エピローグ
「あれだけの被害を起こした犯人達の足取りは、依然として掴めていません」
朝の情報番組で、キリッと背筋を伸ばしたニュースキャスターがはっきりとした口調で言っていた。
一ヶ月前に起きた、異世界の兵士達による破壊活動だ。
これに関する様々な噂が立てられて、色々な説がまことしやかに囁かれたが、一ヶ月経った今では、世間の関心からは逸れてしまった。今は有名女優のスキャンダル一色になっている。
「火災や倒壊が起こったにも関わらず、死者数は0人でした。今回は、その秘密に迫っていきたいと思います」
キャスターが言い、画面が切り替わる。
リポーターが映し出され「では、こちらです」と言って、倒壊した一軒の家の前まで向かっていった。
そう、兵士達は誰一人として殺さなかったんだ。いや、殺せなかったのかもしれない。
「気づいた時には、遠くにいたんです。一瞬にして、遠くの場所に瞬間移動していたんですよ」
マイクを向けられた被害者達は、皆口々にそう語っていた。
瞬間移動、テレポート。
神様の奇跡。政府による実験。など、色々な説が立てられている。だけど、僕にはそれが誰の仕業か分かってる。
「よいしょ」
ベッドから起き上がり、身支度を整えてから、クローゼットを開ける。するとそこには、大自然が広がっていた。
澄んだ空気を肺いっぱいに吸い込んで、クローゼットを潜り抜ける。
「あ、アヤト君が来ましたよ!」
僕が来るのを待ってくれていたのだろうか。湖の前で、スミカが立っていた。頭には、スミカの花飾りが付いている。
「おーい。来ましたよー」
「今行きますよ」
研究室の中から、一組の男女が出てくる。
カンナとジンだ。
あの、魔力超過の後、僕とスミカの半分に減った魂は元に戻された。無事に魔力超過が終わり、世界には平和が訪れた。もう用済みとなったスミカも、塔の上に閉じ込められるなんてことは無く、無事解放された。
今は、記憶の隅にある母親を探している途中だ。
「そういえばここ、ジンの実家なんですよ」
魔力超過の後、スミカの花を摘んでいる最中、カンナがそんな事を言い出した。
「前に来た時、ここは私の村じゃないって言ってたじゃないですか」
僕がそう聞くと、カンナは顔をくしゃっと歪めて「いやあ、私ってもう五百年以上生きてるじゃないですか。私の幼い頃を知る人がいないのに、ここが私の故郷です、なんて紹介できないなって思ったんですよ」
その発言を聞いたジンがボソッと「五百歳とかババア超えてるよな」と呟いていたのを、カンナは聞き逃さなかった。カンナは怒ってジンに攻撃していたが、二人とも楽しそうだった。凄く、幸せそうだった。それが、とても嬉しい。
スミカの花は犠牲者が生まれた時に、その家の周りに咲く。魔力超過が収まった際には、歴代の犠牲者が生まれた場所全てで咲くという。
つまり、魔法超過が収まった時にスミカの花が咲いていた場所を巡れば、いずれお母さんに巡り会う事ができるのかもしれない。その中のどこかが、スミカの生まれた場所なのだから。そこにお母さんがいるはずだ。
「さっ、今日もお母さんを探しに行こっか」
言って、スミカの手を引いていく。
「さてさて、じゃあ、近くまで俺が飛ばしてあげるよ」
ジンさんがくるんと指を回した。すると、目の前に四角い扉が生まれる。
そこを潜れば、もしかしたらスミカのお母さんがいるかもしれない。
「あっ」
そこで、不意に思い出した。ずっと、気になってる事があったんだ。
「あの、これ、ずっと意味が分からなかったんです」
言いながら、ポケットを弄る。中から取り出したのはスマホだ。スマホを操作して、アルバムを開く。
いつか海でスミカと撮った花火アート。スミカが異世界文字で描いた謎の言葉。この言葉の意味を、ずっと知りたかったんだ。
「これなんですけど」
「どれどれ」
ジンとカンナがスマホを覗き込む。
「あはははっ」
スマホを見た彼らはお腹を抱えて笑っていた。
「それ、スミカちゃんに聞いてみなよ」
ジンさんが目尻に浮かんだ涙を拭いながら言ってくる。何がそんなにおかしいんだろうか。
「いやあ、可愛いですね」
カンナさんも微笑ましそうにスミカを見てる。
「じゃあ、スミカ。これどんな意味があるの?」
僕はスミカにスマホを見せた。画面を見た彼女は、湯気が出そうなくらい顔を赤らめた。
そんなスミカの様子を、カンナとジンは笑顔で見守っていた。
「何って……そ、その」
スミカは慌てふためいていて、もじもじしながら地面を見てる。
「ほら、頑張って……」
カンナさんがスミカの隣まで歩いて行き、肩を叩いた。
スミカは意を決したように唇を固く結び、そして開いた。
「あ、愛してる」




