Cランクダンジョン
フィエラとのデートを終えた翌日は休みにして二日後。俺たちはCランクダンジョン『果てのない大地』へと入る許可を貰うため、冒険者ギルドへと来ていた。
以前来た時と変わらず、ここのギルドでは朝早くから他の冒険者たちが依頼掲示板の前でその日に受ける依頼を吟味しており、とても賑わっていた。
俺たちは依頼掲示板を気にせず受付へ向かうと、一番空いている列に並んで順番を待つ。
少しして俺たちの番になり、受付の女性に頼んで果てのない大地へと入る許可を貰うと、さっそくダンジョンの方へと向かう。
Cランクダンジョン『果てのない大地』は門を出てから森の方へと少し歩いた所にあり、海底の棲家よりも行き来がしやすい。
それにCランクの冒険者はかなり多いため、ダンジョンへと続く道にはそれなりに冒険者が多くいた。
俺たちもその人たちに続いて道を歩いていくと、20分ほどで森へと辿り着き、そこからさらに10分ほど歩いてダンジョンの入り口へと着いた。
さっそくダンジョン内へと入った俺たちは、中の広さに少しだけ驚いた。
まだ1階層目だというのに、ダンジョンの名に恥じぬほど広大なこの大地は、見た感じどこに下へと続く道があるのか分からなかった。
「海底の棲家も広かったけど、こっちもなかなかに広いな」
「ん。壁も見えない。どうなってるんだろ」
「おそらく時空間魔法で部屋の中を拡張しているんだろう」
「時空間魔法?」
「あぁ。別に不思議なことではないさ。俺らが使ってるマジックバッグも時空間魔法で見た目より多くの荷物が入るし、ダンジョン自体いつから存在するのか分からない。
なら、ダンジョンコアがダンジョンを作る時に時空間魔法を使っていても不思議じゃないだろ?現に、空間魔法が付与されたアイテムが高ランクダンジョンでは手に入るわけだし」
「なるほど」
ダンジョンがいつの時代から存在しているのか、それを知るものは一部の例外を除いておそらく存在しない。
いや、もしかしたらその例外よりも前からダンジョンが存在している可能性もあるが、それを調べる術は今はなかった。
であれば、ダンジョンコアが古代魔法と呼ばれる魔法をダンジョンを作る時に使用していたとしても、何ら不思議ではない。
「まぁ、とりあえず今は先に進もう。ここにいるだけじゃ攻略は出来ないしな」
「だね」
軽く準備運動をした俺たちは、自身に身体強化をかけると、その場から消えたように移動する。
足元は草が生えているだけで特に障害となるものはなく、たまに大きな岩があるくらいで非常に走りやすかった。
フィエラも海底の棲家の時は足元に気を使うことが多くてストレスを感じていたのか、今は楽しそうに走っていた。
走りながら移動してしばらくすると、目の前には赤い牛型の魔物が現れるが、フィエラが瞬殺してしまうため全く相手にならない。
空からはパーピーやイーグルなどの中型魔物が襲ってくるが、俺が風で刃を作って飛ばしたり、剣で切り落としたりしているのでこちらも相手にならなかった。
「なぁ。やっぱこのダンジョンに挑んだの時間の無駄じゃないか?」
「でも、こんなに走れるのは楽しい。明日は潜らなくていいから、今日だけ付き合って」
よほどストレスが溜まっていたのか、フィエラはそう言いながらさらに加速した。
俺はこれ以上言っても意味がなさそうだと判断し、仕方ないと諦めて彼女に着いて行く。
それに、俺自身このダンジョンにかけられている空間拡張の魔法には興味があったため、今後のためにも分析してみたいと思ったのだ。
下の階層へと続く道は俺が探知魔法で探すこともできたが、フィエラが勘でこっちだと進んでいくので、今回は彼女に任せて攻略を進めて行く。
途中で冒険者パーティーが魔物と戦っているのを見かけたが、俺たちは気にも止めず駆け抜けると、その冒険者だけでなく魔物までもが唖然として動きを止めていた。
そんな感じで最速で駆け抜けて来た俺たちは、1時間半ほどであっさりと5階層までたどり着く。
「フィエラ。お前は少し休んでてくれ。俺はこのフロアの壁まで行ってみる」
「一緒に行く?」
「いや、すぐに戻ってくるから大丈夫だ。行ってくる」
「いってらっしゃい」
フィエラに見送られた俺は、身体強化に加え部分的に白雷天衣を使用すると、雷のような速さで移動する。
「本当に広いな」
それでもなかなかフロアの壁に到着することができず、5分ほど走ってようやく壁へとたどり着く。
「これが壁なのか?」
そこにあったのは鏡のように景色を映している壁で、何も知らずに進めばそのままぶつかってもおかしくない作りをしていた。
「面白いな。これを魔法で再現できたら戦いの幅も広がりそうだ。だが、その前にこのダンジョンの魔力に干渉するとしよう」
俺がこのダンジョンの壁まで来たのは、ダンジョンの壁に触れることでこのダンジョンを作ったダンジョンコアの魔力に干渉し、広大なフロアを作った空間魔法を分析するためだった。
別に壁ではなく地面に触れるだけでも良いのだが、単純にフロアの広さとどういう作りなのか知りたかったので、ここまで来たというわけだ。
「んじゃ。さっそくやりますか」
以前、海底の棲家でダンジョンの魔力に干渉した時は権限を奪いに行ったので魔物が現れたが、今回は干渉するだけなので魔物が現れることはない。
なので、心置きなく分析に集中することができるのである。
(なるほど。やっぱりここは空間拡張がされているのか。いや、このレベルだともはや擬似的な世界の創造に近いな)
空間拡張だけであれば、それは空間魔法という認識になるが、ここは空間拡張に加え魔物を作り出し、さらには緻密に張り巡らされた魔力の脈によって天候操作や太陽さえも作り出している。
この中はまさに一つの世界と言っても過言では無く、擬似的な世界の創造と言えるレベルの高度な魔法が使われていた。
「今の俺には再現不可能だな。空間拡張までなら何とかなるが、擬似的な世界の創造となると…」
一つの可能性として、古代魔法に創造魔法というものがあったらしいが、こちらは時空間魔法よりもさらに高度な魔法で、必要となる魔力量も計り知れないほどだ。
創造魔法が起源となり、そこから派生したのが現在の錬金術であるらしいが、錬金術は創造魔法の劣化版であると言われている。
その理由は、創造魔法が自身の魔力だけで色々なものを作れるのに対し、錬金術は素材や魔法陣やらと準備しなければならないものがたくさんあるからだ。
「一人の魔法を使う者としては、是非ともその頂に辿り着きたいものだが、創造魔法についてはほとんど情報がないからなぁ」
俺が知っているこの情報も、前世で学園にある図書館で読んだ本に少しだけ説明が書いてあったから知っているだけであって、実際にどんな魔法が使えたのかまでは記されていなかった。
だが、この世界にはまだ攻略されていないダンジョンや未発見のダンジョンもまだまだあるため、もしかしたらどこかに創造魔法の魔導書があるかもしれないと結論づけ、俺は壁から手を離した。
「とりあえず、空間拡張の感覚は掴めた。あとは時空間魔法が使えるようにならばいいだけだな」
調べたかったことを調べ終えた俺は、来た時と同じように魔法を使ってすぐにフィエラのもとへと戻るのであった。




