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IN PRISON  作者: Kanana
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檻の中での蒼き日々

BL要素ありです。苦手な方は閲覧をお控え下さい。



途中下車のできれないバス、向かう先は刑務所。

ざっと20人ほどいる囚人と、数人の刑務官。

俺は肢体を拘束されている前者の方に含まれる。

唯一の日本人であった。


囚人はみな禁固刑という罰と、怒りや憎しみと言う感情を持ち合わせていた。

罪悪感や後悔という真っ当な感覚は重荷となり、とうに投げ出した者もいた。




程なくしてバスは、監獄の門をくぐる。







IN PRISON














バスを降りた囚人たちは、数人ずつまとめて足枷をはめられ、運動会のムカデ競争のような状態にさせられた。

前にはブルネットヘアのラテン系の若い男、後ろには見えないが荒い鼻息をした恐らく太めの黒人がいる。


歩みを同時にしなければ転んでしまうムカデ競争は、せわしなく進んでいった。


たどり着いた先は、立派なのにどこか味気ない建物。

刑務官たちの黒い制服とよくマッチしている。

軍服と警官服の中間と言ったような、そんな制服に無線機と銃を携え、刑務官たちはあちこちから俺たちを見張っていた。

体格のいい彼らの高圧的な視線は、俺を無意識に猫背にさせた。




止まれ、との声にムカデ競争は歩行を止め、壁の方を向かされる。

そして脚の鎖が外され、ようやく人間に戻った。


「カイト・ヒミヤ、来い」


名前を呼ばれると、通路を歩かされ、ある窓口に連れていかれた。

入所の手続きをするようらしい。



「名前」


「カイト・ヒミヤ」


「年齢は」


「21」


「留学生なのか?」


「はい」


「罪名は?」


「児童誘拐罪」


「疾患の有無は」


「特には」


「同性愛者か?」


「いいえ」



書類に目を通しながら質問してくるガラス越しの男は、事務職特有の無機質で冷ややかな雰囲気をまとっていた。


また、俺の背後にいる見張り役の刑務官は、あからさまな銃装備をした出迎え時の奴らより威圧感はないが、屋内なのにサングラスをかけていた。



手続きを終え、俺が窓口から一歩下がると、サングラスの刑務官は一歩進んで俺の横にきた。



「D棟?E棟の間違いじゃないのか」



そして、窓口の男にそう質問した。

すると男はパソコンを見つめながら、


「いやぁ、なかなか空きがないんでな。だが同室にはダグラスを移しておいた」


と返す。


「ダグラスか、あいつが同室なら問題ないが…やはり危険だ」


「仕方ないだろう、一度決まったもんは簡単には変えられん。頼んだぞマーク」


「…あぁ、なんとかやるさ」



マーク、と呼ばれた刑務官はどこか気落ちした様子で会話を終わらせると俺を再び通路に誘導し、机以外は何もない部屋に入らせた。


そこには既に数人の囚人と、大柄な一人の刑務官がいた。


「これからここでの生活の上でのルールを説明する」




それから10分ほど、刑務所生活での約束事、拘束時間・自由時間の事、禁止事項を叩き込まれた。


一度に言われ混乱気味だが、新入りは刑務作業がなく自由時間が長いという事。

食事の前には必ず拘束時間があり、その後必ず点呼をするらしいという事。

食堂は別棟にあり、入浴は三日に一度という事。

刃物は凶器になるため、ひげ剃りはシャワールームで渡され、使ったら回収されるという事。

施設内には、運動場や談話室、礼拝堂に図書室があるという事。


…など、大まかな事柄はわかった。



その後には、身体検査を受けた。


映画のように尻の穴まで見られた。

流れ作業のようで短時間で済んだが、恥ずかしさが無かったとは言えない。

ただ、留置場では大勢の犯罪被疑者と同じ牢に入って、食事も睡眠もトイレもその牢内でしなければならなかった。

