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君を殺す薬をもらった。僕を殺す薬を渡した。  作者: 玄武 聡一郎
第一幕:黒の五月。灰色の六月。
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六月の報告

「もしもし、春海です」

「おー、春海君じゃないか! 今月も無事に生き残ったみたいだね! 感心感心」

「なんかデスゲームの参加者になった気分になりました」

「面白い例えだ。ジョークのセンスが上がったんじゃないか?」

「別にそんなスキル磨いてないです。報告、もう終わりでいいですか?」

「待て待て、そう焦るな。月に一回しか話せないんだ。もうちょっとこの時間を楽しもうじゃないか。私は雑談が大好きなんだ」

「もしかしてこれ、報告っていう名目にかこつけて雑談に付き合わされてるだけなんですか?」

「まさか、そんなわけないだろう。ほら、あれだ。古賀さん。古賀さんとはどうだ。仲良くやってるのか?」

「仲良く……どうでしょう。普通だと思いますけど――あ、でもこの前ナイフで刺されかけました」

「なに?」

「古賀さんの家に行った時に、呼び止められて、背後からナイフでこう……グサッて。当たりませんでしたけど。あれ、なんだったんでしょうね」

「……そうか。古賀さんが……そうか……」

「……」

「……」

「何か知ってるんですか?」

「……なぁ、春海君」

「はい」

「世界って、なんだと思う?」

「なんですかその抽象的な質問」

「いいからいいから」

「……両手の届く範囲にあるものです」

「なるほど、面白い表現だ。そして一部は正しい」

「部分点がもらえるなら、まあ」

「くっく……そうだな、君はそういうやつだ。じゃぁ次の質問だ。君、散歩は好きかい?」

「散歩ですか。あんまりしたことないですね」

「おや、それはいけないね」

「そうですか」

「いいかい、春海君。世界というのはね、散歩道に落ちているんだよ」

「散歩道に……?」

「そうさ。あてもなく、目的もなく、ただ歩く。するとねえ、いつも通っていた道でさえ、違う顔を見せるんだ。こんなところにオトギリソウが咲いていたのか、とか、こんなところに抜け道があったのか、とか、ここは日当たりがいいから、野良猫がたむろしているんなんだなあ、とか、道の上に捨てられたゴミが、いつも綺麗に回収されているなあとか、今こけた子供は泣かなくて偉いなあとか、あの日ここで交通事故があったなんて、未だに信じられないなあ……とか」

「……」

「そういうところに、世界っていうのはあるんだよ。寄り道して、遠回りして、そうして世界を広げるといい。きっと何かが見つかるはずだ」

「……よく分かりません」

「だろうね。まぁ私の言うことは話半分に聞きなさい。半分聞いたら、十分だ」


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