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電車で都内に向かい、お化け屋敷で遊んでから帰った。
帰り道。電車に揺られている内に、気づけば眠っていた。目が覚めて、駅を確認し、安堵する。
良かった。寝過ごしてはいないようだ。最寄り駅まではまだかなり時間がある。
もう一度眠ってしまっても良かったが、まだ粘ついた眠気が頭から離れてくれず、このまま眠ったら熟睡して寝過ごしてしまうかもしれない。
眠気覚ましついでに、スミカに声をかけることにした。
「今日はどうだった?」
「え、凄い楽しかったよ」
スミカはキョトンとしていた。
当然でしょ、とでも言いたげな様子だった。
その姿を見て、胸を撫で下ろす。どうやら僕はしっかり友達になれていたようだ。今までほとんど友達が出来た試しがなかったから、少し不安だったんだ。
「特にアヤト君がお化け屋敷でビビり倒してたところとか、凄い面白かったよ」
スミカはお腹を抑えながらケタケタと笑う。確かに僕の驚き様といったら尋常じゃなかったかもしれない。
でもそれは何も、お化けにビビっていたというわけではないんだ。
「いやいや、あんな作り物に驚くのはアホだけだよ」
お化け屋敷なんてのは所詮フィクションだ。その程度の事でビビったりはしない。
「何よその言い方。私がアホだって言いたいの?」
「アホっていうより、可愛かったよ。スミカがお化け相手に叫びまくってる姿」
ビクビク肩を震わせながら、涙目で僕の裾を掴むスミカの姿は、はっきり言って凄く可愛かった。
ふざけてスミカと距離を取ると、彼女はすぐに僕の元まで距離を詰めて来る。なんだかそれが飼い慣らされた子犬みたいで、調子に乗って何度もやってしまったんだ。今思えば、それが良くなかったのかもしれない。
恐怖の限界を超えたスミカが、魔法をぶっ放そうとしてしまったんだ。
陰鬱な音楽が流れる荒廃した道を進んでいる途中、檻の中で倒れていたゾンビが突如動き出した。檻を掴み、爛れた顔面で叫び声をあげた。その一連の行動に驚いたスミカは、咄嗟に右手に火の玉を作り出してしまった。それを見て、もう凄まじいくらいに慌てた。もし仮に火球が射出されていたら大惨事だ。お化け屋敷のキャストに怪我でもされてみろ。大変なことになる。
大急ぎで彼女の肩を掴んで「スミカ! それはダメだ!」と何度も叫んだ。
結果スミカは火の玉を引っ込めてくれたのだが、あまりの出来事にビビり倒してしまった。
「いや〜。あの時のアヤト君は必死だったね〜」
「だったね〜じゃないよ。もし魔法を使ってたらどうなってた事か」
何かの罪に問われるだろうか。それだけじゃない。もしかしたら『お化け屋敷で謎の火の玉が炸裂! 霊の恨みか⁉︎』などというニュースが広まってしまうかもしれない。そうなると、兵士達に「もしや魔法では?」と勘ぐられる可能性だって出てくる。
「ニュースになって、兵士達にかぎつけられたら大変だったんだからな」
僕の心配を他所にスミカは笑っていた。全然心配要らないよとでも言いたげな表情で、彼女は口を開く。
「でも、助けてくれたじゃん」
スミカは僕を真っ直ぐ見つめている。
「また、アヤト君は私を助けてくれた」
頼りにしてるんだから、彼女はそう言って僕の肩に手を置いた。
予想外の言葉で、呆気に取られてしまう。
彼女を失いたくない。僕の手から放したくないと思った。例え兵士が彼女を取り戻しに来たとしても、守り通したいと、そう思った。
あいつらに対抗するにはどうすればいいか。そんなの、決まってるだろう。
気づけば、口が勝手に動いていた。
「ねえスミカ」
「どうしたの?」
「僕に、魔法を教えてよ」