葬儀の裏で……
「葛西さーん、ここですよーっ!」
待ち合わせの港で、和真が大きく手を振っていた。
この日は直樹の葬儀が行われいた。
部外者の葛西は、基本的に何も関わる事は出来ない。
通夜の日は一応顔は出したが、それ以外は集落周辺を散策していた。
瀬奈は色々とやる事があるらしい。
逆に和真は葬儀以外は特にやる事がなく、こうして調査に付き合ってもらっている。
主な事は父親がやっているだろうし、こんな時に男衆が時間を持て余すのは田舎特有の事象だ。
「さて、行きますかー」
調達出来たのは軽トラックだったが、発進した途端、ガコンガコンと車が暴れた。
「大丈夫かい?」
「だーいじょうぶっす!ちょっとマニュアルに慣れてないだけですよ!」
その後も不安定な運転を繰り返したが、なんとか行先の森に到着した。
一部は公園として整備されており、そこから森に入るのが都合が良い。
「例の村を調査するんですよね?」
腕を振り回し、やる気に満ち溢れている。
和真も通夜の時は悲しい顔をしていたが、今日は一転してこの態度である。
全体的にチャラい雰囲気はあるが、こういった切り替えの早さは流石だ。
「詳しい場所は分かるかい?」
「ええ、奥に大きな鏡岩があって、その近くに村の跡と祠があるんですよ」
森の中に踏み固めた様な道が続く。島民が定期的に出入りして祠の手入れをしている様だ。
小高い感じになっているのか緩い坂が続き、足にも少し疲れを感じ始めたくらいに鏡岩に到着した。
「なるほど、これが鏡岩か……」
森が開けた場所にその岩はあった。
日光を反射して周辺はとても明るく見える。
「昔の人は、ここを中心に村を作ってたらしいっすね」
流石に年月が経ちすぎているせいか、村の痕跡はほとんど見られない。
だが石の土台などを見ると、ここでかつて人の営みがあった事は窺い知れる。
ひなこと入った所も、この近くだったらしい。
「瀬奈は連れて来なくて正解だったかもしんないですね……」
神隠しにあうのは女性らしいから、和真がそう言うのも納得出来た。
「……祠はこれです」
鏡岩から少し海岸に向かって進んだ所に…祠はあった。
ここからだともう木々の隙間から海が見える。
「この祠は…寺が出来る前からあったらしいですよ」
確かにかなり古い印象を受ける。この村が健在だった頃からの名残かもしれない。
だが、古いという以外は特に何も変わりのないものであった。
「ん……裏に何かあるのか?」
何かが割れた破片が散らばっていた。
「あー何か封印された蛸壺があったらしいですけど、割れちゃったみたいですねぇ」
蛸壺、と聞いてひなこの家の物を思い出した。
ゆっくり裏手に回り込み、中身を確認してみる。
「……な、なんすか……これ?」
黒い塊……劣化はしているが、大量の人の髪の毛だった。