トロッコ問題
特にやりたいこともないし仮にあったとやろうとも思わない。
あまりにも自堕落、無気力、そのうちに溶けてなくなってしまうのではないかと思うぐらい体が動かない。そんなことを思っているうちに眠くなって寝る、起きて別にやりたいとも思わないゲームを義務のようにログインとデイリーだけ行い、カップラーメンを食べて寝るといった生活。なんで生きてるのか自分ですらわからない、いっそ楽に死ねたらいいのに。
「あーあつまんね、なんか面白ぇことないかなぁ、それか楽に死ねねぇかなぁ」
なんの得にもならないような独り言を毎日のようにぼやきつつネットサーフィンをしている、いや、サーフィンのように素早くスクロールしていたのは先程までだった。
「トロッコ問題REAL…?なんだこれ」
トロッコ問題、有名な心理テストである。線路は二又にわかれており、人が縄で縛り付けられている。片方には老耄が5人括り付けられており、もう片方には将来有望な若者が1人括り付けられている。二又にわかれているところにはレバーがあり、レバーを弄れば若者が、弄らなければ老耄が死ぬ。トロッコは容赦なく走ってきている。貴方はレバーを弄るか、という問題。心理テストなので正解などはなく、こちらを選んだ人は〜、と言ったものである。そんなトロッコ問題をやったことがなく、なんとなくやる気になったため、クリックした。
「トロッコ問題REALへようこそ!」とだけ書かれたシンプルな画面を再びクリックすると、説明が現れ、男の声で読まれた。
「トロッコ問題REALは有名なトロッコ問題をリアルにしたものです!様々なシチュエーションを用意してあります!是非プレイしてみてね!」
そりゃREALって書いてあるんだからリアルになるだろうと呆れつつ、スタートと書かれたボタンをクリック…しようとしたがない。これじゃ始められないと思ったら矢先
「…なんでこのボタンはあるんだ…?」
そこには「END」と書かれたボタンがスタートボタンのあるべき場所にあった。トロッコ問題REALをやりたいのにENDしかないのかと腹をたてつつ、どうなるか気になったのでボタンを押すと、普通にトロッコ問題REALがスタートした
「プログラミングミスか…?こんな初歩的なミスしてるようじゃ、リアルなんて期待できなさそうだな」
自分が碌にプログラミングを出来るわけでもないのに大口を叩く。何故こうも自分では何も出来ないくせに人にはああだこうだと指示をするのだろうか。
「第一問!どっちを助かる!?!?」
画面は左右で分割されており、何方かをクリックして助ける方を選ぶようだ。
「片方が犬でもう片方が…あ!?これっ!?」そこに映っていたのはとあるアニメの初回限定版Blu-rayBOXであった。男はそのアニメの熱狂的オタクであり、そのBOXは喉から手が出るほど欲しいものであった。だが親の残した貯金という名の脛を齧り働きもしないくせに暇だ暇だやることはないかやれこれはダメだこんな奴はダメだと一丁前にほざく、まるで人間の性根の腐った部分を集めたような差ながら生き肥溜めというあだ名がお似合いの男にそんなお金はなく、見逃していた。制限時間は1分ある。だが男は迷わずBOXの方を選んだ。するとこんなアナウンスが流れた。
「選ばれなかった方が、貴方のお家に届きます!慎重に考えてね!」…男は少しゾッとした。理由は2つある。1つ目が何故家に届くのだろうか、そんなことしてなんの必要があるのか、そして何故こちらの住所等を知っているようなことを言うのだろうかと。当たり前にこれはゲームである、住所登録なんてない。もしかしてウイルスに感染したのか…?しかしこのページを踏んだ際にウイルスバスターは反応を示さなかったため、その可能性は消える。もしかしてこのゲームの最後に登録ページがあり、そこで登録したら送られてくるのではないか、そう考える他ない。ならそこに登録しなければいい、男は少し安堵した。もう1つの理由は、やたらグラフィックが綺麗なことに起因している。先程この男はこんなミスしてるならクオリティはうんたらとほざいていたが、そこに映し出されている犬とBOXはとてもCGとは思えないぐらい本物そっくり…「リアル」であった。だがそれのせいで想像できてしまったのだ、犬がトロッコに轢かれグチャグチャになっており、それが自分の元に送られてくるのを。男はあまりそういったものに耐性がなく、少し嘔吐いてしまった。だがこれはあくまでゲーム、それに送られてくることはない、そう自分に言い聞かせた。が轢かれる姿すら見たくない、そう思った男は渋々犬を助ける方に選んだ。そして1分が経ち、結果発表になった。
「犬を助けました!BOXは…残念!お亡くなり〜!」
