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翌日、翌々日、更にその翌日と、スミカに遊びに誘われ、様々な場所に向かった。


 金曜日はテレビでやっていたスイーツショップに行った後、都内の有名都市でショッピングに付き合わされた。 


 土曜日は、これまたテレビでオススメされていた映画を観に行った。その後はその映画館に隣接されているゲームセンターで遊んだ。


 日曜日には、土曜日の帰り道に見つけた総合エンターテインメント施設に向かうことになった。ゲームセンターにボウリング、様々なスポーツ施設に、カラオケ、色んなエンターテインメントを体験できる施設だ。そこで一日中、無尽蔵のエネルギーを持つスミカの相手をしていた。


 その間スミカはずっと笑顔で、楽しそうに遊んでいた。この前の涙なんて微塵も感じさせなかった。


 彼女は多分、無理をして笑っているんだ。その事実に、胸が痛くなる。


僕は彼女を楽しませる事は出来ている。でも、逆に言えば、それだけしかできていない。彼女の恐怖とか、悲しみとか、そういうものを、癒してあげられていない。本当の意味で彼女を救う事ができていないんだ。


 本日、月曜日。今日も学校を休む。別に行ったって行かなくたってあまり変わらない。出席日数だって、余裕で足りてる。


 朝、ボサボサの髪を揺らしながら、スミカがロフトから降りてくる。


「さあ、今日は何して遊ぼうか」


 昨日買ってきた夏休みの観光雑誌を机に広げて、今日の行き先を決める。


 僕を覆うように顔を突き出したスミカが、雑誌を覗き込んだ。


「ねえ、これ凄い美味しそう!」


 スミカが指差したのは、富士山をイメージして作られたかき氷だ。確かに、とても美味しそうに見える。


「分かる。僕も食べてみたいな」


 言いながら、ページをめくる。近くには有名観光スポットの岬もある。更には海水浴場だってある。一日じゃ遊び尽くせないほどだろう。ここなら、申し分ない。新幹線を使えば一時間足らずで行ける距離だ。


「よし! じゃあ今日はここに行こうか」

「うん!」


 帰りが遅くなるだろうから、あらかた家事を済ませておいた。夕食も作ったし、風呂も自動予約に設定しておく。義父がキレなければいいなと内心で怯えつつ、横にいるスミカを見る。


 新幹線に揺られながら、スミカは観光雑誌を眺めていた。初めこそ物凄いスピードで移り変わっていく街の景色に圧倒されていたのだが、それにも飽きたのだろう。 


「ねえ、この場所とか凄い綺麗!」


 彼女が指差したのは、絶景が見れる温泉だった。


「確かに、凄い綺麗だね」


 岩に囲まれた温泉に浸かり、海を見下ろす。その気分は、最高だろうと思う。今日行けないものかと思い、場所を確認してみる。遠かった。日帰りじゃあ、まず無理だろう。


「じゃあまた今度、次はそこに行こう」


「うん! 楽しみがまた出来ちゃった」


 元気良く頷き、スミカの髪が跳ねる。甘いシャンプーの匂いがした。確かに楽しみだ。僕の楽しみも、また出来た。


「すっごい! 何これ! 超ふわふわしてるね!」


 スミカはスプーンでかき氷をすくい、美味しそうに頬張っていた。んーっと唸りながら頬を抑える彼女の姿を、ずっと見ていたい。


 確かに美味しい。元々氷に味がついているのか、お祭りなどで買うかき氷とは別次元の美味しさだった。口に入れた瞬間に氷がサッと溶けていき、ソーダの味が口中に広がる。そりゃスミカが幸せそうな顔をするわけだ。


僕達は今、かき氷屋のテラス席で向き合うようにして座っている。夏の強い日差しが僕らの肌を焼き、かき氷をジリジリと溶かしていく。かき氷の受け皿に汗が浮かび、たらりと滴り落ちる。


