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混迷のマルチバース
そこは、論理が死に絶えた無機質な空間だった。
上手では、シンデレラの衣装を着たギャル・たまとしろが、血相を変えて教科書を捲っている。「シンデレラ昇格試験」という、設定の出口が見えない迷路に迷い込んでいるのだ。
下手では、赤山夫婦がテーブルを挟み、まるで夕食の献立を決めるような軽さで離婚届を突きつけ合っていた。
「サインはしたいけど、離婚はしたくない」
「お客様、サインはすべきではない!」
店員を名乗る謎の男が割って入るが、誰も彼の素性を知らない。
そこへ、登山服姿のテンコが汗を拭いながら現れる。
「今、何時?」
「4時20分」
「山頂までは?」
「あと920メートル。昨日なら8メートルだったのに」
「ありがとう! 昨日の山頂はまだ昨日だったけど、明日は未来にならないかもしれない」
意味の通じない台詞を吐き捨て、彼女は霧の向こうへ消える。客席の審査員・**厳見**が、こめかみを指で押さえた。物語は前進することを拒否し、ただその場の「熱量」だけで空転を続けている。