そういうとトロッコが猛スピードで画面外から走ってきて、BOXの方に進路を切り替えた。そしてBOXはトロッコに轢かれ、粉々になっていた。思ったよりちゃんと動くCGに、犬を選んで良かったと心底思った。
その後はトロッコではなくなったが、類似した問題が出てきた。がと、男にとって答えが決まっているような問題ばかりが出てきた。
「第二問!どっちを助ける!?」林檎と馬が出てきて、弓矢で撃ち抜かれないようにするものだったため馬を選んで助けた。
「第三問!どっちを助ける!?」猫とマトリョシカが出てきて、粉砕機に入れられないようにするものだったため猫を選んで助けた。
こんな問題が数問続いた後、ラストと表示された後こんな問題が提示された
「最終問題!どっちを助けたい!?」そこに出てきたのは一番最初に出てきた犬と…男自身だった。
「は!?なんで俺が…カメラなんかつけてねぇのに!」
男は取り乱したが、そんなのお構いなしにこんなアナウンスが流れた。
「今回は制限時間なし!ゆーっくり考えてね!因みにワンちゃんには飼い主がいるよ!」
よくよく見てみると確かに首輪がしてある。だが所詮ゲーム、CGである。どうせどちらを選んでもプレイヤーが死ぬエンディングが流れる、所謂びっくりサイトなのだろうと思った。それなら犬を選ぼうと思って…手を止めた。これがもし本当だったら…?と想像してしまった。先程から壊されているBOXや林檎やマトリョシカ、CGで片付けるにはあまりにも本物そっくりである、そして題名にしっかり「REAL」と書いてある。男は後悔した、何故今まで気づかなかったのかと。このリアルは本物そっくりということではなく、本物なのである、まさしく「REAL」である。急いでブラウザバックしようとした、がアナウンスが流れる「選ぶまでは画面は切り替わらないよ!」パソコンを切ろうとした、コンセントも抜いた、家のブレーカーすら落とした。が、男の努力も虚しく先程と同じアナウンスが響くだけである。
「わかったよ!…選べばいいんだろ!?なら選んでやるよ!」
そう言って男は自分を選んだ。犬なんか選ぶ義理がないと。するとアナウンスが流れてきた。
「選んだのは…プレイヤー自身だね!」
これで俺は助かる、そう思った矢先
「だけど助かったのは犬だよ!」
そんなアナウンスが聞こえてきた。勿論その内容は男にとって到底理解できるものではない。だがもっと理解できないことが起きている。そのアナウンスはパソコンの画面からではなく、男の頭の上から聞こえてきた。男は驚いて後ろを振り向くと、背の高く帽子を深々と被った男がいた。
「お前誰だよ!?どっから入った!?警察呼ぶぞ!!」
「私はこのゲームのアナウンスですよ!助からなかった貴方を殺しに来ました!」と元気に言う男。
「ふざけんなよ!ゲームでちゃんと俺を選んだだろ!」
「えぇ、確かに貴方は貴方自身を選ばれましたが…問題文、ちゃんと読みましたか?」
「は?」男は画面に目を戻した。
「最終問題!どっちを助けたい!?」よく見るとそこには「助ける」ではなく「助け『たい』」と書いてある。
「は!?これどういうことだよ!?」
「そのままですよ、何方を助けたいかと聞いているんです、貴方の意見ですね。ですが選ばれた方が助かるなんて何処にも書いてないですよ?」
「んなの卑怯じゃねぇかよ!どっち選んでも俺になんだろ!?気持ち悪ぃ!」
「気持ち悪いのはお前だ」男の口調と声色が急に変わった。
「働きもせず死んだ親の脛を齧りそのくせデカい口だけ叩くような無能人間と1匹の家族として役を全うしている犬、そこら辺の方に何方を助けたいかをインタビューしたら答えは犬一択だと思いますよ」
「んだよそれ…意味わかんねぇよ!ふざけんなよ!」
暴れる男の額に冷たいものが当たった。それが何か理解出来た瞬間男は動きを止めた。
「なんの役にもたたないくせに暴れんじゃねぇよ。さっさとくたばれ」
「待て!まだ死にたくない…!」
「…何故?」
「まだ見てないアニメだってあるし、親の金だって残ってるからまだ働かなくても生きてられる…!!それにまだ雇ってくれるところはきっとあるはず…」
「選ばれなかった役立たずのプレイヤーは…残念!お亡くなり〜!」
男が言い終わらないままそう高らかに宣言し、男の額に当てられた冷たい銃口から弾が撃ち出された。
「自分にとって利益のないものは切り捨てなきゃね」
読んでくださってありがとうございます。
駄文ですみません。夜中に書いているので眠たくて変な文だったり誤字脱字が多いと思います。すみません。見つけ次第報告してくださるとありがたいです。めんどくさいならいいです。またこうやって書いていけたらなと思います。