呪術
「恐らく呪術の類なんじゃないのか?」
葛西の電話の相手……オカルト雑誌の編集長だった。
壺の正体が分からないかと、見つけた時点で頼んでおいたのだ。
「一応いろいろ当たってみたが…蛸壺を使った呪術は聞いた事がない」
その島独自のものなのではないか?そういう結論だった。
「問題は誰が、その壺を用意したって事だな」
ひなこの母親が最も有力だろう。
今の所は別の人物が思い浮かばない。
「母親だって事は、その健志って子供に向けての可能性が高い、
だが、呪いってのは術者に返ってくる事もある」
「……心中もそれが原因だと?」
「それは分からん……だが、術者が死んでも呪いは残る可能性があるんだ」
「つまり災いがまだ残っているという事……ですか?」
「まあそのつもりで気を付けろってこったな」
どこか軽い感じの返事。
そう、この稼業ではこういった事は日常茶飯事である。
それは葛西の承知していた。
ただ、どこか今までのケースとは雰囲気が違う気がした。
都合良く割れた蓋……何かこちらを誘い出しているような……
「どうかしました?葛西さん」
隣で目をクリクリさせてこちらを覗き込んでいる瀬奈。
ひなこの話では元気がないが、それ以外ではきわめて明朗快活、
いつの間にかお客さんとも呼ばれなくなっていた。
「明日はどこに行きましょうか?」
島を巡っている間、ずっと話をしていた。
若い人がそこまで多くない為か、話し相手がいると嬉しいようだ。
「あぁ、じゃあ明日は直樹さんと、えっと…四人目の……」
「和真くんですね。私も久しぶりに会うから楽しみだなあ」
まるで遊びに行くかのようだ。
「和真くんとは島を出るまで仲良しだったんですよ」
どうやらあの一件以降も和真とはよく遊んでいたらしい。
瀬奈が楽しそうにしているのはそれもあるのだろう。
とりあえず、明日の出発時間を決めて今日は解散となった。
(和真はともかく……直樹は何か知っているかもしれない)
一番の年長者だった直樹は当時11歳。
それくらいなら十分当時の状況も記憶しているはずだ。
明日聞くべき事を考えながら葛西は床に就いた。