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蛸壺の島  作者: 成田ごんぞう
19/25

抗うもの

「ばあさん、入るぞ」


瀬奈の家。

老婆の了解も取る事なく、葛西は部屋に入った。


「な、なんじゃお主!」


「……これを見てくれ」


机の上にどんと置かれた物体。

ビニールに包まれたそれは、ひなこの家で見つかった封印された蛸壺だ。


「ひいっ!!なんじゃこれ!!」


「ばあさんならこれが何か分からないか?」


恐る恐るそれを見る老婆……


「こ、これは……こんなもんどこで見つけた?」


「……ひなこの家だ」


老婆の顔が険しい物となる……


「……古いまじないの様なもんじゃ。悪しき存在を封じ込めるための」


「これが割れたという事は、封じられていた物が外に出たんだな?」


「……あぁ…間違いない」


「……なるほど、分かってきたぞ。このノートを見てくれ」


葛西は机の上にノートの中身を拡げた。

事の真相が見えてきたのであれば、瀬奈に見せても構わないとの判断であった。


「葛西さん……これ……」


「ノートには残った4人に対する憎悪の言葉が書かれている。だがこれを見ろ」


最後の部分に書かれた文字。


「絶対にたす…これは絶対に助ける、と書いたのではないか?つまりひなこの母親は、自分の中の良心をまだ失っておらず、残された4人に降りかかるであろう厄災を防ごうとしたんだ」


確信に近いものを葛西は感じていた。

老婆に問いかけたのはその先の事を聞くためだ。


「ここは蛸壺の島……色々な物が因果の名のもとに引き寄せられて来る。ワシや瀬奈がここにいるのも、お主がここに来たのも全て繋がりがあるのじゃ……」


「お、俺がここに来たのも……?」


「あぁ……恐らくひなこの母は、お主に助けを求めておるのじゃ。この一族の女系は皆、感受性が強く霊的能力が高い。おそらく瀬奈を道標として引き寄せたのも運命……」


「おばあちゃん……」


運命…オカルト系雑誌の編集を生業としてはいるが、葛西はそういった類のものは信じていない。

だが、「何か」がこの島に存在しており、災いを起こそうとしている事は間違いないだろう。


「その運命とやらがあるのなら、一緒に入っていたこのお札も意味があるのか?」


「恐らく封印の為に使うお札じゃ……」


「つまり、同じ呪式を行えば……呪いは封印出来るという事だな?」


……老婆は頷いた。


「じゃあ和真ちゃんも死ななく済むんだね!」


瀬奈の顔がぱぁっと明るくなる。


「あぁ、だが問題もある」


葛西の仮定――


ひなこの母親は良心に従って呪いの封印を試みた。

だが、ひなこの両親は亡くなり、家は火事になっている。

そして今また封印が解かれた。


「恐らく封印を阻む「何か」がいるんだろう。そしてそれがひなこをさらい、両親に手をかけた」


老婆がそれに続く……


「悪しきものは人の心に入り込む。ひなこの母も心のわずかな隙をつかれたのじゃろう……必死に抗い封印は施したものの、悪しきものを祓うまでには至らなかったんじゃ……気の毒に……」


言葉を続ける老婆の頬には涙が流れている。

そして静かに手を合わせ、ひなこの母の冥福を祈っていた。

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