我が子の世界
お題:僕と嘘 必須要素:サッカーボール 制限時間:15分
シゲオが階段を登りたくないと泣き叫んで訴えた。
私はこいつは何を言っているんだ、と憤りたいのをぐっとこらえてまずはこの子の訴えを何かしら聞いて、理解しようと務めることにした。
私はシゲオの母親なのだ。
それに、
我が家まであと階段、十六段だけなのだ。買い物袋が手に食い込む痛みをこらえるのも、あと少しの辛抱だ。
どうして登りたくないの?
「だってね、さっきまで僕サッカーをしてたから」
どういうことだ?
どういうことなの?
「あのね、足が疲れたの。だから平たいところなら大丈夫なんだけど、段差は無理なの」
何をいっているのだ?
こいつは。
「それに悟くんのサッカーボールにつまずいちゃって、足が折れてるかもしれないし、折れて無いにしても、確実に捻挫はしていると思うの」
ここまで歩いてきたじゃないか?
でも、シゲオ、ここまで歩いてきたじゃない?折れてたり、捻挫したりしてたらきっと歩けないと思うよ?
「だから多分、ここで折れたか、捻挫したんだと思うの。疲労骨折って言うのあるでしょ?」
どこで、そのような言葉を覚えたのだろうか?
でもお願いシゲオ。あとはこの階段十六段だけなの。だからなんとか頑張ってくれないかな?
家に帰ったらオヤツもあるし、今日の晩ご飯だってカレーだから。
「だめなの、階段は登れない。だって登ったら痛くて死ぬかもしれないじゃない?」
私はシゲオがどうにかなったのかと思った。
宇宙人なのかと?
「お母さん、僕と僕の嘘のどちらを信じてくれるの?」
私の子供に対する気持ち。でも昔は自分もそうだったのだと思うと、恐ろしい。ホラー小説より断然恐ろしいと思う。