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第5話 食材調達

 ―『コカトリス』。


 鶏のような頭に爬虫類のような鱗のある体を持った巨大なモンスターであり、この『コカトリス』と呼ばれるモンスターは見た目以外にも、普通の鶏にはない決定的な違いがあった……それは『石化』だ。


 『コカトリス』は目が合ったものを石化させるという特殊な能力を持っており、並大抵の相手はこれで抵抗すらできずに石に変えられてしまう。そして、冒険者達がこの『コカトリス』の討伐依頼を避けるのもこの厄介な石化の所為でもあり、それゆえに『Sランク』に指定されているモンスターでもあった。


 そして、今まさに『コカトリス』はそれを発動するべく、クラルへ向けてその目を向けた。


「コケエエエエエエエエ!」

「ん? なんだ? 先ほどから鶏がやたらとこちらを睨んできているようだが……」

「こ、コケェ!?」


 しかし、残念ながら、クラルにはその石化が効いていなかった。本の中で語られる『庶民の英雄』というものに憧れていた彼は、少しでもそれに近付くため、必死になって自分を鍛え、その中で彼は知らず知らずのうちに『状態異常耐性』をも身に付けてしまっていたのだ。


 つまり、『コカトリス』がいくら睨んだところでクラルが石化することはなく、それが何であるかすらも知らないクラルは、同情の眼差しを『コカトリス』へと向けながら声を返した。


「いや、よく考えれば、あやつも素直に自分が食糧になりたいとは思ってはいまい……命懸けで挑んでくるのは当然だったな……」


 ――こいつはやばい。


 『コカトリス』が本能でそう考えた瞬間、彼から逃げるべく、その足を全力で動かす。その速度はまさに高速……ただの人間であれば、これだけで逃げるのは容易だった。しかし、それは相手がただの人間であれば……だが。



 ◇



「こ、コケエエエエエエエエ!」

「む? あの鶏、逃げるつもりか?」


 俺達に背を向けてそこそこの速度で走っていく鶏の姿を見ながら俺は顎に手をあてると、「ふむ……」と感心しながら声を上げた。


「なかなか足が速い鶏だ。やはり、この大自然を生きてきただけはあるか……家で飼っていたものに比べ、いきが良いように見える」

「はい。それに、あれだけ速いと身も引き締まっていて、とても美味しそうですね。料理を作る者として、腕が鳴ります」

「そうだな。今からあの鶏を使って作るお前の料理が楽しみだ」

「クラル様……はい! 腕によりをかけて振る舞わせて頂きます」

「そのためには……」

「ええ……」


 そう言って、俺達は獣の如き目になると、俺達に背を向けて逃げていく。鶏へと視線を向ける。


 そして、次の瞬間、俺達は地面を蹴り上げて、一気にその鶏の向こうへと飛んで行くと、地面へと着地し、周囲の土が捲り上がった。


「こ、コケェ!?」

「残念だが、お前を逃がすわけにはいかんのでな」

「ええ。クラル様と私の栄養のためにもあなたには犠牲になって頂きます」

「ゴ……ゴゲエエエエエエ!」


 すると、俺達の言葉に逃げ場がないと悟ったのか、自棄になった鶏が勢い良く突進してきた。


「クラル様!」

「心配するな、相手はただの鶏だ」


 そう答えた俺は突進してきた鶏の攻撃を素手で受け止めると、鶏が声を上げる中、その胴体に軽く拳をぶつける。その瞬間、その背後で木々が倒れる音がした気がしたが……まあ、気のせいだろう。


「ゴ……ゲ……」


 そして、鶏は俺の拳に鶏が声を上げるも、白目をむいて倒れてしまう。そんな鶏が「ドオオン!」それなりに大きい音を立ててと地面に倒れると、俺はそんな鶏を見ながら同情するように声を上げた。


「すまんな……せめて苦しまないように一撃で仕留めさせてもらった。さて、ひとまず、これで当面の肉は確保できたな」

「さすがはクラル様です。では、私はクラル様に栄養のある食事を提供できるよう、全力を注ぐといたします」

「フハハハハハ! 頼もしい限りだな。しかし、仕留めたは良いが、鶏を一から捌いた経験はないな……レフィはどうだ?」

「お恥ずかしながら、私にも経験はなくて……普段はすでに捌かれた状態のもので調理をしておりましたから」

「そうか……しかし、心配する必要はない。こんなこともあろうかと、サバイバルの本である程度知識を得ているからな。その本に鶏の捌き方も書いてあったのだ」

「さすがはクラル様! しかし、クラル様にそのようなことをお願いするのはしのびないのですが……」

「レフィよ、俺はすでにただの『庶民』であると言ったはずだ。ゆえに、我々は平等な仲間として、共にこの世界を生き抜いていかねばならん。よって、俺に出来ることは俺が行い、お前に出来ることはお前に任せる。そして、今がまさにその時……それに、お前の話では鶏には毒が入っていることもあるそうではないか。ならば、この俺の知識を活かして、捌くのが適切……そうではないか?」

「クラル様……そうですね。では、お願いしてよろしいでしょうか?」

「うむ、では、すぐに家に持ち帰り、捌くとしよう。よいしょっと」

「重くないですか?」

「いや、鶏など始めて持ってみたが、意外にも軽いな。大きさは違えど、やはり鶏ということかもしれんな」

「そうなんですね。では、参りましょうか」

「ああ。そういえば、鶏に似た『コカトリス』というモンスターが居るそうなんだが、その体重はなんと1トンにも及ぶそうだ。もし、そのようなものと出会っていたら、さすがの俺達でも危なかったかもしれん」

「そんな恐ろしいモンスターが居るなんて……やはり、外は危険が多いですね」

「ああ……しかし、『庶民』は常にそんな恐ろしい存在と隣り合わせで生きている。我々もこの世界を生き抜くため頑張るとしよう」

「はい!」

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