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こちらも再開

 人畜無害の幹部であるジェリームが拠点としている建物の近くに転移した俺は、自身にもう一度不可視化の魔法を掛けて建物の中に入ると、気配感知遮断、魔力感知遮断、遮音の魔法を重ね掛けして建物の中を歩いていく。


(ふーん。かなり儲かってるみたいだな。成金みたいで俺の好みじゃないけど)


 建物の中は至る所にたくさんの絵画や壺、それによく分からない像などが飾られており、如何にも成金のような財力を誇示するこの建物は、シンプルな飾り付けが好きな俺には根本的に合わない場所だった。


(こういう成金は、馬鹿みたいにみんな高いところを好むからな。どうせあの男も一番高い場所にいるんだろう)


 悪党とは、不思議なことに大半の奴らがやる事と考えることが同じで、組織に属せば一番上の部屋を使いたがるし、何かを隠したければ地下に施設を作りたがる。


 そして、こんなに金目の物ばかり飾って財力を誇示する人間は、大抵一番高い所に部屋を設け、豪華に飾りつけた扉の奥に居るものなのだ。


(こんな感じのな)


 4階の最奥にある一番大きな扉。


 その扉は金のドアノブに同じく金を使った細かな細工が施されており、確かに立派ではあるのだが、目が痛くなるほど金が使われているため見ていて目が疲れる。


(ほんと、悪趣味だ。まぁ、奴はこの中に居るみたいだし、このまま入るか)


 気配感知で部屋の中を調べてみると、ナグライアと話をしていた時に覚えたジェリームと他数名の気配が感じられたため、俺は扉の向こうへと転移して中に侵入した。


「それで?あの女の様子はどうだった?」


「特に変わった様子はありませんでした。今日も部屋から出る様子はなく、宿を管理している部下の報告では、部屋からも一歩も出る事なく過ごしているそうです」


「そうか」


「あの、お言葉ですが、やはりあのナグライアが我々を裏切っているというのはあり得ないと思うんですが。これまでの彼女とそのクランである毒蛇の鉤爪の貢献は大きかったはずです。それに、彼女が我々を裏切っても犯罪者であることは変わりませんから、その後の生活が苦しくなるのは彼女たちの方です。我々を裏切ることにメリットなど無いはずですが」


 どうやらジェリームは、突然この国に留まることにしたナグライアを怪しんでいたようで、彼女を探るために部下と宿屋の人間を使って監視していたようだ。


「甘いな、ボイマン。犯罪者だからこそ簡単に裏切るんだ。俺たちには道理もなければ義理もない。あるのは尽きることのない欲のみ。金銭欲、殺人欲、色欲、物欲、俺たち犯罪者の原動力は一般人よりも強いその欲だ。その欲を満たすためなら、俺たちは例え死ぬ間際まで続いた長い付き合いだとしても、その関係を断ち切り裏切るんだ」


「僕にはまだ、その感覚はよくわかりません」


「お前はそういった経験が浅いからな。ここでの仕事が長くなれば、そのうち理解できるやうになるさ。とりあえず、ナグライアの監視はこれからも続けろ。少しでも怪しい動きがあれば報告するんだぞ」


「わかりました」


 ナグライアの話が終わったのか、ジェリームは机に足を乗せて葉巻を咥えると、部下に火を付けさせて煙を吐き出す。


「それで?今回の奴隷には使えそうな奴はいたか?」


「まぁまぁですね。昨日ナグライアが連れてきた連中は元騎士も居たようなので使えそうですが、半分は村人と変わらない一般市民でした。あとは先ほどシーランたちが連れてきた冒険者数名ですが、こちらはBランク冒険者も居たので、そいつらは使えると思います」


「ほぉ。冒険者か。それなら当たりだな。あとでシーランたちには多めに金を渡しておけ」


「そう言われると思い、すでに多めに金を渡しております」


「そうか。あとは、奴隷組合の他の幹部連中についてだな。ナグライアの件があったから、他の奴らにも改めて協力関係にある奴らを調べるよう伝えたが、連絡はあったか?」


「その件についてはまだ連絡はありません。恐らくは、情報を集めるのに時間が掛かっているのではないかと」


「わかった。なら、そっちはもう少し待ってみるとしよう。お前はもう下がっていいぞ」


「わかりました」


 ボイマンと呼ばれた男は一度頭を下げてから部屋を出ていくと、この場にはグラスに酒を注いで飲むジェリームと、姿を消したまま水クッションに座って宙に浮かぶ俺だけが残る。


(ふむ。酒を飲み始めたか。これは都合が良いな。このまま酔ったところを催眠魔法で眠らせて、証拠でも探すとするか)


 最初は殺してから分身体でも作って決行日まで時間を稼ごうかと思っていたが、このまま酔ったところを眠らせられるのなら、フーシルに渡す生け贄を減らさずに済むのでお得だった。


 それからしばらくして、葉巻を吸っていたからかすぐに酔った様子を見せ始めるジェリームに近づいた俺は、催眠魔法を使って彼を眠らせた。


「念の為、この部屋全体に遮音魔法を掛けておくか」


 もしかしたら、何かしらの音で異変を感じた部下が戻ってくる可能性があるため、音が外に漏れないよう遮音魔法を部屋全体に展開した俺は、自身に掛けていた魔法を解除して部屋の中を物色していく。


