#5 お返事してください
5話目です。
璃祢がいない店内の個室スペース。
そこのふかふか絨毯に正座させられた二人の不良と、ソファで笑みを浮かべ、額に青筋を浮かび上がらせた一人のこれまた不良がいた。妙に足と腕を組んでいるのが様になっている。むしろ似合いすぎている。
「んで?てめぇら璃祢に何する気だったのか吐け。んで、死ね」
「いやーまってー!!俺ら何もしてないし、する気ないし!!死ねとか言わないでよー!!」
「そうですよ。変な言いがかり付けないでください」
反省の色を全く見せないどころか、口をとがらせそろって非難の言葉を口にする。
まぁ、どこに反省する要素があるのかは分からないのだが。
そしてそのたびに、翔のこめかみがピクついた。
「反論してんじゃねーよ。璃祢に不良が近付くんじゃねーよ、くそが」
「いや、それ翔もっしょ?」
「あぁ?」
「ひぃっ!?」
「つかどうしてくれんだ。ここで会って、俺なんて言い訳すりゃいいんだよ。俺も不良だってばれちまったじゃねーか。お前らいい加減にしやがれ、……いっそ殺すぞ」
そんなすがすがしい笑顔で言うセリフではないだろうと、二人は同じことを思った。
というより、この状況から抜け出すすべはないかと試行錯誤で必死でもある。
峯川高校不良で、一番喧嘩が強いのはもちろんトップである。
だが怒らせると怖いのは、今目の前に居る真田翔も引けを取らない。
むしろトップが誰かに説教なんかしてるところを見たことがない。するんだろうが、めんどくさいと言って、翔に後を任せるのだ。そしてこのお説教である。される方にとってそれは何とも最悪なコンボなのだ。
しかし、今回ばかりは二人の方に運がついていた。何せこの場には救世主がいたからである。
「翔君、入ってもいいですか?僕、手がしびれてしまいます」
「……」
「だめですか?あの……お返事してください」
硬直した翔は、その後がっくりうなだれるとはぁっと息を吐いた。立ち上がり二人に目配せした後、璃祢のいる方へと向かって行った。
璃祢の前に現れた翔は、璃祢にとってはいつもと変わらない彼だった。
「ごめん、俺の分とってきてって言ってたっけな。ありがとな。ところで……」
「はい?」
「そのソーダフロートは何杯目なのかな?」
璃祢の右手には、翔が頼んでいたアイスコーヒー。そして左手にはソーダフロートがあった。さっき説教中にテーブルの上にすでにからのコップが二つあった。
「う……3杯目です」
「その大きなグラスで3杯も飲んだの?フロートはただでさえ、アイスも入ってるのに」
「ごめんなさい。これは先輩にあげることにします……」
見るからにしょんぼりした璃祢は、それでも恨めしそうにソーダフロートを見つめていた。何よりもソーダフロートが好きな璃祢なのだ。大好物のそれをたくさん飲みたい気持ちは、翔にもわかる。
「いいよ。でも、それで最後だからな。あと、今晩はおなか冷やさないようにしろよ?」
「っ……はい!」
アイスコーヒーを笑顔で差し出した璃祢の笑顔により、翔の気分はようやく晴れた。そしてとりあえず、個室に戻ることにした。
◆
言い逃れできないと観念した翔は、今まで隠し通してきたことを璃祢に打ち明けた。
「翔君も、不良だったんですね」
「うん、そう」
「しかも2番目なんですね」
「まぁ、立場的に……。引くか?」
「なんでですか?それにちょっとそんな気がしてました」
「へ?なんで!?」
「あれじゃないのー。もう見るからに雰囲気が不良そのものだっぶっ!?」
璃祢に見えないよう、翔がテーブルの下で隆平の足を踏みつけた。
「そんなことないですよ。ただ……翔君からたまに煙草の匂いがしたんです」
「は?」
「でも翔君吸いませんよね?だから、煙草をよく吸う人の近くに居るんじゃないかなって思ったんです。そう考えたら、不良の人と仲がいいのかなとか、思ってたんですよ。あたりでした」
「あ―……なるほど……」
確かにあいつは、すでにヘビースモーカー並みに吸ってたなと思い返し、翔は頭を抱えた。一番思い出したくないのだ。特に今は。
「じゃ、じゃあ翔君はあの人と知り合いなんですね!!」
ほら来た。
翔はさらに頭を抱えた。出来ればすぐにここから逃げ出したくなるが、あいにく璃祢を置き去りにはできない。
「あのさ、璃祢。たぶんそいつは人違いじゃないか?」
「違います。確かにあの人です。金髪にあのきれいな赤い瞳は間違いないです」
「え、何?璃祢ちゃん、絢斗の事知ってるの?しかもなんか楽しそう~」
「絢斗さんっていうんですか?」
「やめい!!お前も余計な事言うな!!それ以上言ったらつぶすぞ!!」
「何を!!?」
とりあえず、お名前ゲットです。名字も教えてほしいです。
やっと名前が出てきましたよ。
絢斗って名前は、とある人から頂きました。
あまり接点はないのですが最初は「あやと」って読むのかなって思ってたら「けんと」だそうで。知った時はへぇ~と感心。
あ……斗の字は変えました。
ソーダフロートはおいしい。