表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/32

7

 電車で都内に向かい、お化け屋敷で遊んでから帰った。


 帰り道。電車に揺られている内に、気づけば眠っていた。目が覚めて、駅を確認し、安堵する。


 良かった。寝過ごしてはいないようだ。最寄り駅まではまだかなり時間がある。 


 もう一度眠ってしまっても良かったが、まだ粘ついた眠気が頭から離れてくれず、このまま眠ったら熟睡して寝過ごしてしまうかもしれない。


 眠気覚ましついでに、スミカに声をかけることにした。


「今日はどうだった?」


「え、凄い楽しかったよ」


 スミカはキョトンとしていた。


 当然でしょ、とでも言いたげな様子だった。


 その姿を見て、胸を撫で下ろす。どうやら僕はしっかり友達になれていたようだ。今までほとんど友達が出来た試しがなかったから、少し不安だったんだ。


「特にアヤト君がお化け屋敷でビビり倒してたところとか、凄い面白かったよ」


 スミカはお腹を抑えながらケタケタと笑う。確かに僕の驚き様といったら尋常じゃなかったかもしれない。


 でもそれは何も、お化けにビビっていたというわけではないんだ。


「いやいや、あんな作り物に驚くのはアホだけだよ」


 お化け屋敷なんてのは所詮フィクションだ。その程度の事でビビったりはしない。


「何よその言い方。私がアホだって言いたいの?」


「アホっていうより、可愛かったよ。スミカがお化け相手に叫びまくってる姿」


 ビクビク肩を震わせながら、涙目で僕の裾を掴むスミカの姿は、はっきり言って凄く可愛かった。


 ふざけてスミカと距離を取ると、彼女はすぐに僕の元まで距離を詰めて来る。なんだかそれが飼い慣らされた子犬みたいで、調子に乗って何度もやってしまったんだ。今思えば、それが良くなかったのかもしれない。


 恐怖の限界を超えたスミカが、魔法をぶっ放そうとしてしまったんだ。


 陰鬱な音楽が流れる荒廃した道を進んでいる途中、檻の中で倒れていたゾンビが突如動き出した。檻を掴み、爛れた顔面で叫び声をあげた。その一連の行動に驚いたスミカは、咄嗟に右手に火の玉を作り出してしまった。それを見て、もう凄まじいくらいに慌てた。もし仮に火球が射出されていたら大惨事だ。お化け屋敷のキャストに怪我でもされてみろ。大変なことになる。


 大急ぎで彼女の肩を掴んで「スミカ! それはダメだ!」と何度も叫んだ。


 結果スミカは火の玉を引っ込めてくれたのだが、あまりの出来事にビビり倒してしまった。


「いや〜。あの時のアヤト君は必死だったね〜」


「だったね〜じゃないよ。もし魔法を使ってたらどうなってた事か」


 何かの罪に問われるだろうか。それだけじゃない。もしかしたら『お化け屋敷で謎の火の玉が炸裂! 霊の恨みか⁉︎』などというニュースが広まってしまうかもしれない。そうなると、兵士達に「もしや魔法では?」と勘ぐられる可能性だって出てくる。


「ニュースになって、兵士達にかぎつけられたら大変だったんだからな」


 僕の心配を他所にスミカは笑っていた。全然心配要らないよとでも言いたげな表情で、彼女は口を開く。


「でも、助けてくれたじゃん」


 スミカは僕を真っ直ぐ見つめている。


「また、アヤト君は私を助けてくれた」


 頼りにしてるんだから、彼女はそう言って僕の肩に手を置いた。


 予想外の言葉で、呆気に取られてしまう。


 彼女を失いたくない。僕の手から放したくないと思った。例え兵士が彼女を取り戻しに来たとしても、守り通したいと、そう思った。


 あいつらに対抗するにはどうすればいいか。そんなの、決まってるだろう。 


 気づけば、口が勝手に動いていた。


「ねえスミカ」


「どうしたの?」 


「僕に、魔法を教えてよ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