#21 誘拐は犯罪です
訳も分からない状況に、璃祢は一気に現実へと引き戻された。見たこともない不良ということは、峯川高校の不良ではないだろう。それに峯川高校の不良が璃祢を襲うなどあり得ないのだ。そんなことしたらどちらが恐ろしい目に合うか、峯川の不良はよく知っているからである。
(こんないっぱい……考え事してて気づきませんでした……)
絢斗の家は目と鼻の先ほどの距離だ。それなのにあり一匹逃れられないほど取り囲まれている璃祢は、逃げ出すこともできない。
「清水璃祢だな?」
「だったら……なんですか?」
「はっ、ほんとに聞いた通りの性格だな」
「御用がないのなら、お引き取りください」
「そうはいかねーんだよなぁ、お前は大事なエサだからな」
「え!?」
そこで璃祢の意識は途絶えた。
◆
絢斗の家にたどり着いた翔は、ひとまずインターホンを鳴らした。だが不在のようで誰も出てはこない。仕方なくどこかで時間をつぶそうとマンションから出たところで、ポケットの中の携帯が鳴った。
「もしもし?」
『翔!!大変大変だって!!』
「隆平?どうしたんだよ落ち着けって。この前喧嘩売った奴らに襲われたか?」
『落着けないっての!!璃祢ちゃんさらわれた!明星の奴らだよ!!』
「はぁ!?てめぇ、それマジだろうな?」
『まじまじ。本当と書いてマジ!俺の情報網確かだから!!でもこの間のやつらとは違うかも。つかさっき明星の不良の大群?が歩いてくの見たっていうやつらがいて!最初は何それーとか思って聞いてたんだけど!その中の一人がちっこい茶髪の子担いでたって……ほかのやつに聞いたらどうも……』
「璃祢っぽいってか?で?どこに向かってたそいつら」
『たぶん、最近明星の不良がたまってる倉庫だと思う!場所は翔の携帯に地図送ったから!俺らもすぐ行くけど!』
「絢斗は?」
『それが繋がんないんだよ!!メール送ったけど気づいたかは分かんない!蓮が電話してっけどさっきから留守電になってばっかだって』
「使えねーなあいつは!わかった、とりあえず俺その倉庫行くから!」
そう言って通話を切り、地図で場所を確認する。案外今いる地点からそう離れてはいない。ここから10分ほどだ。
(会うの気まずいとか言ってる場合じゃねーなくそっ!)
翔は倉庫に向かって駆け出えした。
◆
気が付くと、腕を後ろに縛られ冷たいコンクリートの床の上に転がっていた。埃っぽく、せき込んだことで、意識が戻ったとばれてしまったようだ。
「ようやく起きたのかよ」
「ここどこですか?誘拐は犯罪です」
「誘拐ねぇ?」
「誘拐だけで済んだらいいな」
「……何が目的ですか?僕……喧嘩できませんよ」
「だろうな」
「いっただろ。お前はエサだってな」
「釣りでもする気ですか?」
「つりねぇ。あながち間違っちゃいねーか。木戸をおびき寄せるエサなんだよお前は。だからそれまでおとなしくしてな」
「そうそう。痛い目にあいたくねーだろ?」
そう言ってゲラゲラ笑いあう不良たち。そんな中でも、璃祢の瞳はまっすぐだった。




