噂話を聞きました
かるーく書いたので短めです。
無事にオリエンテーション合宿も終わり、数日後のお昼休み。
まだまだ不慣れながらも高等学校の生活を満喫していた私は、学食を食べながら聞かされたその噂話に思わず目を見開いた。
「まぁ、啓太様と真凛さんが恋仲であると――そんな噂があるのですか!?」
「う、うん。そうなんだ……」
聞き返す私に、そう言って眉を寄せるのは情報通の真奈さん。彼女は原作通り新聞部に入部したらしく、『新聞部期待のエース(おもにゴシップ方面で)』などと呼ばれているのだそうだ。
そんな彼女から直接聞かされた情報だし、恐らく間違ってはいないだろう。
「その、まだこれは証拠を掴んでないんだけど、どうも放課後に空き教室で二人っきりの時間を過ごしているらしくて……」
「素晴らしいですわ!」
「西山くんと西園寺さん仲良かったし、ショックだとは思うけど……って、えぇぇ!?なんかとっても喜んでる!?」
「そ、そんな事ありませんわよ?」
私は小躍りしそうになるのをこらえつつ、手に持っていた扇子でにやけた口元を慌てて隠した。いかんいかん、ここで私が喜んだら色々とマズい事になる!
私は仕切りなおすように咳払いをすると、真奈さんの方へ向き直った。
「真奈さん。申し訳ありませんが、一つ頼まれてくれませんこと?」
「うん。分かってるよ、この噂の真偽を確かめて欲しいってことでしょ?」
「えぇ、そうですわ」
「それはいいよ。新聞部としても気になるネタだからね。でも、これだけは覚えていて。……もしこれが本当だったら、私は容赦なくこれを記事にする」
「えぇ、もちろん構いませんわ」
「え……?」
二つ返事で頷いた私に、真奈さんは拍子抜けしたように首を傾げた。
……まぁ普通なら、『婚約者が別の女に懸想をしている』なんて外聞の悪い噂はすぐに揉み消そうとするだろう。
しかし、私は西園寺星華。啓太様と真凛ちゃんの恋の障害となり、二人の恋を成就させるべく裏で頑張る悪役なのだ!
(……っていうか、これも二人の恋を盛り上げるイベントの一つだしねぇ)
こんな重要なイベント、誰が逃すもんですか――私は心の中でそう呟きながら、漫画の展開を思い出した。
――オリエンテーション合宿をキッカケに、真凛ちゃんの事が気になり始める敬太様。そんな彼は、なんだかんだと理由をつけて放課後に真凛ちゃんと会うようになる。
しかし、それを新聞部がスクープとして取り上げられてしまいさぁ大変。
敬太様は『婚約者である星華さんを差し置いて何をやっているんだ』と親から叱責を受け、真凛ちゃんは真凛ちゃんで『庶民のくせに、婚約者までいる敬太様をたぶらかした悪女』として罵られるという憂鬱な日々が始まってしまう。
そんな時、二人を救うべく現れるのが――なにを隠そう、私こと西園寺星華である。
星華は嫌がらせを受けている真凛ちゃんを颯爽と助けると、泣きながら感謝の言葉を述べる真凛ちゃんに『友達になってくださいな』と言ってハンカチを差し出す。そうして真凛ちゃんからの信頼を得ると、瞬く間に学院内での騒ぎを収束させてしまうのだ。注意を受けていた敬太様のことも完璧なまでにフォローし、この事件は終了となる。
――だがこの騒動の全ては、本当の黒幕である『西園寺星華』の仕組んだ出来事だった。
(確か原作では、敬太様と真凛ちゃんのネタを新聞部まで持って行った張本人って星華なんだよねー)
偶然二人が放課後に会っているところを見てしまった星華は、怒り狂った末に証拠写真を持って新聞部を訪れる。そうしてスクープ騒ぎで二人が苦しむところを確認してから、涼しい顔をして二人を助けるのだ。
全ては、『悪女』のレッテルを真凛ちゃんに押し付け、自分の方を振り向かなくなった敬太様へ『警告』を促すため。
そして、そうやって二人の恋を協力するフリをして――二人の仲を破滅させるため。
(……まぁ、この騒動のおかげで二人とも自分の恋心に気づき、甘くてじれったい両片思いな関係が始まるんだけど)
二人の仲を裂こうとして逆にくっつけちゃうなんて、原作の『星華』ってば盛大に空回りしてるよなぁ……なんて思いつつ、私は首を捻っている真奈さんを納得させるべく口を開いた。
一瞬浮かんだ、『引き裂こうとしてくっつくなら、逆にくっつけようとしたら不仲になったりしないよね……?』という、非常に不吉な発想を頭の片隅に押しやりながら。
原作の星華も空回りしていますが、この星華ちゃんもたいがい空回りしていると思うに一票w




