第二話 本の妖精と幻想の書
「それじゃあ、色々と説明していくね。まずこのゲームはこの幻想の書と呼ばれる本が重要になってくるよ」
ソニスが手をかざすと、私の後ろから本が浮かび上がった。
これってタイトルロゴにあった本だ。
表紙にセフィロトの樹みたいなのが書かれてる奇妙な本だね。
腰に本を入れるためのブックホルスターがあるし基本装備みたいだね。
この本に技となる呪文なんかが記載されるのね。
「私達が今居るこの場所はこの幻想の書の内側の世界なんだよ。プレイヤーはログインしたらここに来る。そして幻想の書を通して世界へと召喚されるんだ。
だからここは今後もお世話になる場所だと考えて貰って良いよ」
本の内側の世界ってこの場所、チュートリアル専用の場所じゃないのね。
と言うことは実質ホームみたいな所になるのかな。
殺風景な場所だけどホームだとするなら後で改造とか出来る気がするね。
でも、ここが本の世界ならこの本は一体何?
本の中の世界にある本にも世界があってという無限ループに陥りそうなんだけど・・・・・・
「ちなみにそこにある本はこの世界にいる間形成される擬似的な幻想の書だよ。本がないとスキルとかの設定できないから何も始まらないしね。だからここにいる間はこういう擬似的な本があるんだよ」
あ~、ステータスとかの設定がこの本を介さないと出来ないなら確かにないと不便だもんね。
意識をすると直接読まずとも本の内側に書かれていると思われる呪文とかスキルの閲覧は出来きるみたいだけどね。
「それと、所持していれば直接見なくても本に意識を向けると限定的に本の中身を閲覧できるよ。でもこういうのは戦闘中に呪文を確認したり、特定のページを開くための目録にする為の機能だから本を読まずにどうにか出来るとは考えない方が良いからね」
これ、戦闘用の為だけじゃ無くて目録にもなるのね。
呪文が大量に手には入ったらどのページに書かれてるか分からなくなるからその時に必要になるのかもね。
「まずはスキルページについての説明だね。片方にはスキルとその繋がりを示す図形が、もう片方のページには図形に書かれた番号に入るスキル名が書かれているよ」
かたくなにセフィロトの樹って言わないね。
この図形はダァトが無いことを除けば完全にセフィロトの樹なのにね。
まあ、そういう設定なんだし突っ込まないことにする。
このページでスキルの設定とか出来るみたいだね。
片方のセフィロトの樹が書かれた場所の丸の所をタッチするとどのスキルを獲得するのかが出てくる。
他にもEPと言うのを消費して特定のスキルを強化することが出来るみたいだね。
「スキルの図形に触れるとスキル獲得や強化する際にEPが要求されるよね。
このEPはエボリューションポイントと呼ばれる進化のためのエネルギーなんだ。このゲームにおいてはあらゆるものの強化に使えるし通貨にもなる万能のエネルギーだよ」
経験値でもあり通貨でもあるという特殊なエネルギーなのね。
こういうエネルギーで取引してるってどういうことなんだろうか?
実体が無いから本をかざしてピッてすればEPを支払えるとか?
「ちなみにこの世界には現在町などは存在してなかったりするよ。
私みたいに本妖精を通して幻想ショップにアクセスして買い物できるよ。
といってもショップ画面を閲覧することは出来ないから口頭で欲しいものを言ってね。ショップで購入した商品はすぐ届くからね」
ソニスが実質店代わりって事ね。
しかも品物とかは彼女を通さないといけないから実物がどんなのか全く分からないと言うね。
なんかこの辺は不便だね。
どのページを開くかを念じれば本を開いた瞬間そのページが開く機能があるんだし商品目録とかあって欲しかったな。
にしても、商品云々の前に衝撃的なのはこのゲームには町が存在しないことだよね。
だから本の中の世界とかいう安全地帯があるのかな?
そうなると本から出る際とかは注意が必要になりそうな予感がする。
「あ、説明忘れてたけど本の外に出る際は私が安全なところに出るように調整するから安心して良いよ。最後に本の世界に入った場所に基本的には出るけどそこが危険地帯になってたら私の判断で別の場所に出るようにするからね」
ソニスって買い物だけじゃなくそういう役割もあるのね。
こうなると下手に妖精を怒らせたら危険地帯に放り出されてもおかしくないかもしれない。
つきあい方には気を付けた方が良いかもね。
「それじゃあ話戻すよ。EPは様々な方法で手に入れることが出来るよ。とは言ってもEPとして手に入れることが出来るのは敵を倒したときと買い物でものを売った時くらいだね」
「EPとして手に入るのは? もしかしてトレーニングすればEPは勝手に割り振られて強くなるってこと?」
だとすると呪文を使って反復練習すれば徐々に呪文が強化されるとかありそうだね。
他にもいろんな行動で手に入ったりするのかな?
