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第3話 庶民の食事

「―バカなっ……! 庶民は食事を手に入れるのにこんなに苦労していたとはっ……!」


 そう言って、小屋に戻った俺は片手を机に強く叩き付けた。

 直面した現実に打ちのめされたのは俺だけではなくレフィも同じらしく、机に座って肩を落としてしまっていた。食料については少し楽観的に考えていたところはあったからな……無理もないだろう。


 そして、レフィは俺の言葉に小さく息を吐くと、額から汗を流しながら声を返してきた。


「私もまさか『庶民』の方々が食事をするのも命懸けだったとは思いませんでした……ですが、無理を言って付いてきたにもかかわらず、このような時にクラル様にお役に立てないこと自分が不甲斐ないです……申し訳ありません」

「お前が謝る必要はない。今の俺達は『庶民』であり、平等な立場だと言ったはずだ。食糧が必要なら二人で協力して集めた方が効率が良いのは間違いないのだから気にするな」


「クラル様……そのように言って下さり、ありがとうございます」

「うむ。それに、理由はどうあれ食料の手に入れ方は分かったのだ。立派な進歩ではないか」

「そうですね……とはいえ、どうやってモンスターを倒せば良いのでしょうか?」

「問題はそこだな……モンスター一匹、狩れなくては満足に肉を食べることもできんとは……庶民の生活がここまで過酷なものだとは思わなかったぞ」


「はい……改めて、『庶民』の方々の偉大さを痛感いたしました」

「まったくだ。しかし、『庶民』はそんなことを日常茶飯事に行っているとは……一体、『庶民』は普段どのような修行をしているのだろうな」

「私にはとても想像できませんが……それこそ、想像を絶するようなことをされているのではないでしょうか?」


「だろうな……残念ながら、そのような者達に近付くにはまだ俺達では力不足だ。だが、食糧は必須……例え川で数匹ほど見た魚を捕まえたとしても、もって数日というところだろう。それに、あの程度の数では腹を満たすことは難しい……どちらにしろ、モンスターとの戦いは避けられないだろう」

「モンスター……ですか。しかし、モンスターと言ってもどれを討伐すれば良いのか……あ」


 突然、俺と会話していたレフィは何かを思い出したかのように声を上げる。そんなレフィに気付いた俺は声を返した。


「どうかしたのか?」

「いえ……実は以前、山の方に現れるというモンスターの話を他の使用人達がしていたのを思い出しまして……」

「ほう? 山に棲むモンスターか……それは実に興味深い話だな。どんなモンスターだったか覚えているか?」


「それが……直接聞いたわけではないので断片的な情報だけしかないのです……」

「構わん。覚えていることを話してくれれば良い」

「はい。何でも、山に少し変わった巨大な鶏でコカ……何とかという生息していて、目が合うと何かとか……申し訳ありません、本当にその程度の情報しか得ることができず―」

「―素晴らしい!」


 俺は自分を責めるレフィを遮り、興奮気味にそう声を上げると、新たな目標が定まって高揚感が支配するままに声を返した。


「フハハハハハッ! 鶏であるのなら食えぬことはないっ! まして、鶏が強いなどということもあるまい……もしや、これは穴場を見つけたかもしれんぞ?」

「穴場を……では、使用人達が影で話していたのはその穴場が見つからないようにしていたということですか?」

「その可能性は大いにあるだろう。そして、使用人達の仕入先の一つということも充分に考えられる。さすがはレフィだ。お前のような優秀な者が付いて来てくれたことに感謝しているぞ」


「あ……クラル様にそのようなことを言って頂けるなんて……本当に光栄です」

「いや、お前には本当に感謝しているのだ。俺一人では食糧を集めるのにも苦労していただろうからな。今後もお前には苦労を掛けるかもしれんが、よろしく頼むぞ」

「も……もちろんです! この身はクラル様に仕えるためのもの……これからも全力でお仕えさせて下さい。それに、鶏でしたら何度も捌いた経験がありますので、お役に立てると思います。あ……ただ、鶏には毒があるとも話されていました」


「ん? 毒か……なるほど、地方によっては鶏も毒を持っていることもあるのか……だが、毒を持ったものというのは美味であると聞く。つまり、その鶏もそれほど美味いのかもしれんな。食卓に並ぶものはどれも美味かったが、それを考えれば何もおかしなことはない。しかし、山に居るのも鶏ならば、俺達が知らなかっただけで鶏そのものがモンスターの一つなのかもしれんな」

「そうかもしれませんね……まだまだ私達の知らないことは多そうです」


「ああ。ともかく、明日さっそく山へ向かうぞ」

「はい、クラル様」


 そうして、次の目標を決めた俺達は笑い合う。

 目標は山に棲むという『鶏』―それに会う明日が楽しみになるのだった。

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