第7話 チョコチュロスとアイスミルク
その後、1980年に開店した果物屋だとか、精肉店(なぜだか揚げ物コーナーのカニクリームコロッケが大人気)だとかその他数店の三条会商店街の店舗に我らは誘われ足を運んだ。
理髪店に到着した際は皆目理由が分からなかったのだが、芳さんの「ハサミがカニを彷彿させるんじゃないかしら。『あわて床屋』とかあったじゃない」が一番の有力説となった。
当然ながら幼少期をローマやウィーン等の海外で過ごしたきな子は、おばあちゃんは何を言っているんだという顔をしていた。
兎にも角にも、アーケードがあるとはいえ六月の午後は気温も上昇し、その中、全長800メートルの三条会商店街を文字通り右往左往した我々は、体力という概念から遥か遠いところにいるデニタスを除いて疲弊しきっていた。
救いだったのは、険悪な雰囲気を通り越し、デニタスの提示する間違いのバカバカしさとその健気さから我々が愉快な三人組と化していったことではあったが、それも限界となり、ひとまず休息をとることとなった。
「あーし、さっきのチュロス屋がいーなー」
きな子が主張したのは、最初に訪れた「チュロス専門店 ビューティファイン」だった。
芳さんは特になにも言わず、僕は思うところもあったのだけれど、この状況で発言権がある訳もないので、きな子の提案を承諾し、すっかり詳しくなった三条会商店街を粛々と進み、大人しく店に入った。
先程の店員さんに今度は客として来たことを告げ、各自メニューを吟味した後に注文をする。
「プレーンチュロスをヨーグルトソースで、それとアイスティを1つ下さい」
「シナモンでー、季節のフルーツソースとーレモネードフロート。フルーツソースは増量でよろしくー」
「チョコチュロスとホットコーヒーのセットをお願いします」
席についた後、今にも何か言いたげとなっていただろう僕の顔を見てきな子は、「わかるよー、わかる。おじさんがなに言ーたいかはわかるんだけど、こーゆーのがいーの。こーゆーペラっペラなのがいーの」そんなことを口にしながら、もうスマホでペチペチと写真を撮っていた。
「イソスタとか?」
「うーん、まあ。正直、あーし自身はどうでもいーんだけどー、やっとかないとやっとかないでー、なんかこっちじゃない的になってその方がめんどいんだよねー。おじさんにだってあるんでしょ、そーゆーの。よその子供褒めたりとかー、会社の人とお酒飲みに行ってたとかー。多分そーゆーのと一緒じゃないかなー」
「そうね。わたしも日曜の朝は町内会のお誘いで小学校にグランドゴルフに行くわね。あれも、そんなに面白くもないのだけれどね」
『Isostagramを起動するデニ?』
旗色悪いな。(そしてデニタス。お前の聞き取り設定と反応はやっぱりなんかおかしいな)
最初に訪れた際に店員さんから聞いて確信したけど、そもそもここはちょっと前まではヤンニョムチキン屋で、その前は確かタピオカミルクティーのテイクアウト、更に以前は白いたい焼きだったり、店主が言っていた焼きメロンパンなんかも売っていたりの、由緒正しい流行り物の焼畑農業みたいな場所なんだけどなとは思ってはみたが、口には出さなかった。
まあ、そんな訳で、なかなかよくない先入観を増幅させつつ微妙におしゃれな丸椅子に座って注文の品を待っていたのだが、届いた揚げたてチュロスは予想を大きく裏切る出来栄えだった。
さっくりもちもちのチュロス生地はもとより、トッピングのヨーグルトソースの抑えられた酸味との相性が抜群で、アイスティーも柑橘の香るちゃんとしたアールグレイだった。安っぽい店と決めつけていた僕は提供された品物の質の高さに驚き、自身の失礼さに恥じ入っていた。
きな子もフルーツソース盛り盛りの画像をスマホに収めた後、ひとくち食べて、めっちゃ当たりの顔をしていた。
不機嫌な様子はまるで消え失せ、ただパクパクと頬張る様子は、年相応の食欲に対する素直さを思い出させるものであった。
つくづくではあるけれど、食べ物が美味しいと感じられると、人は幸せになるものだ。
そんな中、芳さんはコーヒーセットに更に追加で注文したアイスミルクをなんでだか真剣な眼差しで見つめていた。
やがて意を決したかの様にチョコチュロスを口に入れ、アイスミルクを直接コップから飲んだ後、確信に満ちた顔で僕らに向かってこう告げた。
「あら、ここだわ。ミルクと一緒に食べたときの感覚が同じだもの」




