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写真を撮ろうとしました。

 主に私が原因で、原作である『天然シンデレラ』からかけ離れた状態になってしまった現在。わたくしわたくしによるわたくしのための、悪女に認定されるべく立案した作戦――その名も悪女作戦――は、とってもシンプルな内容となった。



 方法は簡単。明日の放課後、敬太様と真凛ちゃんがイチャイチャしている現場をスマホで撮影し、新聞部の部長へその写真データを送り付ける。それだけである。



 この作戦の最も重要なポイントは、撮影した写真を真奈ちゃんではなく部長さんへと渡す事。

 新聞部の部長は三度の飯よりゴシップが好きだと原作でも現実世界でも有名な方なので、私が写真を渡せば大喜びで翌日には号外を出してくれるだろう。そうすれば、原作通りに真凛ちゃんと敬太様は叩かれることになる上、新聞部へ写真を送りつけた私は晴れて悪女になることができる!

 もちろん、写真を渡す時は匿名である。すぐに私だってバレたら意味が無いからね。

 ……というわけで、翌日の放課後。私は悪女作戦を実行するべく、スマホ片手に社会科準備室を訪れていた。

 なぜ社会科準備室へやって来たかというと、真奈ちゃんからここが『敬太様と真凛ちゃんの浮気現場がバッチリ写真に納められる当たりスポット』だと教えてもらったからだ。



「ふふっ、真奈ちゃんにさりげなく撮影スポットを聞いて良かったですわ。このような場所から撮影するなど、考えてもいませんでしたもの」



 私は上機嫌で呟きながら、社会科準備室の扉をガラリと開けた。

 ちなみに、真奈ちゃんからこの教室について教えてもらえなかった場合や真奈ちゃんがこの社会科準備室(当たりスポット)を知らなかったりした場合、私はたまたまその場に居合わせたフリをして通りすがりに二人の様子を激写するつもりでいた。今から考えれば、よくまぁそんな杜撰ずさんな考え方をしていたもんである。それで失敗して、二人に私が写真を撮っていたことがバレていたらどうする気だったんだろう。

 そんな事をつらつらと考えていた私は、部屋の中でガタガタという音がしたのにも全く気づかず、軽い足取りで準備室の中へと入っていく。そして、



「さて、それではササッと撮影して帰りましょう!」



 私はそう一人ごちると、握っていたスマホのカメラアプリを起動した。そして、ドキドキしながら画面を覗き込む……が。



「あ、あら?そういえば、二人のいる教室ってどこなのかしら……」



 スマホを構えたまま、私はあれ?と首を傾げた。

 そういえば私、二人が会っているらしい教室の場所はちゃんと確認したけど、社会科準備室の窓から見てどこの教室かっていうのは確認してなかったような……。

 私がうんうん唸りながら校内の地図を思い浮かべようとしたその時、左下に並んでいた窓の一つでモゾモゾと影が動いているのに気付いた。

 慌てて画面を拡大すれば、そこには探し求めていた敬太様と真凛ちゃんの姿が!



「き、来ましたわっ!」



 私はグッ!とガッツポーズをすると、目をキラキラさせながらそちらへとカメラを向けた。

 ……けれど、夕日が窓に反射して顔の部分が上手く写らない。



(うーん、写真って難しいなぁ。まぁ、まだあの様子だとまだ楽しくお喋りしているだけみたいだしまだいいかな。そこから敬太様が押し倒すなりキスするなりするなら、確たる証拠としてバッチリ激写したいところだけど……)



 そんな風にあれこれ考えながらスマホと格闘する事数分。

 ふと名案を思い付いた私は、バッと顔を挙げた私は、明るい顔でポンと手を打った。



「そうですわっ、この写真が上手に撮れたらお父様にも見せませんと!『天シン』よりもかなり早いですけれど、きっと婚約は破棄できるに違いありません!二人のためにも、邪魔者は早々に消えるに限りますわよね!」



 そう考えた私はいっそう気合を入れると、再びスマホを構えて二人のいる窓の方へ向き直った。

 最近少し忘れかけていたけれど、元々私の目的は『敬太様と真凛ちゃんの恋愛を近くで見守る事』だったはず。

 『悪女になる』というのはそのための手段・・であり、別に目的・・では無いのである。

 ならば、真凛ちゃんや真奈ちゃんと友達になれた今、私がこのまま敬太様と婚約している理由は無い。

 悪役を目指す理由には『二人の恋を(悪役となって)盛り上げる』というのもあったけれど、今回の作戦が成功すれば二人の仲もいっそう親密になるだろうし、まぁ元婚約者という立場があるから妨害役もなんとかなるだろう。……多分。



(密会するまでに二人の仲が進んでいる今、あとは二人の仲がさらに深まるようにお手伝いするだけだしねー。敬太様の婚約者として悪役を目指す理由が無くなったなら、さっさと撤退するに限るでしょう)



 私がそんな事を考えながらスマホをギュッと握りしめたその時、ガラリと音を立てて社会科準備室の扉が開いた。

 驚いてそちらを振り向けば、



「……西園寺、か?こんな人気のない教室でいったい何を…?」



 そこに立っていたのは、目を軽く見開いた菅原様だった。



(ど、どうしよう!?)



 誰も入ってこないだろう、と考えて準備室の鍵をかけなかった過去の私を殴りたい。

 私はダラダラと冷や汗をかきながら、なんとか誤魔化そうと口を開いた。



「え、と、……カ、カラスの写真を撮影しようと?」

「……カラスなんて見当たらないけど」

「い、今ちょうど飛び立ってしまったんですの!」



 すみません、嘘です。カラスなんて最初からいません。私が撮影してたのは鳥なんかじゃなく、そこの窓から見える敬太様と真凛ちゃんなんです――なんて言えるはずもなく。



「……ふーん、そうなんだ?」



そう言って向けられる菅原様の疑わしげな視線から必死に目を逸らす。



(あーあ、終わった……)



 うまく写真は撮れないし、写真を撮ろうとしてる現場は見られちゃうし。 私って本当にダメだなぁ……自己嫌悪に陥っていると、菅原様が先に口を開いた。

 しかしそれは意外にも、私の今の行動を追求する言葉ではなかった。



「……それで。西園寺はもうカラス撮影は終わったのか?」


「え?は、はい……」



 予想外な質問をされて、私はキョトンとしながら一つ頷いた。



「じゃあ、一緒に教室まで来てくれ。なんか知らんが、八車が用があるらしくてな」


「真奈ちゃんが?分かりましたわ」



 私は二つ返事で了承すると、菅原様と連れ立って社会科準備室から出た。写真が撮れなかったのは悔しいけど、また明日にでもチャレンジすればいいもんね!

 ……なぁんて思っていたのだが。



「本当に、本っ当にすみませんでした!」


「えぇと……?とりあえず顔を上げて説明してくださいますか?

 ――真奈さん」




 その数分後、私と菅原様の後から教室へ入ってきた真奈ちゃんから深く頭を下げられた事で、事態は大きく急変するのであった。

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