路地裏の逃亡者とレンツの法則
「助けるぞ、エリアン!」アキラが叫んだ。「あいつ、同じ下層の匂いがする!」
エリアンも頷いた。「ああ。この厳重な警備網をここまで突破してきた腕前だ。地下への案内人 (Annainin) として利用価値がある。」
三人は、黒いフードの影が逃げ込んだ路地裏へと走った。そこは、巨大な排気ダクトが密集する袋小路だった。
「行き止まりだ。降伏せよ。」
3 機の追跡ドローン (Tsuiseki Dorōn) が、逃亡者を追い詰めていた。ドローンは青白い磁気浮上フィールド (Jiki Fujō Fīrudo) を展開し、空中に静止している。その銃口が、フードの人物に向けられた。
「くそっ… 計算ミスか…!」フードの下から、少女の悔しげな声が漏れた。彼女は手に持った端末を必死に操作しているが、ドローンのロックオンを解除できない。
ドローンが発砲しようとしたその瞬間、エリアンが路地の入り口に滑り込んだ。
「アキラ、出るな。俺が止める。」
エリアンは、路地の両側の壁にある導電性パイプ (Dōden-sei Paipu) に両手を押し当てた。
「奴らは磁力 (Jiryoku) で浮いている。ならば、その磁力を逆手に取る。『レンツの法則 (Renzu no Hōsoku)』だ!」
エリアンは、自身の体内のエーテルを電気エネルギーに変換し、パイプに強烈なパルス電流を流し込んだ。すると、急激な磁場の変化が発生し、ドローンの金属フレームの表面に強力な渦電流 (Uzu Denryū) が発生した。
ブゥゥゥゥン!!
ドローンたちは、まるで目に見えない泥沼にはまったように、急激に動きが重くなり、空中で静止してしまった。
「な、何だ!? ドローンのモーターが… 電磁ブレーキ (Denji Burēki) がかかったみたいに!」少女が驚いて振り返る。
「動こうとすればするほど、逆方向の磁場が生まれて止まる。それがレンツの法則だ」エリアンは叫んだ。「アキラ、今だ! 叩き落とせ!」
「おうよ!」
アキラが飛び出し、動けなくなったドローンを鉄パイプ(道端で拾ったもの)で粉砕した。ライラも援護射撃を行い、残りの監視カメラを破壊した。
「こっちだ! 早く!」
エリアンたちは少女の手を引き、複雑な路地裏のさらに奥、廃棄された整備エリアへと身を隠した。
安全を確保した後、少女は荒い息を整えながらフードを脱いだ。現れたのは、片目が義眼 (Gigan) で、左腕が完全に機械化された、小柄な少女だった。彼女の髪はネオンピンクに染められており、首には情報接続端子 (Jōhō Setsuzoku Tanshi) が埋め込まれている。
「あんたたち… 何者? 下層民にしては、強すぎるし、技術が変態的すぎる」少女は警戒しながらも、興味深そうにエリアンを見た。
「俺たちは修理人 (Shūrijin) だ」エリアンは短く答えた。「お前こそ、なぜ追われていた? その端末、大公爵の極秘回線 (Gokuhi Kaisen) に侵入していただろう。」
少女は目を丸くした。「あんた、解析 (Kaiseki) までできるの? …私はノヴァ (Nova)。このイカれた都市のコード・ウィーバー (Cōdo Wībā / 電脳紡ぎ手) よ。」
ノヴァは自身の機械の腕を撫でた。「私は探しているの。この都市の地下深くに隠された、**『神の心臓』**と呼ばれるシステムをね。あんたたちが探している場所と同じじゃない?」
エリアンとライラは顔を見合わせた。
「神の心臓… それが、この都市がエネルギーを地下に送り続けている理由か」エリアンは確信した。「取引だ、ノヴァ。俺たちが追っ手を排除する。お前は、地下へのセキュリティを突破しろ。」
ノヴァはニヤリと笑った。「いいわよ、変態修理屋さん。私のハッキング (Hakkingu) とあんたの物理攻撃があれば、神様だってハッキングできるかもね。」
こうして、技術者エリアンとハッカーのノヴァ、異色のタッグが結成された。




