#4 ちげーっすよ
やっと二人の名前が出てきますね。
まずはお互い自己紹介からであった。
ウルフカットの不良は市野隆平。背の変わらない不良は鈴木蓮というらしい。市野は3年、鈴木は2年らしい。
そしてこの店は、峯川高校の不良の溜まり場らしかった。全員集まることは少ないが、大体誰かがいる。事前に抗争予定の日は一回ここに集まってから行く。
「俺も高校生の時はよくバカやってたからな。こいつらの事もそれなりに分かってやってるつもりだし。大人の立場からしたら、注意しなきゃなんねーんだろうけど……聞かねーだろ言ったって。タバコ吸うなとか酒飲むんじゃねーよとか。俺も聞かなかったしな。高校生ん時はそんくらいじゃなきゃな」
ここの店を一人で切り盛りしてるのが及川明彦。峯川高校の卒業生で、一時は不良のトップに君臨してた人らしい。そのころからこの店はあり、溜まり場だったようだ。
「そん時のオーナーにな、此処継げって半ば押し付けられたんだな。ま、この店嫌いじゃなかったし、いい働き口じゃんって思ってな。実際楽しいぜ、こいつらの馬鹿聞いてるとよ」
「さっきから馬鹿とかひどくねー?あ、璃祢ちゃんおかわりは?」
「あ、じゃあもう一杯ください」
「あいよ」
不良の溜まり場。なんて良い響きなんだろう。そう璃祢は思っていた。何せ不良の、なのだ。つまりあの人も来る可能性がある場所であり、むしろ学校に居るよりも、うんと会える可能性が高い。何とも素晴らしい場所なのだ。
今は璃祢たち以外いないのだが、とりあえずこの場所だけでも知れてよかったと思った。
◆
店の入り口のドアに付いている、鈴が鳴った。誰かが来たらしい。璃祢たちのいるところは少し奥まってて入口までは見えない。
「お、もうちょっと遅いのかと思ってたぜ?つうかどうしたよ、最近めっきり来なくなったし、てっきりやめちまったのかと思ったぜ?」
「ちげーっすよ。ちょっと放課後はほかに用事があったんで。誰かいます?」
聞こえてきた会話に、璃祢はふとコップを置いて固まった。そして立ち上がると、入口の方へ向かって行った。
何せその声に聞きおぼえがあったのだ。
「お、どうしたトイレか?」
「誰でもいいけど今日……は……へ?え……?」
「翔君がなんで此処に居るんですか?」
何でいるのか、それが聞きたいのは翔も同じだっただろう。だが先に問いかけたのは璃祢だった。
璃祢がここに居るとは思っていなかったのか、驚きに見開かれた瞳。先ほどの会話からして、及川とは随分親しげだった。つまり今回初めて来たわけではなさそうだ。
翔は翔で、今の状況を飲み込めず頭はパニックに陥っている。だがとりあえず、真相を聞くことが先だろうと判断した。
「誰かに連れてきてもらったのか璃祢」
「はい。隆平先輩と、蓮先輩です。入学式のとき助けてもらったんです」
「ふーん、二人は奥に居る?」
「はい」
「じゃ、ちょっと璃祢はそこで俺の飲み物受け取ってもらえるかな?」
「む?いいですけど?」
「ちょっとお話ししてくるな」
璃祢にとって、いつもと変わらない翔の様子だったが、及川には違って見えた。
そして何も知らない二人の不良を心の中で憐れんだ。
翔……内心すごくパニクってると思います。
そして次回大暴れ?なかんじです。