パラノイア
老婆が大声で何かを叫んでいるが、上手く聞き取れない。
瀬奈がなんとかなだめようとしているが、あまり効果はないようだ。
「わかったばあさん、ちゃんと話は聞くから落ち着いてくれ」
葛西はその場に座り、その老婆と目線の高さを合わせた。
すると急に落ち着きを取り戻し、着物の裾を整えて葛西と正対した。
そう、葛西は観光の為にやって来たわけではない……
オカルト系の雑誌記者として、この島に起こる怪奇現象を調査に来たのだ。
この手のジャンルは昔から人気だったが、近年は動画サイトの隆盛もあり雑誌の売り上げも低迷していた。
雑誌を補完する自社のウェブコンテンツの拡充を狙う為、こうして手垢がついていない話題を取り上げる事にしたのだ。
「メールした通り、この島では最近怪奇現象が続いています」
瀬奈の話によると、島では謎の地震や怪物の目撃情報が多発しているらしく、観光に来た客からも不安の声があがっているという……そうした事態を何とかしようと行政に訴えたが、大した返事ももらえなかったがゆえに、葛西の会社に依頼をしたという事らしい。
「七つの子の祟りじゃ……」
そう老婆がひとりごちた。
「……七つの子?」
「あ……いえ、おばあちゃんの口癖で……気にしないで下さい」
明るく輝くひまわりの様な瀬奈の顔が、一瞬だけ陰を差した気がした……
こういった商売をしていると、人間の機微に敏感になる。
ちょっとした仕草、言動の変化を読み取り、それが真実かどうかを見定める事が重要だと、よく先輩に言われた事を葛西は思い出した。
「……詳しく聞かせてくれないか?」
老婆は静かに目を閉じ……そして語り出した。
かつてこの島に5人の子供がいたそうだ。
年が近いせいか、その5人はどこへ行くのも一緒で、とても仲が良かったらしい。
だがある日、その中の「ひなこ」という少女が行方不明になった。
島民と駐在していた巡査が島中を調べ上げたそうだが、結局その子が見つかる事はなかった。
ひなこの母は大変悲しみ、一緒にいた4人の子に深い恨みを抱いたそうだ。
家同士でのいざこざも増え、島民達も困っていたある日……
……ひなこの家が火事にあった。
島民が駆け付けた時には既に火の手が強く、島の消化設備ではどうにも出来なかった。
夜を通して家屋は燃え続け、翌日消し止めた時には既に原型を留めていない状態であったそうだ。
丁度居間に当たる所だろうか……ひなこの父が亡くなっていた。
胸に刃物を刺されていた事から、火事の前に亡くなったものと思われる。
そしてかつてひなこの部屋だったと思われる場所で……ひな子の母も亡くなっていた。
辺りは消し炭となっていたが、壁の一部は燃える事無くその姿を保っていた。
そしてその中心に血で大きく
「呪」
と書かれていた。