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|鞍馬山《くらまやま》
時代を読めぬ者に長の資格などあろうはずもない。」
鞍馬党の本拠、祇天王寺には、都の合戦で生き残った鞍馬衆の者どもが集まっていた。
「何故、長は、合戦のさなか、消えられたのだ。」
詰問する家人達に、老長鞍馬千羽は答えなかった。もとより、血縁で結ばれた威能生の民なれば、死は恐れはせぬ。その力は、機武をも凌ぐと言われていた。それ故にどちらの陣からも引きがあったのだ。
「長は、そして若長はどうされたのか。」
千羽はわが子の決断を間違っているとは思っていなかった。もとより、機武をこの現世に引き出した、茂野延軍の腹は見えていた。我らの力を恐れこそすれ、頼みなどとは決してしないことを。
その時だった。蔀戸の向こうに巨躯が現れた。若長、鞍馬天羽である。その背には無数の雁羽矢が突き刺さり、頬にも手痛い傷を負っていた。荒い息の向こうで、ひからびた声が走った。
「大殿、この子でございますか。」
「うむ。よくぞ、助けてこられたのう。」
「長海羽は、明日香野で果てました。」
どよめきが起こった。明日香野のに長が向かっていた。とすれば、若長の抱いているこの子こそ、鞍馬衆の命運を決する、いや災厄になるかも知れぬだろう血筋の者だった。その額に輝く星が一つ。
「この子を鞍馬衆として育てよ。」
鞍馬千羽はそう言い残して、席を辞した。




