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#26 今日は手加減しねぇよ


 予想してなかったその行動に、翔の目は驚きに見開かれた。美咲もぽっかりと口を開けたまま立ち尽くしていた。一分ほど経った頃、我に返った翔が腕の拘束から抜け出そうとするが、先程まで殴られていた体ではそう力が入らないようでそれは変わらなかった。


「おいてめぇ!!何ふざけた事しやがんだよ、離せ!!」

「うっせ、けが人は黙ってろ」

「はぁ!?つーかもとはといえば、てめぇが悪いんだろ!?」

「あぁ?あっちの野郎が勝手につけあがって行動したんだろ?別にあの後輩なんかほっときゃ良かったんだよ。どうせ城戸の奴が行ったんだろ?」

「そうだけど!!―――――ッ……」


 反論したくても、反論したところで結局どうにもならないと悟った翔は、歯がゆくも口を閉ざした。


「どういうこと……?つけあがったとか……勝手にとか……。あんたの欲しいものってなんなの!?」

「みてわかんねー?お前そこまでアホじゃねぇだろ?」

「見てって……嘘でしょ?相手が誰だかわかってんの?今まで喧嘩売ってた相手じゃん?それなのに……なんで抱き寄せてんの?なんで!?」


 その疑問は彼だけのものではなかった。翔もまたわけもわからないばかりで、何も言い出せないでいる。


「確かに、お前の顔は俺の好みに入るし、何度も抱いた。けどな……誰にでもストライクゾーンってあるだろ?あれで考えるとお前下の上ってやつだから。まぁ体の相性は悪くはなかったから何度か誘ったんだけど……それ以上でもそれ以下でもねぇよ。お前と知り合った頃から、俺が欲しかった奴はたったひとりだけだったからな」

「あんたと翔の関わりなんか高校からじゃないのか!!」

「お前と知り合ったのは確か俺が高校上がってからか?んで、コイツとあったのは……中2の夏か?結構差があんな」

「そんな前に?どうやって?」

「別に逢いたくてあったわけじゃなかったな。ただいつも通り目障りだった雑魚ども蹴散らしてたらきやがったんだよ、あの城戸がな。その横にコイツがいた。俺あんなに人の姿にクギ付けんなったの初めてだわ」


 場違いな思い出し笑いが、公園に内に風に乗って運ばれる。翔の思考はもう既に真っ白になっていた。何が何だかもう考えるのすら嫌になっていた。


「まだわけわかんねぇって顔してんな。この際わかりやすく言ってやるよ。俺ははなからこいつを手に入れることしか考えてなかった。だけどコイツはずっとある奴しか見てなかった。でもそいつとは俺から見てまず付き合うことは不可能だと思えた。だけどコイツは諦めスッゲェ悪いっつーのは喧嘩してたらわかってたから、だったらこの状況を利用してやろうと思ったわけだ。ちょうどいい情報源もいたからな」


 泰明は美咲から目を離すことなく、さらに続けた。


「それで、こいつが思い寄せている相手を探し出し、接触。うまいこと俺がさも狙っているように見せかけた。俺がほかのやつばかり気にしてお前が嫉妬するのを見越してな。後は事の成り行きをただ眺めてただけだな。実際ここまでうまくいくとは思わなかった」

「最初から……っ。最初っから、俺はただの駒だったわけ!?」

「あぁ」

「そ……んな……。俺だけ……っ……」

「もうお前用済みだから、さっさと帰れ。もう俺の方から呼ぶこともない」

「っく……」


 そう言い放たれ、美咲は拳を強く握り締めうつむいた。怒りでなのか体を震わせながら、そのまま駆け出しどこかへと去っていった。


「美咲!おい、いい加減離せよ!」

「あぁ?離して欲しけりゃ自分でぬけだせ」

「無理だから言ってんだろ!!つか、あんな言い方あるかよ!美咲は多分……いや、絶対お前のこと……」

「だからなんだ?好きだから相手も自分の事を好いてるなんか、絶対にあるわけじゃねぇだろ?お前もよくわかってんじゃねぇのか?」

「っ……」


 先ほど長い間抱いていた片思いを諦めたばかりの翔に、その言葉は痛いほどよく分かる。だからこそ美咲の気持ちも同じくらいわかるのだ。


「まぁ俺にはそうだったとしても関係ねぇけど」

「は?」

「たとえてめぇが俺のことどう思ってようが、必ず手に入れてやるっつってんだよ?」

「嫌に決まってんだろ!?つうかお前と……とかマジでありえん!無理!なさ過ぎて逆に笑えるくらいありえねぇ!!」

「ありえるとかそんなん重要でもなんでもないだろ」

「ある!……ちなみに、もし……もしだぞ!お前と俺が付き合ったとして、どっちなんだよ……」

「あ?俺が下とかありえねぇだろ。アホか」

「嫌だァああああ!!掘られるとか……悪夢だぁああああ!!」


 抜け出すのを諦め、もがくのをやめていた翔は再び激しくもがき始めた。


「お前は自分のことどう思ってるか知らねぇけど。お前……人を愛する方は似合わねぇよ」

「あぁ!?」

「お前は誰かに守られて愛されてる方が似合ってんだよ。そろそろいいだろ、気ぃ張んなよ。せめて俺の前だけなら、肩の力抜いてもいいじゃねーの?」

「んな!?誰が……つか……俺とお前が付き合う前提で話を進めんじゃねーよ!!いい加減離せ!俺は帰る!!」

「何言ってんだ、今日は帰さねーし寝かさねぇから」

「はああああ!?最悪じゃねーか!掘られる!!」

「イテェのは始めだけだ」


 翔を抱き寄せたまま歩き出した泰明は、途中で立ち止まると翔の耳元で一言囁くと再び歩き出した。その時からの翔の顔は夕日以上に真っ赤に染まっていた。


(俺以外のやつの隣は、もう歩かせねぇから。今日は手加減しねぇよ)


 



泰明は意外に頭脳派でもあるんですよっていう話ですね。


翔を手に入れるために、翔に失恋させるという……

ほしいものを手に入れるためならなんでもするっていうのはそういうことも含んでますね。


翔と泰明のお話はこれでおしまいです。

残りあとわずかになりました。最後まで少しでも楽しんでください。



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