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夏休みがやってきた。学校から何度か連絡があったが、全部無視している。


 花火をやった夜から、あの日の事には触れずにここまできた。あの日以降も今まで通りの日常を送っている。


「今日はここに行ってみようか」


 僕はスマホを操作して、スミカに見せた。


「おお、ここはどういうところなの?」


 スマホに映っているのは、綺麗な芝生が広がった大きな公園だ。見た目麗しい花が咲いていたり、噴水の出る広場があったりする。


「公園だよ。今日はここでピクニックだ」

「ぴくにっく?」

「自然が広がるところで食べ物を食べるんだよ」

「いいね、それ。リラックス出来そう。楽しみだ!」


 僕の提案に、スミカも乗り気のようだ。彼女は胸の前に手を寄せて、分かりやすくワクワクしていた。


★☆★☆★☆


「うわあ。すっごいね」


 サンドイッチやおにぎりが詰め込まれたバスケットを両手で持ったスミカが、目の前の光景に圧倒されていた。


 僕達の前にあるのは、大きな噴水広場だ。円形の噴水広場で、噴水に近づくに連れて水深が深くなっている。


 中心部では水が高らかに打ち上げられていて、その周りには大きな水柱を囲むように小さな水柱が等間隔で並んでいる。


 噴水の周りでは、小さな子ども達が遊んでいた。彼らは水鉄砲や水風船を持って、びしょびしょになりながら広場を駆け回っている。


「ふふっ。なんだか可愛いね」


 そんな彼らの様子を見たスミカが口元に手を当てて微笑む。


「今日は念のため着替えを持ってきてるから、後で遊ぶ?」

「ほんと!?」


 僕がそう言うと、スミカの瞳がキラキラと輝く。あそこにいる少年少女とほとんど同じ瞳だ。そんな彼女の姿を見ていると、つい口元が緩んでしまう。


「なに笑ってるの」


 そんな僕の変化に気づいたのか、彼女は僕をジト目で睨んできた。


「もしかして、水に濡れれば私の下着が透けるかも、とか思ってるんじゃないの?」


「そんなこと思ってないよ!」


 スミカがあらぬ誤解をしていたので、両手を振って弁明する。僕の事をなんだと思っているんだ。


「スミカがあそこにいる子ども達と同じような瞳をしてたから、つい、ね」


 僕がそう言うと、スミカはボッと顔を赤くした。


「私が子どもっぽいって言うの?」


「まあ、そうなるかな」


 彼女はいつものようにプイッと顔を晒してしまった。


「やっぱりあそこじゃ遊ばない」


 そういうところが子どもっぽいんだよなあ、なんて微笑ましく思いながら、僕は必死にスミカのご機嫌をとった。


 噴水広場を抜けた先には木々に囲まれた美しい芝生が広がっていた。僕達はその芝生の端っこにレジャーシートを広げて、食事をとることにした。


 スミカがバスケットを開けて、僕にサンドイッチを渡してくれる。スミカと僕で協力して作ったサンドイッチだ。今彼女が渡してきたのは、作り方を教えた後、彼女が一人で作ったサンドイッチ。


「ありがとう」


 受け取ってから、サンドイッチにかぶりつく。ハムサンドだ。マヨネーズがにゅっと飛び出してきて、慌てて紙で抑える。噛むたびにレタスがシャキシャキと音を立てて、心地よい。丁寧に味わってサンドイッチを食べた。その間、スミカは緊張しているのか正座で僕を見つめていた。


「美味しい。凄く美味しいよ」

「ほんと! 良かったあ」


 安堵したのか、彼女は胸に手を当ててへなへなと崩れ落ちた。力無くバスケットからサンドイッチを取り出して一口食べる。


「おいしっ」


 幸せそうに頬を抑えている。この光景を守りたいと、強く願った。


 食事の後は、百均で買ってきたフリスビーで遊ぶことにした。しかし、元々運動が苦手な僕と、その人生の大半を塔の上で過ごしてきたスミカには、体力が決定的に足りていなかった。


 十分ともたずクタクタになってしまった。服も汗でびしょびしょだ。


「スミカ。もう、噴水に行こう。水浴びしたい」


 シャツをパタパタやりながら、額に浮かぶ汗を拭う。


「何? やっぱりアヤト君もあそこで遊びたかったんだ」


 スミカは手をうちわのように使って扇ぎながら、ニヤニヤと口元に笑みを浮かべていた。


 本当は噴水広場になんて何の興味もないが、それでスミカが気持ちよく噴水広場に行けるならそういうことにしておこう。


「そうだよ。だから、行こう」

「もう、仕方ないなー」


 言いながらも、スミカは嬉しそうにしている。なんならスキップまでしている。


 僕達は公園の道にあったリヤカーの移動式駄菓子屋で水鉄砲と水風船を購入した。


 水鉄砲を握り締めながら、噴水広場まで走る。小さな子達に気をつけながら、水の中に入った。


「ほら、くらえ!」


 水鉄砲の中に水を入れて、スミカ目掛けて発射。彼女は両手で顔を隠しながらしばらく逃げ回っていたが、隙をついて反撃に移る。


 側から見たら多分、結構痛いやつらに見えるかもしれない。高校生くらいの男女が噴水で遊んでいるんだ。迷惑極まりないだろう。だけど、子ども達は僕達の事を受け入れてくれた。


「ほーら、どりゃー」


 しばらくして、僕は噴水広場からあがりスミカと子ども達が遊んでいるのを眺めていた。


 水飛沫が飛び、太陽の光が彼らに降り注ぐ。噴水が打ち上がり、水の影がスミカを覆った。影を纏った横顔すら、美しく見えてしまう。


 この景色を納めておきたい。本当に心の底からそう思った。

 僕は噴水広場の隅に置いたバッグからスマホを取り出して、写真を撮った。


 なんて事ないただの写真なのに、僕にはそれがどんな絵画よりも尊くて美しいものに感じた。

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