「こういう奴らが隠す場所の定番といえば、本棚の裏にある隠し部屋か、絵画の裏にある隠し金庫だよな………ビンゴ」


 机の隣にある本棚を眺めたり、壁に掛けられた絵画の裏を探してみると、丁度手に触れた絵画の裏に少しだけ溝のある場所があり、直感的にそこが隠し金庫である事が分かった。


 ただ、開けるための取っ手や鍵を刺す鍵穴などは見当たらなかったため、さらに部屋の中を探していくと、棚の上に置かれた剣を掲げる小さな像が気になった。


「これか?」


 どうやらその像は、魔力を使って調べてみると魔道具だったようで、最初に流し込んだ魔力と同じ魔力を流すことで動かすことができる代物だった。


「そうなると、当然その魔力はジェリームのものだろうな」


 俺はぐっすりと眠っているジェリームに触れて彼の魔力を分析すると、その波長を読み取り自身の魔力を変質させ、変質させた魔力を棚に置かれた像へと流し込む。


 すると、その像の目が紫色に光、右手に持っていた剣を下におろすと、絵画の裏でカチッと鍵が開くような音がした。


「はは。随分と手の込んだ仕組みだな」


 絵画を取り外して先ほどの場所を見てみれば、そこには黒い扉で覆われた金庫が壁に埋まっており、今度は古典的なダイヤル式のロックがされていた。


 流石に番号を何のヒントも無しに当てるのは難しかったため、未だ夢の中にいるジェリームに意図的に番号を決めた時の夢を見させると、彼は譫言のようにその番号を口にする。


「0…4…0…8……」


「0408ね。おーけー」


 番号通りにダイヤルを回して鍵を開けると、その中には各地の冒険者ギルドとの繋がり、各国に違法奴隷を販売する時の許可証と契約書、さらにはサルマージュの国王と交わした帝国を落とした後の報酬についてまとめた契約書まで保管されていた。


「証拠としては十分だな。念の為、複製したものでも置いておくか」


 手に入れた証拠となる書類は全てストレージへと入れ、金庫の中には分身体を作る魔法の応用で作った偽の書類をしまい鍵を締め直すと、全てを元通りにしてから部屋に掛けていた遮音魔法を解除する。


「これで必要な証拠は全て揃ったし、地下施設の方に戻るか」


 これ以上はこの場で得られるものが無いと判断した俺は、転移魔法を使ってジェリームの部屋から姿を消すと、アイリスたちがいる地下施設へと戻ってくる。


「なんだ?」


 すると、地下施設は夜だというのにとても騒がしく、入り口がある方で何やら誰かが言い争いをしているような声が聞こえてきた。


「お帰りなさい、ルーナさん」


「ただいま、リリィ。それより、向こうが騒がしい気がするんだけど、何かあったの?」


「あぁ、それが……」


 出迎えてくれたアイリスに何があったのか尋ねてみると、彼女にしては珍しく嫌悪感を含ませた表情で言葉を詰まらせ、あからさまに騒動が起きている方向から視線を逸らした。


「ミーゼ。何があった?」


「実は、新しく連れて来られた冒険者と元々この場所にいた冒険者たちで揉めておりまして。その原因が、私たちと一緒に来たカーリロの元騎士やギルド職員のことについてのようなのです」


「あぁ。そう言えばあいつら、今日もなかなかの扱いを受けていたもんね」


 カーリロで悪事に手を染めていた元騎士やギルド職員たちは、昨日に引き続き暴力や食事を抜かれるなどの扱いを受けており、それでも俺が掛けておいた継続回復の魔法のお陰で肉体的には元気にやっているはずだった。


 しかし、どうやら新しく連れて来られた冒険者は奴らのことを知らないためかその状況を受け入れることができず、その行為を行っている冒険者や村人たちを非難、あるいは元騎士たちを擁護しているのだろう。


「つまり、その新しくきた冒険者というのが、状況もわからずあいつらを守っているということか」


「まぁ、その。守っていると言えばそうなんですが……」


「どうした?違うのか?」


 先ほどまで淡々と答えていたミリアだったが、突然歯切れが悪くなると、どう説明したら良いのかと迷っているような様子を見せ始めたので、今度はシャルエナが説明を始める。


「守っているというのは間違いない。現に冒険者の主張は、『証拠も無いのに悪だと決めつけるのは良くない』だとか、『まずはこの人たちにしっかりと話を聞くべきだ』など、状況を知らない者の言葉としては至極真っ当なものだった」


「そうだね。まぁ少し正義感が強い感じはするけど、状況がわからないのなら当然の主張だ」


「そう。そこまでは真っ当な主張だったんだ。ただその後、村人の一人が証拠があれば良いのかと尋ねると、その冒険者は『悪人だという証拠があれば、その時は僕がこの人たちを始末する。悪は僕がこの世から滅ぼす。だから、その時も僕に全部任せて欲しい』と言ったんだ。あまりにも自分勝手な発言のせいで、ストレスと怒りが溜まっていた冒険者と村人たちは我慢ができなくなり、結果的に言い争うことになった」


「なに、その気持ち悪い独善的な理論は。気持ち悪すぎて吐き気が……いや、待て」 


何だか既視感のあるセリフにその独善的な行動、そしてアイリスとミリアの嫌悪するような表情を見た俺は、猛烈に嫌な予感に襲われる。


「ミーゼ。正直に答えろ。新しくきた冒険者というのは、もしかしてあいつか」


「……はい。以前ルーナさんが調べるように言っていた彼、シュードという青年になります」


 ミリアからシュードの名前が出た瞬間、予想もしていなかった展開におもわず思考が止まってしまい、俺は次の言葉を上手く紡ぐことができなかった。






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