蛸壺の呪い
「呪い……ですか……」
30代半ばほど…坊主というにはやや若い印象の住職が首をかしげている。
島の中央辺……小高い丘の上にその寺はあった。
当時を知る先代はすでに亡くなっており、今はその息子が後を継いでいた。
「うーん、当時は私も内地におりましたので……」
直接の目撃者ではないが、何か聞いてはいないか……
葛西はそう思い尋ねたが、あまり収穫はなさそうな印象であった。
「ただ生前、先代が語っていた事があります」
住職が出したのは古い書籍……先代が書き残したものらしい。
「ここを…見て下さい」
なにやら図の様な物が描かれていた。
「こ、これは……」
「直樹くんのと一緒……」
2人は驚きを隠せなかった。何せ直樹の痣とそっくりのものが描かれていたからだ。
「これは健志くんを見た時のものらしいです」
記述によると痣は健志を蝕み、身体は衰弱し、徐々に精神にも影響をきたしてそうだ。
最期は人か物の怪かの区別もつかないような声をあげて絶命したらしい。
「先代は言っていました。この痣があらわれる時、再び災いが起こると……」
(ん、ちょっと待て……)
葛西は直樹にその痣があらわれている事をこの住職は知らないのでは?と感じた。
「住職、直樹さんの事はご存じですか?」
「直樹くんですか?」
…………
「なんという事だ……そこまで呪いが進行していたなんて……」
やはり知らなかった様だ。住職は驚きの表情を見せていた。
無理もない。今の住職は当時内地にいたし、直樹が痣の異様さに気付いたのはここ数年の事らしい。
先代はすでに亡くなっていたから相談しようという考えもなかったのだろう。
「呪いと……はっきり分かるもんなんですか?」
「ええ、ほぼ間違いなく蛸壺の呪いだと……」
これまでつかみどころのないあやふやだった存在が、
今、ようやくその輪郭を見せ始めようとしていた……