第二十話 ソニスの疑問
「私は弱い・・・・・・」
私はホムラが落ち込むのを眺めてるだけしか出来なかった。
私からしてみれば相手が悪すぎたとしか言えない。
アレに勝つのはいくら何でも無理がある。
そもそもホムラは《イブンハズ・サントリを使いこなしてる。
本来であれば数ヶ月から数年くらいかけて習熟させるようなとても扱いの難しい呪文なのにもかかわらず・・・・・・
それに剣術の成長速度も異常だ。
まるで思い出すかのようにどんどんと技術力が上がっていった。
ビュウスって子もそれが当たり前とでもういうかのように打ち合ってた。
もし会えるのならビュウスって子に効いてみたいことがあるんだよね。
ホムラって元々は保有するエネルギー量に見合うとんでもない実力を持っていたのでは無いかとね。
何かしらの原因で記憶と共に技術力を失ってしまったんじゃ無いかって思うんだよね。
確か普通では生存出来ない程の大けがをしてるらしいしね。
だから私はホムラが弱いとはとても思えない。
第一強敵相手にあんな急速に呪文を獲得してそれを使いこなすなんて出来ることじゃない。
呪文が派生した直後に進化するって見たこともないし前例も無い。
というか本来ならあり得ない事象だ。そんなポンポンと進化すること自体がね。
とりあえず今は一人にした方が良いと判断した私はある場所に向かった。
幻想の書に埋め込まれた異物、ファントムスカイオンラインとして成り立たせているシステムの核に・・・・・・
私はそれにアクセスし運営の元に意識を飛ばした。
真っ白な空間にいろんな情報が書かれた光の板をあちこちに浮かべているナニカ。
それはまるで霧のように無数に浮かぶ小さなナニカが集まったものだった。
これがファントムスカイオンラインの運営だ。
私でも正体が分からないナニカ。
生き物なのかすら分からない。
「ソニスか。よく来たね。わざわざシステムシードにアクセスしてまで何のよう? と言っても聞きたいのはホムラのことだろうけどね」
「運営である貴方はホムラの記憶を失う前を知っているのではと思って」
ホムラを見ていてうすうす気がつき始めた。
何故か妙に運営がホムラのことを特別視している感じがしたからだ。
「ふむ・・・・・・知っているか知らないかで答えれば知っているとも言えるし、知らないとも言える」
なんかよく分からない回答だね。
これじゃあ知ってるのか知らないのか分からないよ。
「ただ、ホムラに関して疑問に思っているのだろう。何故あそこまでのエネルギーを保持しているのか? 何故ハイスキルの呪文を完成させたにもかかわらず未だにスキル融合が引き起こされてないのかとかな」
!?
もしかしてホムラが異質な理由は把握している!?
確かにもう一週間も経ってるのに何故あそこまで完成度が低いのかは気になってはいた。
そもそもあのただでさえ扱いの難しい呪文を使えてるのにもかかわらず未だにスキル融合により生まれる呪文が扱えてないのが疑問だったんだ。
「何か知ってるの?」
「知ってるよ。ホムラがハイスキルを獲得出来ない理由ならね」
ハイスキルを獲得出来ない理由?
もしかして何かしらの要因があるの?
「ホムラがハイスキルを獲得出来ないのは君と契約してないからだよ。ゲームとしての仮契約ではハイスキルを獲得出来ない。そもそもまだ情報収集中で仮契約のままハイスキルを獲得させる手段の確立には至ってないからね」
なるほどね。
道理で・・・・・・あれ、そうなるとホムラはテンペストボアの獣人に対して勝ち目が無くなるってことじゃ・・・・・・
「どうにかしてホムラにハイスキルを手に入れさせることは出来ないの?」
「出来るよ。それも簡単な方法でね」
簡単?
なら早くその方法を試して・・・・・・
「さっきも言ったと思うけどハイスキルを獲得出来ないのは君と契約してないからだ。君がホムラと契約を交わせばハイスキルを獲得出来るようになるよ」
・・・・・・!?
