石|御門《みかど》
羅城門の崩れかかった梁にもたれ掛かった機武の首から蒸気が溢れ出た。その蒸気が勢いを失った頃、機武の右腕が、つかむものもなく、鉄指をひきつら
かむはや
せた。瓦がはらはらと大路に舞い落ちる。首の根元に黒々と神剣が突き刺さっていた。ゆっくりと、機武の首からそれが抜かれ、次の犠牲を求めて虚空を切り裂いた。
麻生京のあちらこちらで、同じ様な光景がうかがわれた。神剣を振りかざして、黒ずくめの機武達が、次々と萌葱おどしの都の機武達を地に打ち倒して行った。
戦の流れは見えていた。もはや、茂野延軍の総崩れは、押しとどめようもなかった。北山に本陣を構えた大智軍は、勝利を確信した。総大将に祭り上げられた石御門帝は弱冠二十歳の若者であった。彼を利用した、大智・佐々木・大内の連合軍は、事実上のこの国の支配者となった。
破れた茂野延軍の本陣には先の皇の遺児、勇真皇子が最後の時を迎えようとしていた。上賀茂川の上流を支えていた蘇我・源軍は壊滅し、本陣を囲む平家近衆の機武だけが辛うじて、彼らの幼き主君を守っていた。
不意に、空が陰った。見上げる勇真皇子の眼に、空を覆いつくさんばかりの大智軍の浮揚城「銀鷺城」の姿があった。城の下部から突き出された尖塔が轟きを揚げて、茂野延軍の本陣へ雨のように雷土を降らせた。
「終わったな。」
浮揚城の天守で、黒ずくめ鎧に銀の象眼を施した男が、青貝を散りばめた太刀に手を掛けながら言った。彼こそ、黒獅子卿と呼ばれる大智軍の四十八代目当主大智瑛麟その人であった。
そして、事実上千年もの永きにわたり、この国を支配してきた御門の血統の一つがついえさったのである。




