己に克て
言葉とはいつもそこにある。当たり前の様に。その事に疑問を持つ事は無かった。或日突然、言葉を失うという現象に見舞われる。とても混乱し一体何が起ったのか誰かが私に向かって言葉を発している事は判るがこちらから発する言葉が相手に判らないのである。
今後一体どうなるのかと不安でしか無く涙が頬を伝わるのを必死に堪え目の前にいる相手に心配をかけない様に必死で笑顔であろうと試みるがその意思を伝えたい相手を見て堪えきらけなくなり溢れさせたく無いが自分の意思に反して涙というものが頬を伝う。
ゆっくりとゆっくりと言霊と云う言葉があるなら今がそれを発す時と振り絞り出して相手に届けと願うのである。
それでもなかなか言葉が出ないので私にメモと鉛筆を渡してくれたのでメモに言葉が出ない事と一体ここは何処なのかと書いて渡した。
「末男あなたは畑で倒れていたのよ、それを後田さんが見つけて救急車を呼んでくれて、今I病院に入院しているのよ」
I病院とは私が住む地域でも一番大きな病院である
メモを渡してくれたのは母親であった。
「なんでこの病院に入院したのかな?」
「脳梗塞で入院したのよ幸い身体に麻痺は無いけど言葉が出ない言語障害が残ったのよ」
「でも大丈夫、言語聴覚士の方がリハビリすればある程度は喋れる様になるからね」
私はそのメモをみて状況を理解するのに時間が掛かった。
脳梗塞!!いったい何故原因が分からない
今日は朝5時から草刈機で草刈りをしていた筈である。
「お母さん、今日は7月31日だよね」
「今日は8月1日で昨日が7月31日よ」
「朝7時に後田さんが田んぼの様子を見に行った時にあんたが倒れているのを見つけて救急車を呼んでくれたのよ」
「お医者さんは脳梗塞の原因は何て」
「水分不足と熱中症だと言われたよ」
確かに昨日は朝から暑かったのに水を飲まないで草刈りをしていた
メモがだいぶん溜まってきたし少し疲れる感じがする
「ごめんなさい迷惑かけて」
「少し疲れているだろうから寝てなさい」
そのメモを見て少し横になった