表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
202/233

良い女は待たせるもの

 ルーマルーニャの町にある冒険者ギルドで毒蛇の鉤爪というクランの連中に絡まれてから二日。


 俺たちはルーマルーニャの町での最後の依頼を終えると、次の目的地であるカーリロの町へと向かっていた。


「カーリロという町までどれくらいかかるのでしょうか」


「昨日ルーマルーニャの町を出る前に感知魔法で調べたら、私たちで走って二時間くらいだった。だからすぐに着くよ」


「さすがルーナさんですね。わかりました。みなさんに置いていかれないよう、頑張って走りますね!」


 アイリスはこの町に初めてきた時、自分だけが疲れていたことをまだ気にしているのか気合の入った声でそういうと、全身に魔力を流して走る速度を上げた。


(気合い入ってるなぁ。まぁ、俺も久しぶりに暴れられそうで楽しみだけど)


 気合いが入っているアイリスを眺めながら、俺は自身の気持ちがいつもより少しだけ昂っているのを自覚する。


 そして、そんな中でも気になることが一つ。それはアイリスが躊躇わずに人を殺せるのかということだ。


 もちろん彼女が自力でCランク冒険者になった事は知っているが、実際に彼女が人を殺すところをこの目で見たわけではないので、彼女が躊躇わずに人を殺せるのかは個人的に気になるところだった。


 ミリアは俺が旅に出てからヴァレンタイン公爵家の諜報部で活動していたので、任務の最中に人を殺したこともあるだろうから気にする必要は無い。


 何より、彼女がいざという時に躊躇わず人を殺せる事は俺が身をもって知っている。


 そしてシャルエナも、彼女は皇女であるため教育課程の一つとして罪人の処刑を見なければならないはずなので、実際に人を殺したことがあるのかは別にしても、人の死をその目で見たことがあるはずなのでこちらも特に気にする必要は無いはずだ。


 ただアイリスに限って言えば、過去に俺を殺したのは何者かに乗っ取られていた時で、彼女の意思で俺を殺した事は無かった。


 そのせいか、普段の彼女を思い返すと人を殺す姿があまり想像できず、今回の件で彼女が人を殺せるのかは少し気になるところだ。


(まぁ、殺さなければそれまでだな)


 元々誰かに期待するなんて無駄なことをする性格はとうの昔に捨て去ったので、今の俺は自身で見た現実しか受け入れない。


 だから、彼女が人を殺すことを躊躇えばその程度だったということだし、人を殺せればそういう一面もあったと思うだけだ。


「さぁ、あと半分だ。速度を上げるぞ」


 俺はそう言うと、走る速度をさらに上げ、カーリロの町へと急ぐのであった。





「ここがカーリロの町か。ルーマルーニャの町より大きいね」


「そうですね。まだ外側からしか見えませんが、ここに並んでいる人たちの数を見るに、ここら辺では大きい町のようですね」


「この町の中に毒蛇の鉤爪というクランがいるのですね。探すのが面倒そうです」


 町の入り口近くにやってきた俺たちは、ルーマルーニャよりも栄えているカーリロの町を眺めながら、検問を受ける人たちでできた列へと並んでいた。


「いや、探す必要は無いだろう。前に会った連中が言ってたけど、検問をしてる騎士に話を通しておくって言ってた。カードを見せれば私たちを案内してくれるはず」


「そういえばそうでしたね。でしたら、私たちはこの後すぐにクランの拠点に案内されるのでしょうか?」


「そうなるとすぐに戦闘が始まるのかな。私はそれでも構わないけど、まずは対話から試みるべきじゃないかな」


「私はルーナさんに従います」


「まぁ、私に任せてよ。リリィたちは黙ってついてくるだけでいい」


 それからしばらく、検問所で俺たちの順番が来るまで待っていると、ようやく俺たちの番が回ってきた。


「こんにちは。何か身分を証明できるものをお持ちですか?」


「どーも。ギルドカードでいいですか?」


「はい」


 俺たちは自身の持っているギルドカードを騎士に見せると、受け取った騎士は僅かに目を細めて俺らのことを見てくる。


「あなたたちが例の冒険者ですか」


「あなたの言っている例のというのが毒蛇とのことを指しているのなら、その通りですよ」


「なるほど。ここであのクランの名前を出すということは間違いないようですね。申し訳ありませんが、一度奥の方に来てもらえますか」


 騎士の言葉を聞いた俺は全員分のギルドカードを受け取ると、ニッコリと笑いながら決めていた言葉を返す。


「お断りします」


「は……え?」


「お断りします」


「いや、あの…来ていただかないと困るのですが……」


「知りませんよ。そもそも、私たちがあなたたちについていって、その後泊まる宿が取れなければ責任とってくれるんですか?私たちはこの町に来たばかりですし、まずは宿屋を探さないと。それに、私親には用があるならその人が来いって教わってるので、用があるならそっちが来いとお伝えください。では、みんな行こうか」