それは・・・・・・・
「どうやら君はホムラと契約したくないみたいだね。ホムラが永遠の牢獄にとらわれることに対して忌避感を持っているとみた」
「永遠の牢獄じゃないよ・・・・・・・」
「でも、君はそう思っている。私はそう思ってないからね」
・・・・・・永遠の牢獄だと思ってるのは私ね。
確かにそうだ。
「異界の魂を取り込んだ幻想の書は不滅となる。それは契約を破棄できず幻想の書は破壊もされなくなる。不滅の存在となる。そしてそれは同時に・・・・・・」
「永遠に死ねない永遠に生き続けることを強要される牢獄となる」
ホムラが異界の魂であるが故に一度契約したら最後幻想の書は不滅の存在となる。そして幻想の書は破壊されるか契約が解除されない限り契約した者を永遠に生かし続ける。
契約してすぐは良いだろう。
でも時間が経てば親しい人は皆居なくなる。
それを何度も何度も繰り返してやつれて契約解除してきた人を多く見てきた。
私もそういうのは二人くらいいた。
片方は幻想の書を自ら燃やして自殺するという方法を選んだ。
幻想の書は復活するとはいえその時はかなり痛かった。
仲がよかったのにまるで親の敵でも見るかのような目で私を苦しめる方法で死ぬことを選び高笑いしたあの子をみて心が苦しかった。
私がそういう風に追い詰めてしまったのだと思うとね。
もしかしたらホムラもああなってしまうのでは無いかと思ってたりする。
今はよくても長く生き続けてればいずれは・・・・・・
「ホムラを馬鹿にするんじゃ無い!」
そう考えているといきなり大声を上げられた。
運営の表情は分からないけど何かに怒ったようだ。
もしかして心を読まれた。
「済まない。声を荒立てた。今のは忘れてくれ」
忘れてくれって・・・・・・
今のはまるで・・・・・・・
「これは独り言だ。別に聞く必要は無い」
そう言って運営は語り出した。
昔々姉とある事故がきっかけで離ればなれになってしまった女の子が居ました。
彼女は姉に守られてばかりの自分に嘆いて居ました。
そして強くなって守ろうとした姉と離ればなれになり彼女は決意しました。
強くなると・・・・・・・
幸いにも時間は沢山ありました。
なぜなら彼女は遙か遠い過去に飛ばされてしまったからです。
彼女は自らを鍛えました。
灼熱地獄を耐える体を手に入れあらゆる環境で生存出来るように自らを改造し、一人孤独に自らを鍛え上げました。
何十、何百、何千、何万もの間自らを鍛えそして・・・・・・
「分かったよ。言いたいことは分かった」
私は話を打ち切った。
全てを忘れたホムラは一人を守る為に一人孤独に自らを鍛えたんだ。
何万といってるしそれはとてつもない年月をね。
確かにそんなことが出来る子に対してああなるかもは侮辱でしか無いね。
「これは独り言だよ。別に本当かどうかも分からない話だ。私はこの話の姉ではないからね」
「うん独り言だったね。分かってるよ」
姉では無い。でもホムラとは深い関わりのある人物なんだろうね。
かつての仲間かもしくは・・・・・・
「さて、私も忙しいんだ。用事が済んだのならここから去るといい」
そう言われたので私はこの場所から離れることに・・・・・・
「そうだ、一つ忠告をしておこう。今回は大丈夫だが身を隠している最中にここにくると襲撃を受ける可能性がある。私の方に来る分には問題は無いが君たちはそうでは無いだろう。次からは気を付けるべきだ」
やば、ここに来るのって悟られる可能性が普通にあるんだ。
運営の警告に従って次からは気を付けよう。
私は今度こそこの場を離れた。
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「本当に気を付けてほしいものだね」
ソニスが運営と対話していた場所に極めて近い場所にある妖精がいた。
運営と同じ謎のナニカを周囲に纏っている妖精がそこにはいた。
「危うく見つかるところだったんだからね。ボクが見つかる分にはいいけどホムラがどうにかされたら色々台無しだからね」
「アガガ・・・・・・・」
その妖精の周囲にはホムラが対峙したイノシシ獣人とよく似た姿の獣人が転がっていた。
その力は現在森で暴れている個体よりも遙かに上回る者ばかりだった。
それが無数に転がっている。
「ギザマ・・・・・・・」
「人形が人の言葉を話さないでよ」
そう言って言葉を発した獣人の眉間に指先からレーザーを発射し絶命させた。
獣人はそのまま倒れて動かなくなった。
「さて、ホムラの位置はごまかしてたしもうソニスも戻ったからラインをたどられる心配は無い。結界もあるしね」
妖精が手をかざすと霧のようなナニカが獣人達を覆いその死骸を消し去った。
「ん~やっぱ手がかりなしね。表に出てきてくれたら叩きに行けるのにな・・・・・・とりあえず第二陣が来ないうちに運営の場所を移動させないとね」
妖精がため息をつきながらその場を去って行った。
ビュウス「さて俺が紹介するキャラは運営だな。
運営のスキルは一切不明、と言うか幻想の書を保有しているかどうか怪しいところだな。
にしても妖精みたいなのが出てきたけどこれが運営なのだとしたら案外運営って幻想の書の妖精だったりするのか? もし違うのだとしたら何なんだろうな。それにあいつソニスの前では口調意図的に変えてた節あるしな。まあ後々分かるだろう。
それじゃあ今回はここまでだ。次回も見てくれよな」




