事、敬太様が知ったらなんて言われるのかな……)
という疑問と不安だった。
***
無事に全員の自己紹介が終わり、次は委員会決めとなった。
「明日からオリエンテーション合宿ですからね。他の委員会はともかく、学級委員長と副委員長だけは今日中に決めたいと思います」
そんな高橋先生の言葉を聞き流しつつ、私は黒板に目を向ける。
(んー、何にしようかな)
清掃委員とか楽そうだけど、本が好きだから図書委員ってのもアリかなぁー。
クラスに広がった喧騒をぼんやりと聞きながら私が頭を悩ませていると、不意に後ろから肩を叩かれた。
振り向けば、そこには眉間にシワを寄せた菅原様。
「どうされました?」
「いや……委員会が決まらなくてな」
「あぁ、菅原様もですか」
私は頷いて相槌を打つと、とりあえず菅原様の趣味や好きなことを聞いてみた。
なんせこの人、自己紹介の時に
『出席番号16。菅原大河。よろしく』
としか言わなかったのだ。
これだけの情報では、菅原様に向いた委員会なんて分からない。
そう言うと、菅原様は首を横に振った。
「いや……そういう事ではなくてだな」
気まずそうに口ごもった彼は、黒板の『学級委員長』の字へ一瞬だけ視線を移し、すぐに下を向いてしまう。
その挙動不審な様子を見て、私はなんとなく察してしまった。
(あぁ。この人多分、学級委員長になりたいんだ)
私だって、伊達に小さな頃から社交界に出ているわけではない。これでも人の表情を読むのは結構得意だったりする。
その結果、彼から感じたのは――不安だった。
(学級委員長になりたい。けれど、自分にクラスメイトがまとめられるかどうか自信がない……ってところかな)
そう思った私は、菅原様を応援すべく彼に声をかけた。
さっき気遣ってもらったお礼も兼ねて、いっちょ『おだてて自信をつけちゃうぞ作戦』をやってみますか!
「菅原様。もし迷っていらっしゃるなら、学級委員長はどうですか?」
「……は?」
パッと顔を上げた菅原様は、戸惑ったようにこちらを見つめた。
しかし、その瞳は期待でキラキラと輝いている。
「いかがでしょう?菅原様はとても真面目な性格のようですし、その上細やかな気遣いができる方だと思いましたのでオススメしてみたのですが」
「いや……しかし、俺なんかに委員長など務まるかどうか」
「『俺なんか』と自分を卑下してはいけませんわ」
私は菅原様をまっすぐ見つめ返すと、しっかりと頷いた。
「少なくとも、私はそう信じております」
「そ……そうか」
私の言葉に、仏頂面のまま菅原様。
しかし少しだけ口元が緩んでいるあたり、恐らくとても喜んでいるのだろう。
(よし、作戦成功!かな?)
その表情になんとなく達成感を感じていると、不意に菅原様が首を傾げた。
「ところで、お前は?」
「え?何がでございますか?」
「委員会の話だ。……もう決めたのか?」
「いえ。候補はいくつかあるのですが、まだ決まっていなくて」
正直に答えると、菅原様は「そうか」と小さく頷いた。
まぁ最悪、最後に残った委員会でもいいんだけどね……と思ったその時、高橋先生が口を開いた。
「よーし、じゃあそろそろ決めていきたいと思います」
その言葉に反応した私は、身体の向きを正面に戻すと姿勢を正した。
視線の先には、チョークを持った高橋先生。
「それでは、まず学級委員長。誰かいますか?他薦でもいいですよー」
そう言ってクラス内を見回す先生の目には、明らかに諦めの光が宿っていた。
そりゃそうだ。わざわざ面倒くさい学級委員長に立候補する人なんてそうそういないのだから。
――ただし、今回に限り別だけど。
「……俺、やります」
私の後ろから、凛とした声が響いた。
それに気付いた高橋先生は、驚いた表情で声のした方を見つめる。
「菅原君……だったね。じゃあ頼んでもいいですか?」
「はい」
立候補したのは、もちろん菅原様だった。
真っすぐ前を向くその表情は、少し緊張気味な仏頂面。
(よし、よく言った!)
私はその横顔を見つめながら、心の中で喝采をあげた。
なんとなく嬉しくなった私は、菅原様と目が合うとにっこりと微笑んでみせる。
気分はそう、成長していく雛鳥を見守る母鳥。
――そんな風に浮かれていたから、私はその厄介事を回避できなかったのかもしれない。
「……それと、先生」
「なんですか?」
笑顔を扇子(いつも常備してます)で隠す私の視線の先、菅原様がしっかりとした口調で先生に告げる。
曰く、
「副委員長に、彼女――西園寺さんを推薦したいと思うんですが、どうでしょうか」
……エ?ナンダッテー?
今朝見たら、この小説がセカンドランキングとジャンルランキングの日間1位になっていました。
正直、こんなにたくさんの方に読んでいただけるとは思っていなかったので、とても驚いています←
これからも、読者様のいい暇つぶしになるように頑張って書いていきたいと思います!