表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/29

#6 お前、何者?


 それからというもの、璃祢はちょくちょく溜まり場にやってきた。

 

 大体は隆平と蓮に連れられて来る。一人では来ない。そういう風に翔が何度もうるさく言ったからである。もちろん譲歩しすぎているくらいだと翔は思っている。

 それでも翔が目を光らせているせいか、璃祢は特にこれと言って何もされることなく、不良たちの中に溶け込んでいっている。

 

 せめてもの救いだったのは、総長が姿を現さないことだろう。何やら用事があるとかで最近は喧嘩も参加しないし、こうしてたまり場にも来ない。よくこの個室の一番奥で煙草をふかせていたのが懐かしいくらいだ。

 

 何の用事かは、翔すら知らない。


 だがそれが璃祢には不満だったようだ。

 そわそわし、探しているのが丸わかりなくらいきょろきょろとしている。


 相変わらずソーダフロートをがぶがぶ飲んでいるのだが。気を抜くと10杯以上飲むのだ。しっかり監視するのにも気が抜けない。


 そんな日が続いていたある日。その日翔は隆平を引き連れ、隣の――――といっても一駅くらい離れた――――高校の不良との喧嘩に向かっていた。

 璃祢はと言うと、翔に今日は家にまっすぐ帰るように言われていた。最初はその気で帰っていたのだが、及川に今日の放課後ケーキ食べにこないかと連絡があったのを思い出した。


 なんでも知り合いにもらったらしいが、量が量なので一人じゃ無理だとのことだ。ちなみにアドレス交換済みだったのだ。

 今から断りの連絡を入れてもいいのだが、そうしたらケーキはどうなるのだろうかと心配になる。及川一人で無理だという話だったのだから、やはり困るんじゃないかと思う。

 

「ケーキ食べるだけですし、及川さんやさしいから大丈夫ですよね」


 そういって、璃祢は方向転換し及川の店へと向かった。

 



 ◆ 



 一人で来るのは初めてなので、ちょっぴりドキドキしている。控え目に扉を開けると、カウンターの中でグラスを吹いている及川がいた。


「お、なんだ。一人か?」

「はい。みなさん喧嘩です」

「あいつらも元気いいな、このくそ暑いのに」


 クーラーギンギンな店内に居て、そういっても説得力のかけらもない。いつも通り個室に腰掛けると、シルバーのお盆に色とりどりのケーキたちを乗せた及川がやってきた。もちろんソーダフロートつきである。


「すごいありますね」

「駅前に新しくケーキ屋できたろ?あの裏がケーキ食べ放題の店で、しかもテイクアウトOK。90分3500円らしくてさ。そこで此処のお客が買いすぎたらしくて押し付けられたんだよ。遠慮せず食ってっていいぜ?まだあるんだ」

「まだ……あるんですか……」


 すでに目の前には20個のケーキが並んでいるのだ。さらにあると聞いてさすがの璃祢も買いすぎだろうと思った。

 今日は璃祢だけしかいない店内は、静かな音楽が流れているだけだった。及川も、夜のバ―開店に向けての準備をしている。璃祢は一人で黙々とケーキを食べていた。

 ケーキ5個目になり、そろそろおなかが膨れてきたころだった。


「悪いんだけど、少し俺出かけるわ」

「え?」

「準備中の札下げとくからお客こねーよ。つかこの時間は大体来ねーな。あいつらいるから。ちょっと買い出し忘れあったから、数分で戻る。帰るなら勝手に帰ってもいいからな」

「あ、はい」


 鈴の音がして、店の中には正真正銘、璃祢一人だけになった。普通お客だけを店に残したりしないと思うが、それなりに信用されているのかと思い再びケーキを口に運んだ。ちなみに、ソーダフロートは翔の言いつけを守り2杯だけ、今はミルクティーだ。


「それより、これすべて完食しないとだめでしょうか。そろそろ限界です」


 それほど大食いでもないので、さすがにおなかにたまってきた。フォークを置いて、しばらく休憩する。




 ◆




 ソファに背を預けてくつろいでいたら、ドアの鈴が鳴った。及川がかえってきたのだろう。足音はどんどん璃祢のいる方へと近づいてきた。


 だがしかし


 現れたのは銀髪ではなく、まばゆい金髪だった。予想外の出来事に、璃祢は硬直した。


 対する彼――――城戸絢斗きどけんとはと言うと、そんな璃祢を気にすることなく個室内を見回した。


「チッ、一人ぐらいいろよ。……つか、お前見ない顔だな」

「っ……」


 どんどん近付いてきたと思っていたら、ものすごく至近距離からのぞきこまれた。思わず息をのんだが、どうすればいいのか分からずそのままだ。


 あの真っ赤な瞳の中に、璃祢の顔が写りこんでいた。彼が動くたびに香ってくる甘い香り。


「新入り……じゃねぇな……。あいつが言ってこなかったってことは……お前、何者?」

「え……あの……」


 絢斗の片腕がソファの背もたれに置かれていて、璃祢は身動きできなかった。というより、すでに体が硬直したかの様になっていて動ける状態じゃなかった。


「っく……お前、やっぱおもしれぇ」

「ふえ?」


 璃祢にとっては一瞬の出来事だった。まるで天と地がひっくり返った様に思えたが、実際はもちろんそうではなかった。


 そして、璃祢は再びパニックに陥った。


 黒い革張りのソファの上に押し倒されていた。

 もちろんあの、絢斗にである。



いきなり何をやり始めたんですかね。

あの人は……

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