限られた時間
「先代も高名な住職でした。でも呪いわずかに遅らせるのが精いっぱいだったのです」
上半身裸になった和真の背中、痣の周りに経文の様な物を書く住職。
「ともかく、やれるだけの事はやってみます」
住職は読経を始めた。
夜の暗闇の中、薄明りに照らされた境内で呪いを止める儀式が行われている。
葛西と瀬奈の二人は、それを見守る事しか出来なかった。
…………
後からやって来た両親が和真を抱き抱えていた。
既に事情は住職から聞いている。健志の事を考えると、これから自分の息子に起こり得る事に対する恐怖と不安でいっぱいなのだろう。
「和真くんは、しばらくこの寺で過ごしてもらいます」
両親は深々と頭を下げ、どうかよろしくお願いしますと頼み込んでいた。
帰りは和真の両親の車に乗せてもらったが、道中一切言葉はなかった。
「これから……どうなっちゃうんですか?」
消え入りそうな瀬奈の声……
瀬奈の家の前まで送ってもらい、葛西は宿に帰ろうとしていたが引き留められた。弱々しく袖をつかみ、小さく震えているのが分かる。
葛西は瀬奈の目を見つめた。
「まだ時間はある……必ずやれる事があるはずだ」
瀬奈は泣きながらもうんうんと頷いていた。
「すみません……そうですよね。何とかしないと……おやすみなさい」
葛西に促され、家の中へ入っていた。
「さて…俺も宿に帰るか……」
少し歩き、振り返り……改めて瀬奈の家を見る。
古き日本家屋といった感じだ……近くには蔵まである。
「梅紋だな……」
蔵の扉の上に家紋があった。結構な名家だと思われる。
(この家のばあさんが、何か知っているかもしれないな……)
時間は限られている。
やれる事は全てやらなければならない……