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感じる。ジンの微かな魂を、感じる。
ジンの亡骸に触れて、彼の魂を、精一杯体内に取り込んで行く。
隣には蹲って祈りを捧げているスミカ様の姿がある。もう、二度とジンのような犠牲は出したくない。
私のように大切な人を失って苦しむ人の姿だって、見たくない。
ジンの魂を感じながら、スミカ様に語りかけた。
「スミカ様。お願いです。祈りをやめてください。私達は貴女を助けに来たんです」
しかし、彼女は祈りを止めない。ただ、ひたすら手を合わせて目を瞑っている。
「貴女が犠牲にならなくても、アヤトさんが犠牲にならなくても、世界が救えるんです。その方法が、見つかったんですよ」
私がそう叫ぶと、微かにスミカ様の眉が動いた。
「本当ですか?」
「本当です」
「じゃあ、証拠は?」
祈りながら、彼女はそう続ける。
「前に一度、アヤト君に騙されているんです。今回も嘘をつかれて、ギリギリのところでアヤト君に犠牲になられたら、私はもう生きていけません」
証拠。彼女は私にそう突きつけてきた。証拠なんて、ない。ないものは証明できない。
「だいたい、無茶な話なんですよ。私とカンナさんの二人で散々策を探しましたが、結局、何も見つからなかった。なのに、私が居なくなって数時間で全てが解決したなんて思えない」
何も、言い返す事が出来なかった。
少し離れたところでは、アヤトさんが兵士長と戦っている。ジンの魔力を取り込むため、彼に協力することができない。彼だって頑張ってるんだ。私も、頑張らないといけない。
「じゃあ、証拠を見せますよ。今回こそは、アヤトさんは嘘を付いてない。本気で、貴女を助けに来たんです」
私はスミカ様をジッと見つめて彼女の名前を呼んだ。
彼女は目を瞑ったまま、耳だけを傾けている。
「アヤトさんが死んだら、どう思いますか?」
そう質問すると、決まりきった答えが返ってくる。
「嫌に決まってる! だから、私は命を賭けて――」
「だから、ですよ。アヤトさんも、同じ気持ちなんです。アヤトさんを、信じてあげてください」
スミカ様の言葉に被せるように、私は言う。
スミカ様は固まっていた。祈りを辞めて、瞳を開ける。兵士長と戦うアヤトさんの方を見ている。
「スミカは……僕が守るんだ」
彼はそう叫んでいた。
スミカ様の瞳が、揺れる。
そんな光景の最中、ジワリ、ジワリと、ジンの魔力が体を満たしていく。
そして、来た。
五百年前の、今日。あの時の感覚が、やってきた。私はなんだって出来る。
今なら、ジンを復活させられる。
――じゃあな。また、会えたら会おうぜ
あの時の、最後の言葉が頭に反響する。
カンナ。カンナ。彼の声が、未だに響いている。
五百年間、ずっと後悔して来た。
なぜ、あの時何も言えなかったのかって。なんで、最後くらい笑って見送れなかったのかって。最後くらい、可愛い顔でいたかった。
「ジン。約束、叶えに来たよ」
彼の亡骸に緩く抱き着く。
それは、冷たい骨だった。何百年も一人で椅子に座り続けて風化した、スカスカの骨だった。
だけど、段々とその強度が増していく。内側から膨れていくように、肉厚が増し、冷たかった温度が暖かみを持つ。
気づけば、私の腕の中にはあの日のジンがいた。
魂の絞りカスしかなかったのに、今、目の前にジンがいる。
「ジン!」
私は強く彼を抱きしめた。体の底からあらゆる感情が膨れ上がって来て、もう何もかもがめちゃくちゃだ。今すぐ、彼に抱きしめてもらいたい。でも、今は一旦お預けだ。まだ、何も終わっちゃいない。肝心なのは、これからだ。
「あれ……俺は、確か……」
彼は呆気にとられていた。
だが、それ以上に呆気にとられていたのはスミカ様の方だった。
「骨が、人に」
彼女はジンを見て、魚のように口をパクパクさせている。
「ジン。感動の再会は後よ。お願い。魔力超過が始まってるの。魔法で、食い止めて」
魔力超過により、空全体を覆う魔力の塊は更に膨張を続けていた。
そこからは無数の魔力の隕石が落ちている。もう、スミカ様の魔法だけでは対処しきれないだろう。五百年前のように、ジンの力も必要になる。
「あ、ああ。分かったよ。とにかく、俺はそれをやればいいんだな」
状況が飲み込めないながらも、彼は了承してくれた。
「見ましたか。できたんですよ。魔法の進化。これを使えば、スミカ様とアヤトさんの魂で、誰も犠牲にならずに世界を救えます」
ゴクリと、スミカ様の喉が鳴る。
彼女の決意が固まるまで、後一息だ。私はそう確信していた。
ちょうどその時、アヤトさんと兵士長の戦いが更にヒートアップしているのか、大爆発が起こった。
私とスミカ様、ジンの全員が、爆発の方を向く。
そこは煙に包まれていて、何が起きているのか分からない。
アヤトさん。頑張って。もう、後一息だ。あと少しで、みんな救われる。