「正解。ちなみにそういう勝手に割り振られるEPは敵を倒した場合にも発生するよ。そういうのなしで手に入るのは売買による取引くらいだね。EPがちゃんとした形でたくさん欲しいならたくさん買い物をしていってね」
なんかやけにEPでの買い物を宣伝してるね。
売買することでソニスに得られるメリットというのがあるんだろうね。
これを使用するのは手に入るEP次第かもね。
膨大な量が手に入るならものを売ってEP を稼ぐのは良いかもしれない。
「それじゃあ、次は呪文のページだよ。今君は剣を振り回す攻撃を強化する剣のスキルによって生まれた《スラシァ》、ただ光るだけでダメージゼロの光の球を飛ばす《レイフト》、火の玉を飛ばす火のスキルから生まれた《ブイフト》の三つの呪文を持っているよ」
おお、ついに呪文がきた。
・・・・・・一つだけ説明がひどい気がするけどね。
ただ光るだけでダメージゼロって・・・・・・
「その《レイフト》の説明は無いんじゃ無いかな?」
「事実だしね。元々大器晩成型スキルから生まれた初級呪文だから目をくらますことすら出来そうにない呪文だからね。他のスキルと複合した呪文こそが光スキルの強みだからね。しかも照らして進むにしても専用の呪文を新たに生成したほうが使い勝手が良いからね。まあスキルが強くなれば使い物になるようにはなるけど少なくとも現地点では使い物にならないよ」
本当に使い物にならない理由が多すぎて酷い呪文だね。
ここまで不遇な呪文があるだろうか。
上手い使い道を探してあげたい気分になるよ。
「そんなわけで今君が使えるのは実質二つだけだね。《スラシァ》は剣を振り回す動作の攻撃を三秒間だけ強化する呪文なんだ。単発限定じゃないから三秒の間なら連撃を加えてダメージを稼げるよ」
《スラシァ》は連撃ね。
連続で切り裂くことでダメージを稼ぐと・・・・・・
試しに使ってみると透明の剣が出現した。
きっちり三秒後に消えたね。
もう一度唱えてから振って確認する。
全ての振る動作での攻撃力を上げてるみたいだね。
突きも例外じゃ無かった。
でもこういうのには大抵アレがあるよね。
「呪文を使った後にクールタイムというのはある?」
「あるよ。呪文を発動させた瞬間からカウントされる呪文再使用までの時間がね。でも《スラシァ》の再使用までの時間は一秒だから・・・・・・」
呪文の効果が終わった直後にまた再発動できる訳ね。
クールタイムの意味ないね。
「あと、強化によって持続時間とか威力とか再使用までの時間が短くなるよ」
「なるほどね。ちなみにこの《スラシァ》という呪文を発動させる際に本物の剣を手に持っていたらどうなるの?」
透明の剣が出現してそれを振り回しているけど唱えた瞬間はじいて出現するのか、それとも持っている剣に適応されるのかが分からない。
「持っている剣に《スラシァ》の呪文が乗るよ。あの透明な剣はあくまで武器を所持してないときに出現するものだからね。威力低下と呪文唱えたときのエネルギー消費量増加というデメリットがあるから基本的に武器を持って扱った方が良いよ。まあ、最初の武器を手に入れるのが厳しいかもだけどね」
あ~そういうデメリット含めての小技みたいなものなのね。
武器なしでも使えるけどその分威力が下がったりコストが増えると・・・・・・
となると剣の入手は急いだ方が良さそうだね。
でもNPCメイドの剣は余り期待できないし自分で作った方が良いだろうね。
木刀かなんかをどこかのタイミングで作るのはありかもしれない。
「ちなみに呪文発動のプロセスは呪文を唱える、頭の中に出てくるトリガーを引く、呪文を発動させるための動作を行うといった感じだね。最後の動作は最初の呪文には無いけど今後は必要になるから覚えておいた方が良いよ」
トリガーというのは発動の意思のことだろうね。
発動させるという意思がなければ呪文はせき止められるんだろう。
普段の会話で呪文名を言ったら呪文発動じゃ暴発しちゃうしね。
勝利の《ブイ、吹っ飛》ばしていこうみたいに言うと暴発するみたいなことを防止することができるしね。
まあ、たとえは無理矢理感すごいけど、今後そういう呪文が出てくるかもしれないからこういう機能はありがたいね。
あと《ブイフト》はクールタイムゼロで連続で唱えれば火の玉を連射できるという呪文だった。
《スラシァ》の透明な剣みたいな特異性はなかったから結構使いやすい呪文だね。
そして《レイフト》はソニスの言ってたとおり本当に役に立ちそうに無かった。
本当にどうやって有効に扱えば良いのか分からないよ。
まあ、これは今後考えようかな。
「それじゃあ、呪文の書いてあるページを見ていこう。呪文は一ページ丸々一つの呪文で埋められているよ」
確かに何故か一つの呪文で一ページが埋まってる。
タイトルが呪文名でページの下の端の方にセフィロトの樹の絵がある。
そして他の所は文字で埋め尽くされている。
その文字は読めはするけど意味が分からなかった。
「端の方の図形はどのスキルがこのページの呪文に対応しているかを示しているよ。《スラシァ》だと1番のスキルである剣から生まれたスキルって事になるね」
確かに、セフィロトの樹の対応するスキルのところが色づいている。
他のページもそうだ。
今は一つだからぱっと見でわかりやすいけど複合で複雑になった呪文は分かりにくいんだろうね。その時これを確認すれば一発でどのスキルによって作られているのかが分かるんだろうね。
これは呪文を作る上での判断材料になるし重要になるね。
「そしてこのページを埋め尽くす意味不明な文字列だけど、これは呪文について説明しているんだよね」
この意味不明な文面が呪文の説明?
