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蛸壺の島  作者: 成田ごんぞう
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封印された壺

一面のサトウキビ畑……


その間を縫う様に通る道路を葛西と瀬奈は歩いていた。

まずは近場を回るという事で、案内役を瀬奈がしてくれた。


収穫の時期が近いのか……背丈以上にも伸びるサトウキビはまるで林の様だ。


「小さい頃はみんなで畑で遊びまわって…よく怒られたんですよ」


少し笑いながらそう言った。


畑の大半は企業が所有するものらしい……時折大きいトラックが通りかかった。

収穫の時期には製糖工場で働く季節工が数多く島に訪れる。

島民にとっても利益をもたらす存在のようだ。


「ほとんど覚えていないんです……」


当時の事を教えて欲しいと切り出した葛西に瀬奈はそう答えた。


無理もない、当時最年少だった瀬奈はまだ5歳……

状況を事細かに理解するのは難しいはずだ。


「ひなこちゃんがとっても可愛い子だったのは覚えてるんです」


ひなこは人懐っこく、誰にでも好かれる性格のようで、

おままごとをして遊んだり、瀬奈は姉の様に慕っていたそうだ。


「今でも思うんです……もし今も元気だったらって……」


いなくなった時は森で遊んでいたらしい。

そこは昔から神隠しの森と言われており、近付かない様言われていたそうだが、子供の好奇心からつい魔が差したのだろう。


「二番目の健志くんがどうしても行きたいって……」


健志は一番やんちゃな性格だったらしく、何かするにも率先して行うタイプだったらしい。

一番上の直樹は対称的に温厚な兄と言った感じで、行き先は大体健志が決めていたようだ。


「健志くんが先に森に入っていっちゃって……ひなこちゃんが追いかけたんです」


どうやら健志を探しにひなこが森に入り、直樹が下の二人の世話をしていたらしい。

健志はしばらくして戻ってきたが、ひなこが戻って来なかった……という事だ。


「健志くん、それですごくひなこちゃんお母さんに責められて……」


幼いとはいえ、原因を作ってしまった健志はひなこの母親にとって許せない存在だったんだろう。

年少の二人はそこまで言われなかったらしいが、一番上の直樹も相当言われたらしい。


「大声で喧嘩してたのは覚えてます……」


何とも言えない顔をしていた。

返す言葉もない……当事者でもなければ瀬奈と親しい間柄でもない、葛西はかけるべき言葉を見つけられないでいた。


その一件以降、4人で会う事もたまには会ったが、上二人の男の子と遊ぶ事はあまりなかったらしい。健志しばらくすると体調を崩して学校に来なくなり、瀬奈が10歳の頃に亡くなったそうだ。


「病気は何だったの?」


「……分かりません。何も教えてもらえないので」


健志の両親は彼の死後、島を出たらしい。

その直後くらいに、ひなこの家が火事になった様だ。



「ここが……ひなこちゃんの家があった所です」


サトウキビ畑を抜けた集落の外れに…そこはあった。

すでに雑草が生い茂り、当時の生活をうかがい知れる様なものはない。

辺りを見渡して見てもコンクリートの土台くらいしか見当たらない。


「もう誰も…ひなこちゃんの事は語りたがらないんです……」


当然だろう…こんな事があったのでは……

恐らく島の誰もが、その事を忘れたいに違いない。


瀬奈もここにはあまり来たくないと思っているだろう。

葛西も特に用はないだろうと思ってたが、ふと落とした視線の先に壺の様な物を見つけた。


「壺……なぜここに?」


「あぁ…それは蛸壺ですね、漁師が良く使うんです」


確かにこの島では蛸漁が行われているらしい。

蛸の島との別名があるくらい地元では有名であり、島に蛸壺が落ちていても別に不思議はないだろう……


(だがおかしい……なぜか厳重に封がされている……)


上から木の蓋がされ、お札の様な物で封がされている。


「この島では、蛸壺をこんな風に使ったりするの?」


「いえ……見た事がないです、こんなの……」



嫌な予感がした。


こういった封印の類は過去の取材でも見た事がある。

そしてそれは例外なく厄災の種となっていたのだ。


封を開けるべきではない……

葛西はそう考えていたが、まるでその考えを見透かした様にお札が剥がれ落ち、木の蓋もボロボロと崩れていった。


「なっ…なんだこれは……」


否応なしに壺の中身を見てしまった……


黒い……何かの塊……

目を凝らすと、それは人の髪の毛だった。



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