それに比べたら大したことないだろう。

そう説き伏せ、俺はなけなしの自尊心をどうにか保った。


だが、現実は意外な角度から俺を攻撃した。


私服からオレンジ色の囚人服に着替えた瞬間、情けなさや恥ずかしさをひしひしと感じのだ。

俺はもう、この刑務所に入所した一囚人に過ぎず、社会から隔離されるべき脅威と言う烙印を押されてしまったのだ、と。

ただの囚人服が何よりも、俺を追いつめた。


俯きながら、俺は次の指示を待った。






「ヒミヤ、来い」



サングラスの刑務官が再びやってきて、俺を呼んだ。

通路を進んで今までとは違う棟へ移動した。

囚人らしき姿がうようよいるのが見えてきた。

びっしりと敷き詰められた、本物の監獄。

ついに入獄する時が来たのか…。



「…」



俺は息を呑んだ。

広い室内にはある幾つもの個室、縦三列・横数十列に並んでいる。


囚人たちの俺を見る視線が痛い。

動悸がしてきた。



「ヒミヤ、喧嘩は好きか?」


マークはそう問った。

俺は小さくNOと答えた。


「ドラッグは?」


俺はNOと繰り返す。


そうか、と言いマークはサングラスを外した。

心配そうな目でこっちを見ていた。



「大丈夫か?」


「…大丈夫です…」



俺の頼りない声に、彼は肩をポンと叩いた。

だが顔が引きつった上、うまく前を見れない俺。


並んだ房の横を通り過ぎ、やっとの思いである一つの個室の前にたどり着いた。

俺が収監されることになる房だ。

促されて中に入ると、二段ベッドがあった。

二人部屋とは聞いてはいたが、実際目の当たりにすると不安が募る。


下側のベッドには、男がいた。

俺の同房者だ。



「おい、ダグラス」



後ろでマークが叫んだ。

ベッドに横たわっていた男は、むくりと起き上がった。

男は見知らぬ俺に気づくなり、一瞥をよこしてからマークに話しかけた。


「おい、どういうことだ」


「まあ待てダグラス。俺が決めたんじゃない」


「わかってるが…。それに異人種間じゃないか」


「最近じゃ珍しくない。人数超過だからな」


「独房に空きはないのか?」


「ああ、イカレた奴らで満杯だ」



男は眉間にシワを寄せた。



「ったく、一体何のために模範囚になったと思ってんだ…」


「ダグラス、模範囚を優遇してられる状況じゃないんだ」


そう言いながらマークは男に近づき、何か耳打ちした。

俺には聞こえないように。


(「それから、奴は見てのとおり危険な目に遭う可能性がある。お前、ちゃんと見ててやれ」


「このアジア人のお()り押し付けるってのか」


「あぁ、そうだ。」)



shit.


男はそう吐くと房を出て行った。

面食らっている俺に、マークはまた心配そうに、だが律するように語りかけた。


「ヒミヤ、大丈夫だな?」


「…」


俺は言葉が出なかった。

胸は不安で押し潰されそうになっていた。



「自由時間は先ほど説明したな、食事と風呂も先ほど話した通り。規則違反は決してしないように」


「刑務官」


「なんだ?」


「さっきの男は差別主義者ですか…?」


「いや、違う。そんなんじゃないから安心しろ。頭も良いし生活態度もいい。攻撃性もない」


「本当に…?」


「あぁ。だが、一人好きな男だ。模範囚でずっと独房だったからな。いきなり部屋を変えられ、更には同室者ができて驚いてるんだろう」


「なぜ部屋を変えられたんですか?」


「…人数超過だからだ。犯罪者は増える一方さ。お前のような日本人は珍しいがな」


「…」



ちょうどその時、彼の無線機が声をあげた。


『マーク、まだか。次の受刑者が待っているぞ』


「あぁ、今行く」


ちょっと話し過ぎたな…と彼は呟くと、足早に房から出て行った。



静かに、だが崩れるように奥の棚に寄りかかると、俺は深いため息を吐いた。

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