「え、あの…待ってください!あの!!!」


 騎士の制止を無視した俺たちは、そのまま入り口を通り抜けると、人混みの中へと紛れるのであった。





 町の中をしばらく歩いた後、この町で一番評価が高い宿屋で部屋を借りると、アイリスたちが使う部屋で今後のことを話し合う。


「それでルーナ。君が任せろというから私たちは黙っていたけど、本当にあれでよかったのかい?」


「問題ないよ。そもそも用があるのは向こうだし、私たちの目的は例の件について調べることだ。毒蛇の鉤爪とやらが関わっていようと関わってなかろうと、冒険者ギルドでの情報集めも必要となってくる。なら、急いでそのギルドに会う必要もないし、どうせしばらくは情報を集めるためにこの町に滞在することになるんだから、すぐにクランを潰して噂になるのも面倒でしょう?」


「確かにそうですね。噂を広めるのも目的の一つではありますが、逆に人気が出過ぎると動きにくくなるのも事実。なにより、BランクとCランクの私たちがAランクのクランを潰したともなれば、疑われる可能性も出てきます」


「そう。だから時間を掛けて潰していく。と言っても、そこまで時間がある訳じゃないから、期限は一週間と言ったところかな。向こうにもプライドはあるだろうし、すぐに攻めてくることはないはず。てことで、まずは外側にいる雑魚から潰していく。ミーゼ」


「はい」


「お前の薬で奴らをある程度始末して来い」


「かしこまりました。具体的にはどの程度をお望みですか」


「そうだなぁ」


 俺は宿屋全体に張っていた感知魔法の範囲を町全体に広げると、町の中心地に多くの人の気配が集まっている場所を見つける。


 その場所をさらに詳しく調べてみれば、建物の中にルーマルーニャの町に来ていた男たちの魔力の反応を見つけ、どうやらそこが毒蛇の拠点であるようだった。


「ざっと60人と言ったところか。ただ、魔力の反応を見るにそのうちの40人は低ランクの雑魚。その他20人はBランク以上の実力者だから、こっちは残しておいて構わない」


「わかりました。では、40人を毒で殺すということでよろしいですか?」


「あぁ」


 本来であればこの程度の雑魚はそこまで気にする必要も無いが、今回は町中での戦闘も考えられる。


 そうなると変に目立ってしまい目的の獲物が釣れなくなる可能性もあるし、その後の面倒を考えると騒ぎを大きくするのも得策では無いため、今回はミリアの毒で人数を削るところから始める。


「なら、私たちの出番はその後ということだね」


「そういうこと」


「では、それまではこれまで通り依頼を受けながら様子見ということですね」


 シャルエナたちも俺の作戦に異論は無いらしく、ミリアが用意してくれた茶菓子とお茶を飲みながら息を吐く。


「それにしても、そのクランは少し気になるね」


「どうしてですか?」


「私もそこまで冒険者ギルドに詳しい訳じゃ無いけど、確かBランク以上は昇格するのに面接が必須なんだよね?この間私たちに会いに来た連中を思い出すに、そのクランはとても試験に合格できそうには見えなかった」


「おそらくギルドが裏で手を引いているか、あるいはギルドに登録している冒険者は少数で、他は登録していない野良の可能性もある」


「なるほど。確かに、この町が大きいとは言っても所詮は外れにある町だしね。ギルドが加担していても不思議では無いか」


「まぁ、それは今考えても仕方ないさ。仮にギルドも加担してるなら、そっちも潰せば済む話だしね」


「それもそうか」


 俺には人のためになんて考え方は無いが、ギルドを潰せばサルマージュに繋がる手掛かりがあるかもしれないので、そうなればついでに潰すことも厭わない。


 その後はいつもより早めに夕食を取った俺たちは、高い宿で久しぶりのお風呂に入り、さっぱりした気持ちで眠りにつくのであった。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