「あ、何これ! すっごい頭が痛いんだけど、なんか、キーンって感じ……」


 スミカはこめかみを抑えて頭を振っていた。彼女の皿を見ると、もう半分以上減っている。あまりの美味しさに、一気に食べてしまったのだろう。


 初めてかき氷を食べるスミカでもキーンという表現を使うのかと、少し微笑ましい気持ちになる。


「あははっ。それ、一気に食べすぎなんだよ。冷たいものを急いで食べると頭がキーンてなるんだ。スミカ、意外と食いしん坊なんだね」


 僕にそう指摘された彼女だったが反省した様子など微塵も見せず「だって美味しいんだもん」と情けない声を出していた。 

 こめかみを抑えながらも、ペロリとかき氷を平らげた僕達は、近くの海水浴場に向かった。


 ゴミ一つ落ちていない白い砂浜に、青い海。一定のリズムで波が押し寄せては元に戻る。 


 月曜日という事もあってか、海水浴場はガラガラだった。いるのは授業がないのかサボったのか分からない大学生くらいのカップルと、犬の散歩をしている老人くらいだ。


 潮の匂いを孕んだ生温い風が僕達を包み込む。 


「うわあ。すっごい広い! こんな場所、本当にあるんだ!」


 海を初めて見る彼女はとても興奮していた。波打ち際までとことこ走って行き、しゃがみ込む。押し寄せてくる波に指をちょこんと付け「ぎゃー」と言いながら波から逃げてきた。海って凄い塩っ辛いんだよと伝えていたからだろう。彼女は指先を舐めた。


「本当だ。すっごいしょっぱい」 


 彼女はんべっと舌を出す。


「そうだ。海、入ってみる? 多分、近くに水着とか売ってると思うけど」


「入ってみたい!」 


 スミカは瞳を輝かせて叫んだ。


 しかし、向かった先の海の家で、今度は違う意味で叫ぶ事になる。


「いや、いやいや、こんなの人前で着れるわけない!」


 彼女は何の変哲もない水色のビキニを持って顔を赤くしていた。


 スミカは恥ずかしがって着れないと言い張っているのだが、海の家の店員からしたらそうは聞こえないだろう。自分のところの商品を貶されてると思うに決まってる。


「アヤト君、私にこんなエッチな服着させるつもりだったの!? この前の下着の時といい――」


「だあああ! それ以上はやめてよ!」


 海の家の店員が僕のことを凄い目で見てくる。これじゃあまるで僕がひどい趣味の下着をスミカに着せてるみたいじゃないか。


「ほら、もうここにはいられないから、行こう」 


 ビキニを元あった場所にかけ直して足早に海の家から去った。海岸まで戻って来たものの、未だにスミカは顔を赤くして胸元を両手で隠していた。スミカに水着が何たるかを説明したものの、彼女は納得しない。


「こんな格好で人前に出るなんて、私は無理」 


 SNSで水着の格好を晒してる投稿を検索してスミカに見せる。こういう女の子が大勢いると分かっても、彼女のガードは固いままだ。


 改めてスミカの格好を見てみる。金曜日に買ったストライプシャツに、同じく金曜日に買った膝上スカート。これなら、膝くらいまで浸かっても大丈夫だと思う。


 僕は恥を忍んでもう一度海の家まで行き、ロングタオルを二枚購入した。浜辺に腰を下ろして靴を脱ぎ、ズボンを膝くらいまでたくし上げて走り出す。


「スミカ! 入ろう!」


 バシャバシャと音を立てて、波打ち際を駆け抜けた。


「スミカ! ちゃんと靴脱いでよ」


 振り返ると、しっかり靴を脱いだスミカが波に逆らいながら海の中に向かって突き進んでいた。波に逆らった為か、もうスカートがびしょびしょに濡れている。


 スミカは両手で水をすくい上げて、僕に向かって思い切りかけて来た。僕のシャツも、びしょびしょになる。


 もう、服なんて知ったことか。あとでどうにでもなる。それからは濡れることなんて気にせず遊びまくった。


 私服のまま波に逆らったり、泳いだり、少し沖に出て素潜りしたりして遊んだ。最後には飽きて二人で大の字になって海に浮かんでいた。既に陽が傾きかけている。緋色に染まり始めた空に、背の高い雲が浮かんでいる。こうして見ると、オレンジ味のわたあめみたいだ。


「ねえ、今日も本当に楽しかったよ」


 ぷかぷかと海に浮きながら、スミカが言った。


「ずっと、こんな時間が続けばいいのに」


 それは、蚊の鳴くようなか細い声だった。胸が締め付けられる。こんな時間が続けば良い。その言葉には、いずれこの時間にも終わりが来てしまうという意味が含まれている。


 いつかスミカの居場所がバレて、元いた世界に連れ戻されてしまうかもしれない。そんなことは、させたくない。絶対に、僕の元から彼女を放したくない。

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