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作戦に失敗しました

新年あけましておめでとうございます。

不定期更新予定です。

お暇つぶしにでも読んでくだされば嬉しいです!



 誰にだって、人に知られたくない秘密の一つや二つはあると思う。

 それは自分の性格だったり、過去の黒歴史だったりと様々だ。

 けれど、私の場合は――



「……さん、星華さん?」


「ッ!?」



 心配そうな声に呼びかけられて、ハッと私は我に返った。

 慌てて周囲を見回せば、こちらを気遣わしげに見つめている一人の男と目が合う。

 ……そこでやっと私は、今まで自分の婚約披露パーティーに出席していた事、体調不良を理由にお客様への対応を一時的に両親に押しつけ、控室として割り当てられたホテルの一室へ引っ込んできた事を思い出した。

 そして、『心配だから』と言ってここまで付き添ってくれた男の存在も。



「大丈夫?なんか、心ここにあらずって感じだったけど」



 大きな漆黒の瞳が、私の体調を窺うように細められる。

 そのまま男が首を傾ければ栗色の柔らかそうな髪がサラリと揺れた。

 穏やかな声。そして、まるで人形のように整った綺麗な顔立ち。



 ――西山敬太(ニシヤマ ケイタ)様。



 彼は自動車などの工業製品を中心に戦後の日本を支えた世界的企業『NISHIYAMA』の御曹司であり、今日の婚約披露パーティーで正式に私の婚約者となった人だ。

 温厚で優しい性格の上に学業も優秀で、スポーツも万能。

 まさに完璧な『王子様』……なのだが。



(誰が、そんな演技に騙されるもんですかーッ!!)



 私はさりげなーく彼から視線を外しながら、心の中で絶叫した。

 色々と事情があって、私はその『王子様キャラ』が完全に演技だと知っているのである。

 ついでに、その本性はとても強引な俺様キャラである事も。



「――敬太様」



 私は手に持っていた扇子で口元を隠すと、さりげなく視線を巡らせ、この部屋にいるのが自分と敬太様の二人だけだと確認する。

 そして、相手が油断するように控え目な微笑を作った直後――



「気持ち悪いからその優しいフリはやめてくださいませ!このエセ王子っ!!」



 私はビシッ!と素早く扇子を畳むと、それを彼の眼前に突き付けた。



「……え、あの?」



 突然豹変した私に驚いて、思わず固まってしまう敬太様。

 それを見て、私は誰もが後ずさるであろう悪人顔でニヤリと笑ってみせる。

 ……客観的に見れば。私は『体調を心配してくれている婚約者に突然キレる女』にしか見えないだろう。いや、実際そうなんだけど。



(ごめんなさいね、敬太様……)



 私は硬直している彼を見ながら、心の中で謝る。

 だけど、仕方ない。

 どんなに心が痛くても、私には敬太様と不仲にならなければならない理由があるのだ。



 ――西園寺星華(サイオンジ セイカ)、15歳。

 西園寺家の長女という超お嬢様な私の秘密とは、『前世の記憶を持っている』という少し特殊なものだった――。




***




 私がその記憶を思い出したのは、昨日のこと。

 自分の部屋で翌日に控えた敬太様との婚約披露パーティーについて考えていた時、ふと並んで書かれた自分と敬太様の名前を見て



(西山敬太、西園寺星華……。

これってもしかして、『天然シンデレラ』に出てきた名前じゃなかったっけ!?)



 などと考えたのがキッカケだった。

 ……しかし直後、私は咄嗟に浮かんだその考えにとても困惑した。

 それもそのはず。生まれてこのかた、私は一度も『天然シンデレラ』という言葉を聞いた事がないのだ。

 それなのに、二人の名前が並んでいるのを見た瞬間に『天然シンデレラ』なんてキーワードが浮かぶなんて。



(どうしてだろう?……何か、重要な事が思い出せそうなんだけど)




 なんだか頭の中がモヤモヤした私は、混乱する頭をフル回転させる。

 そうして思い出したのが――未だに自分でも信じられないけれど――自分の前世の記憶だった。



(あー……。妙に聞き覚えのある名前だなぁとは思ってたけど、そういう事だったのか)




 前々から自分の名前に対してなんとなく違和感を感じていた私は、少なくない衝撃を受けながらもその事実をすんなりと受け止めることができた。

 そして同時に、先ほどから気になっていた『天然シンデレラ』がどんなものだったかも思い出す。



――『天然シンデレラ』、通称『天シン』。




 それは、前世でなかなかの人気を誇っていた少女漫画のタイトルだ。

 ド庶民な主人公・長谷川真凛(ハセガワ マリン)が超お金持ち学校へ入学し、『王子様』と呼ばれる男子・西山敬太と恋に落ちる……というのが大まかなあらすじ。

 話の流れは王道恋愛モノなんだけど、天然ボケな真凛ちゃんと西山敬太との会話がとにかく面白かった覚えがある。

 しかし、それなら自分は『天シン』でどんな人物だっただろうかと考えた瞬間……



(う、嘘でしょ……!?)