「本当に?」
「これは解読が必須になるからね。解読しなきゃ読めないんだよ。でも解読することで呪文が強化されるし呪文の中身が分かるんだよ。中には扱い方を知らないと発動できないなんて呪文もあるからね。うんざりするかもだけど解読は必須だよ」
これ、解読しなきゃ読めない暗号文か。
凄くめんどくさそうな仕様だね。解読で呪文が強化されるとかのボーナスがあってもやりたくないと感じるよ。
しかも解読しないと扱えないかもしれない呪文も出てくるんだね。
こういう仕様は本当に万人受けしないゲームだなって思えてくるよ。
でも、これ下手すると解読しておけばスタートダッシュを決められるとかありそうだね。
こういうのを知るともう少し早く入れることを知りたかったって思えてくるよ。
「それじゃあ、最後は呪文作成いっちゃおうか」
「え、早速作れるの?」
呪文作成はてっきりEPを手に入れた後での話だと思ってた。
「まあ複合呪文の作成のチュートリアルだからね。ここではただで作れるよ。まあスキル取得したときに単体で使えないスキルなんかを手に入れても出来るんだけどね。人によっては二つの複合呪文を持ってるかもね」
スキルの選び方次第ではチュートリアルで二つの複合呪文が作れる訳ね。
まあ、私の場合は一つだし関係ないか。
「複合呪文は二つのスキルを組み合わせた呪文のことだよ。今回作れそうなのは火と剣かな。光との複合はまだスキル強度の問題でロクに使えないとんでもないスキルが出来ちゃうから今は作らない方が良いかな」
ここでも不遇な光スキルさん。
このスキルが輝く日は来るのか・・・・・・
まあ、来て貰わないと困るんだけどね。
しかし当てが外れたね。
光の複合呪文はまだ作れないのか。
取得難易度はそこまで高くなかったことが発覚したし別のスキルを手に入れればよかったな。
新規呪文と念じてページをめくると大きなセフィロトの樹の図形が書かれていた。
なんかスキルが入っている丸の所がかすかに光ってて幻想的だね。
ソニスが言うには作りたい呪文のスキルが対応する丸に指を当てて繋がる線をなぞって別の丸とつなげれば良いみたいだね。
その後思いっきり手のひらを押し当てることにより呪文が作り出される。
そうすると他の呪文が書かれたページと同じような形になった。
違うところはセフィロトの樹のところが二つの丸が色づいているところだね。
それを結ぶ線も色が変わってるからこの二つのスキルで出来上がっている事をしっかり示しているみたいだね。
出来上がった呪文は《ブイ・スラシァ》という火を纏った《スラシァ》だった。
試しに使ってみて気がついたけど、どうやらクールタイムが《スラシァ》より長いらしく連発は出来ないみたいだ。
クールタイムは恐らく十秒と言ったところだね。
しかも発動時間も短いから一撃が限界かもね。
「これで一通りのチュートリアルは終わりだよ。《ブイ・スラシァ》みたいにちょっと扱いづらい呪文も反復練習や解読で使いやすくなったりするからね。解読や反復練習での強化は始まってない今でも出来るから色々と試してみてね」
「説明ありがとね。とりあえず色々と試してみるよ」
とりあえず、サービス開始までに出来るだけ呪文の解読を進めておこう。
あとは呪文を戦闘に扱う練習とかもね。
後数時間でサービス開始だ。
その時にスタートダッシュが決められるようにしっかりと準備しておかないとね。
ソニス「さて今回紹介する呪文は《スラシァ》
スラシァはスラが剣を意味していてシァが振り回すを意味しているよ。
だから剣を振り回すという意味になるんだ。だから連撃に対応しているわけだね。
全体的に使いやすいスキルだから強くなっても多用するんじゃ無いかなって性能だよ。
それじゃあ、今回の説明はここまで。次回もお楽しみにね」