第十話 周防飛鳥の打開策
黒蛇会壊滅から、数ヶ月が経過した。
周防飛鳥は現在、路頭に迷っていた。
抜け忍である銀城の行方を追ってアシュラーン王国へやって来た飛鳥は、ついに黒蛇会のアジトでその姿を確認した。
だが――。
銀城を確保する間もなく、あのうどん屋の店主と巨大ペンギンがアジトを突入襲撃したのだ。
結果、黒蛇会の組員たちは全員、完膚なきまでに叩きのめされた。 飛鳥が物陰から息を殺して様子を窺っていると、やがて二人は黒髪黒目の青年(勇者)を担ぎ上げ、満足げな笑みを浮かべながらアジトから出てきた。
そして次の瞬間――二人の姿は、まるで煙のように消え去った。
(転移魔法ではない……。あの速度なら、身体能力の極限強化によって驚異的な速さで移動したと考えるほうが自然……!)
長年、隠密として培ってきた経験がそう告げていた。
その後、知らせを受けた王国軍がアジトへ駆けつけ、倒れていた黒蛇会の構成員たちを次々と運び出していった。そして当然、銀城の身柄も拘束されている。おそらく今頃、銀城は王国の厳重な地下収容施設へ放り込まれていることだろう。
問題は――そこからだった。
飛鳥が王国の厳重な施設へ忍び込んで銀城を奪還するなど、いくら隠密とはいえあまりにもリスクが高すぎる。異国の、それも王国軍が厳重に管理する施設だ。下手をすれば、自分まで捕らえられてしまいかねない。
銀城の居場所は分かった。 それなのに、手出しができない。
(このままでは、お頭の元へ戻ることなんてできない……)
飛鳥は完全に八方塞がりとなっていた。 何とか安全に銀城と接触する方法はないか――そう頭を抱えていた、その時だった。
近くを歩いていた男たちの会話が、飛鳥の耳に飛び込んできた。
「おい、聞いたか? 黒蛇会の奴ら、勇者様を攫ったんだってよ」
「ああ、知ってるぜ。それで何でも、勇者を攫われたことに怒った『鬼のセドリック』が、配下を数人連れて黒蛇会に乗り込み、一晩で壊滅させたって話だ」
「容赦ねえな、王国軍隊長様は。ハッハッハ!」
「……」
その会話に、飛鳥は思わず足を止めた。
(勇者を攫った……? 鬼のセドリック? 王国軍隊長……?)
聞き捨てならない言葉ばかりだった。何より――あの夜、黒蛇会のアジトを徹底的に壊滅させたのは、あのアホみたいに強い屋台の店主とペンギンだった。飛鳥はこの目で一部始終を見届けている。
「……どういうこと?」
飛鳥は小さく呟いた。だが、ふとある記憶が脳裏に蘇る。
(そうか……!)
飛鳥は、黒蛇会のアジトで見た光景を思い返した。 銀城に引き摺られていた、あの異世界の服を着た黒髪黒目の青年。
(あの時、銀城に捕らえられていたのが『勇者』だったんだわ……!)
そう考えれば、すべての辻褄が合う。 うどん屋の店主とペンギンが黒蛇会を急襲した目的は、銀城を倒すことではなく「勇者の奪還」だったのだ。
(世間では王国軍隊長の手柄にすり替えられているけれど……実際に勇者を助け出したのは、間違いなくあの二人。王国側だって、勇者を救い出してくれた恩人であるあの二人を無下には扱えないはず……)
ならば――。
(あの二人にお願いして、銀城との面会を取り付けてもらうことはできないかしら……?)
そこまで考えたところで、飛鳥の表情が一気に明るくなった。 面会に同行することさえできれば――
(あたしが同行者としてついて行けばいいんだわ! そうすれば王国に警戒されることなく銀城と接触できる。そして、お頭から託された密書を渡せば……銀城は自力で脱出してカグラへ戻れるはず!)
飛鳥はようやく、八方塞がりだった状況を打開する「完璧な作戦」を見つけたのだった。
◇
早速、飛鳥は意気揚々と、以前訪れたうどん屋の屋台があった大通りの裏手へ向かった。今の時間帯なら絶賛営業中のはずだ。
そう思っていたのだが――。
「……あれ?」
屋台があった場所には、何もなかった。 ぽつんと空き地が広がるばかりで、店主の姿も、巨大ペンギンの姿もない。
「おかしいな……」
飛鳥は困惑して周囲を見回した。まだ店を畳むような時間ではないはずだ。 その時、ちょうど目の前を紳士風の中年男性が通りかかった。飛鳥はすぐさま駆け寄る。
「あの、すみません! 少しお聞きしたいのですが……」
「ん? どうしたんだい、お嬢ちゃん」
「ここで以前、若い女性とペンギンがうどん屋をやっていたと思うのですが、何かご存知ありませんか?」
「ああ、あの美味いうどん屋かい!」
男性は思い出したように大きく頷いた。
「何でも、ここから少し離れた大通り沿いに、立派な店舗を建てたそうだよ。『定食屋ナギ』っていう新しい店を始めるらしくてね」
「定食屋……!」
「そうそう。開店に向けて準備中らしいが……確か、店員も募集しているって張り紙が出てたな」
「店員……!?」
「お嬢ちゃんも働き口を探しているなら、行ってみたらどうだい?」
「……!」
飛鳥の目が、ぱあっと輝いた。
(店員を募集している……! つまり、あの二人の懐に合法的に飛び込めるチャンス!)
「ありがとうございます!」
飛鳥は男性に深く頭を下げると、教えてもらった場所へ向かって全力で走り出した。
銀城との接触、そして任務達成へ。 ついに、計画が一歩前へと動き出そうとしていた。




