五月の報告
「……もしもし、春海です」
「おー、春海君じゃないか! ちゃんと生きてるね、えらいえらい」
「生きてるだけで褒められたの初めてです」
「そうなのか。いかんねー。実にいかん。もっとみんな軽率に褒め合うべきだと思わないかい? その方が絶対、世の中うまく回ると思うんだけど」
「さぁ、どうでしょうね」
「っと、いかんいかん。つい話が脇道に逸れてしまう。私は寄り道が大好きなもんでね。それでどうだい、調子は。なにか変わったことはあったかな?」
「いえ、特に。まだディープブルーを貰って一週間ですし、いたって普通と言いますか」
「ふむふむ。いたって普通、と」
「まぁ、ディープブルーの効能をイマイチ信じ切れてないっていうのも、あると思います。本当にこれ飲んだら死ぬのかな、みたいな」
「私が嘘をついているとでも?」
「まぁ、ちょっと」
「あのねぇ、春海君。私がそんな嘘ついて、いったい何の得があるって言うだ。君からは一文たりともお金は受け取っていないだろう?」
「個人情報は渡しましたよ。名前と、あと髪の毛」
「髪の毛なんて集めてどうしようっていうのさ。羅生門の老婆か、私は」
「分かりにくいツッコミですね」
「うるさいよ。まぁ、君のようなタイプは、実際に誰かが目の前でディープブルーを飲んで死ぬまでは信じないだろうね。いや――例え目の前で死んだとしても、信じないだろう。あの人が飲んだのは本当にディープブルーなのか? 中身が別の物とすり替わったんじゃないか? 可能性はいくらでもあるわけだから」
「そうかもしれません」
「結局、君がその薬の効能を信じるのは、実際に飲んで死ぬときだろうね。三か月後を楽しみにしているといい」
「はい、分かりました。……あ、それと」
「なんだい?」
「古賀さんと薬を交換することになりました。今、僕の手元には彼女のディープブルーがあります。一応、それだけ伝えておきます」
「ほう……そうか、薬を交換することになったのか。本来であれば咎めるべきところだが……今回に関していえば、むしろ安全になった、とも言えるのかな。いや、実を言うとね、私は内心ひやひやしていたんだよ。下手すれば君たちは、私との約束を破って、誕生日前に薬を飲んでしまいそうだったからね」
「そうですね」
「そう考えると、君たちの関係性は実にいいね。いやはや、私も肩の荷が下りて、助かるというものだ。うん、誕生日までの三か月、君たちが互いに関わり合うことでどんな化学変化を起こすのか――期待しているよ。それじゃぁ、また」
「何も起こらないと思いますよ。では」