 私は、思わずその場で頭を抱えたくなった。

 何故なら、西園寺星華といえば『天シン』で最も嫌われていたキャラ――つまり、完全な悪役だった事を思い出したから。



(えぇ!?ちょ、ちょっと待ってよ!)



 前世の記憶を思い出した事よりも強い衝撃を受けた私は、慌てて西園寺星華についての記憶を掘り起こした。

 そうして思い出したのは、真凛ちゃんと敬太様が仲良くなってきてから『敬太様の婚約者』として登場する星華のこと。

 大和撫子そのまんまな容姿を生かし、優しい笑顔で真凛ちゃんに近づく星華。

 しかし、裏では真凛ちゃんに様々な嫌がらせをしている星華。

 そしてそれがバレた瞬間、今までの笑顔や優しい態度をかなぐり捨て、大きな声で叫ぶのだ。



『ねぇ、知っていて?

最初に会った時から、わたくしは貴女が大嫌いでしたのよ!!』



 それを聞いて、信じられないといった表情でその場に座り込む真凛ちゃん。

 そんな真凛ちゃんを見て、勝ち誇ったように高笑いをする星華――。



(……って、そんなの無理だってばー!!)



 そこまで思い出して、私はブルブルと首を横に振った。

 そもそも、前世でも現世でもいじめとは無縁な平凡少女として暮らしていたのだ。

 それなのに、いきなり悪役でいじめっ子とか!ハードル高すぎるって!!

 パニックになった私は思わずベッドにダイブすると、唸りながらゴロゴロとその上を転がった。

 ――そして、ふと。



(……いや、待てよ。もしかしてこの悪役ポジション、実は一番オイシイんじゃないの?)



 そう考えて、私はむくりとベッドから起き上がった。

 ――悪役。

 それは恋愛モノの作品において、主人公の恋の障害となる重要人物だ。



(でも、逆に考えてみれば……?)



 『悪役』という名の障害がなければ、運命のカップルだって展開的には盛り上がらない。

 むしろ悪役がいるからこそ、主人公たちの恋は燃え上がる。

 要するに、悪役とは――主人公の恋を盛り上げ、成就させるために陰ながら頑張る恋の天使キューピッド的存在なのだ!



(……という事にしておこう)



 私はむりやり自分を納得させると、改めて考えてニヤニヤした。

 だって、今回私がくっつけるのは普通のカップルなんかじゃない。

 大好きだった『天然シンデレラ』の二人なのだ!

 しかも、側にいれば二人のイチャイチャを間近で見れる可能性があるし!



(こうなったら、頑張るしかないよね!)



 がぜんやる気が出てきた私は、ギュッと拳を握ると自分に気合を入れた。



(となれば、敬太様との婚約は破棄される前提で動かなきゃね)



 私はいろいろと考えを巡らせ、とりあえず一つの目標を立てた。

 それは、あまり敬太様と親しくならない事。

 お互いに不仲な方が、いざ『婚約破棄します!』って言われた時に周囲を納得させやすいからね。

 元々この婚約、親バカな両親が



『嫌なら断ってもいいからね!?』



 と言いながら持ってきたものを、会社のためになるならと私が了承したものなのだ。

 もし敬太様に婚約を破棄されても会社への被害は少ないし、むしろ『婚約を破棄された側』として交渉の際に優位に立てる。

 ……というわけで、現在。



「先にハッキリと申し上げておきます。

わたくしは、貴方となれ合う気など毛頭ありませんわ!!」



 唖然としている敬太様に嫌われるべく、私は彼に言い放った。

 ――漫画の中の敬太様は、たしか自分に歯向かう人間が大嫌いだったハズ。

だから、こうして反抗的な態度をとっておけば!……なんて考えながら敬太様に背を向けたその瞬間。



「……へぇ?」



 そんな低い呟きと共に、強い力で肩を掴まれた。

 半ば無理やり振り向かされた私の視界に入ったのは、敬太様の綺麗な顔。

 ――次の瞬間、私は敬太様に口づけられていた。



(……え?)



 あまりにも予想外な出来事に、私は思わず固まってしまう。

 けれども確かに感じるのは、柔らかい唇の感触で――。



「……ただの大人しいお嬢様とタカをくくっていたが、思わぬ収穫だったな」



 驚きすぎて呆然とする私に、唇を離した敬太様がニヤリと笑って見せる。

 そこに、先ほどまでの『王子様』らしさは全く存在しない。

 それはいい。それはいいんだけど。



「な、な、な……っ!」



 私は顔が赤くなるのを感じながら、口元を手で覆った。

 ……前世の私は、女子校に通っていた事もあってか彼氏いない歴=年齢だった。

 そして現世の私は、誰もが認める箱入り娘。

 と、いうことは――。



「星華さん……いや、星華」



 いろんな意味で私の『ファーストキス』を奪った敬太様が、唇の端を吊り上げる。

 その笑顔は、まるで悪魔のようで。



「面白ぇ。

お前の心、どんな手段を使ってでもてに入れてやるからな……逃げられると思うなよ?」



 耳元で甘く囁かれ、私は自分の選択した行動が間違いだった事を悟ったのだった……。



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