なに学んできたんですか?
恋愛要素少ない
「いいですか。留学するからには我が国にも流用できそうなことを学んできてください。後、吸収するなら構いませんが、染まってこないでくださいね」
わたくしの婚約者であり、この国の第一王子であるティボルト様にしっかり忠告をしました。
「気を付けてください兄上」
心配そうにしていた第二王子のナッシュ様の肩に手をやって、
「心配するなナッシュ。ギアナも何度も言わなくても分かっているって」
とおっしゃったので信じましたよ。まさか。
「逆臣ギアナ。王弟の息女という立場で国家転覆を図るお前を処刑する」
と留学先の王女と恋人になって侵略して来るとは思いませんでした。
「…………何の根拠で逆臣だと」
だから染まるなといったのにと溜息を吐きながら尋ねる。ちなみにここは王城で本来なら留学から帰ってきた第一王子の帰国の祝いをするための準備中だった。
「決まっている!! 我が国の【王になれるのは女性の王族のみ】という法によって、王の直系である者から玉座を奪おうとする、お前に対してだ」
何言っているんだ。この方は。
「国法で決まっているのにそれを逆臣だというのは、間違っていますよ」
「黙れ!! 他国では直系に何かあった時のみ傍系が跡を継げるというのに、女しか就けないという意味不明な決まりで、俺が不条理を味わうのが間違っているのだ!!」
「…………だから、謀反を起こすと」
「謀反? 何を言っている。これこそ正当な行いだろう」
正統行為だと言いながら、多くの留学先の国から借りた兵士を見せびらかして告げてくる。ティボルト様の傍らには綺麗な留学先の王女の姿も。
(だから染まるなと言ったでしょうが……)
頭が痛いと手で押さえる。ふと自分とティボルト様の間に魔力の流れを感じて視線を向ける。
転移を使用してわたくしを守るように神官の格好をした一人の青年が現れる。
「――何か非常事態が起きたと感じましたが、何やっているんですか?」
呆れたように実の兄と兄の婚約者であるわたくしに視線を向けるのは、神官長に任命されたばかりの第二王子ナッシュ様。
「魔法だ……」
「これが魔法……」
信じられないと動揺している他国の兵士たちを見て、他国には魔力が無いのだと話には聞いていたが、それが本当のことなのだと実感した。
「下手に抵抗したら民に被害が出ると思ったので」
「だからって、ここまで侵入させないでください。王太女」
ナッシュ様の説教に返事をする前に、
「なんでそんな不条理を受け入れるんだ!! この国以外は男が王になる。女が王になるのは僅かな例外だけだ。ましてや直系がいるのに従姉妹が継ぐなど間違っているだろう!!」
ティボルト様の言葉を聞いてナッシュ様はどう答えればいいのかと首を傾げ、
「兄上は我が国の建国の話を覚えていますか」
「覚えているに決まっているだろう!! 国に裏切られた英雄が死に掛けた時に一人の女性に助けられて国を建立したと。そもそも女性に助けられて王配になるという話自体間違って伝わっているのだと、調べはついているんだぞ」
人に指を向けて告げる発言に呆れてしまう。
「陛下には……」
「母上が病で倒れたから自分の思うように動かせると思ったのだろう。そんなうまくいくわけないだろう!!」
そっくりそのままお返ししますと言いたかったが、面倒になった。よく見ると我が国の男性貴族の一部も賛同しているようだ。
ああ、我が国は女性が跡を継ぐのが主流だからな。一応男性も跡を継げるが。
「勝手なものですね。なんで俺が神職になったのか忘れているようですし……」
ナッシュ様の呟きに、本当なら結婚して自分の子供を育てたかったという夢を諦めて神職になった切なさを感じられた。神職の大切さを知っているが、それでも時折諦めた夢が胸をくすぐるのだということを、私は知っている。
「……ティボルト様。そちらの姫は」
「ああ。国内で結婚をし続けても利点が少ないからな。同盟としての結婚をするつもりで」
「当然白い結婚ですよね」
確認するが、それの返事は憤怒の表情。
「了承しました。――五年続けばいいですね」
先は予想できたので、魔力を紡いで、この国を脱出したい者たちが安心して移動できる転移門をあちらこちらに設置しておく。
「では、遠い地より末永い天下をお祈りします」
足元に転移門を設定してその場から消える。逆臣という濡れ衣で殺されるのも骨の髄まで利用されるのもごめんだ。
ナッシュ様も当然ついてきて、病で伏せている陛下にも事情を説明して一時的に移動してもらうことを了承してもらった。
当然五年後には戻れる保証があったので事情を知った良識ある民も一時的だと判断して同じように移動した。そのため最終的に民がどれだけ残ったのか分からないが、数えるほどしかいないのは想像がついた。
結果は五年もたたずに出たと知ったのは、魔力で作り上げた新たな国でのんびりと暮らしている時だった。
「兄上の妻になった姫が亡くなったそうですよ。あと、国に移住した女性たちが次々と同じような症状で亡くなって、流行り病か呪いかと言われているようです」
今は夫になったナッシュが、かつての国を探っていた使い魔からの報告を教えてくれる。
「だと思ったわ」
我が国はやや女性の方が立場が高い。それは、我が国の民にだけ魔力があったから。
魔力を持つ者は自分よりも強い魔力を持つ女性としか結婚出来ない。
理由は簡単だ。男性の魔力が強いと性行為を行うと女性の身体に大量の魔力が流れて女性の身体が耐えられないのだ。
国を追われた英雄は、自分の魔力の強さを知らずに多くの女性を殺してしまっての追放だったのだ。
さすがにそんな真実を残すのは辛かったのか口伝のみで残されているのだが、そんな経験から女性を君主にしたという経緯もある。
ティボルト様の直系の魔力に耐えられる女性はわたくし一人しかおらず、ナッシュは相手がいなかったので子供を諦めていた。というのが真実なのだが。
「あの国に残る女性はいないでしょうし、そもそもあの国自体魔力が強いので魔力慣れしていない人は暮らせないでしょうね」
魔力を危険視して取り込もうとしたのだがうまくいかないだろう。第一陛下の病気も魔力の使い過ぎであったし。
そんな事を思いつつ、夫であるナッシュが諦めていた自分の子を愛おしげに抱きしめているのを見つめるのだった。
女王になるのは訳がある