ギャンブル狂の婚約者から婚約破棄されたので、憧れの騎士団長様と結婚して幸せになります!
「アリシア! お前との婚約は、破棄させてもらう!」
ロジャーは、私に対して婚約破棄を告げました。
私とロジャーの婚約は、物心がつく前から決まっていました。
タルセルナ侯爵家と、バルザス伯爵家の絆を深めるための政略結婚でした。
私の実家であるタルセルナ侯爵家は、ネルイエ王国建国時より続く名門貴族家で、父は財務大臣を務めています。
一方、ロジャーの実家であるバルザス伯爵家は、近年のめざましい戦功が認められて、伯爵家まで成り上がった新興貴族家でした。
戦争の影響で多額の借金を抱えるバルザス伯爵家を救うために、私の婚約が成立した際は、タルセルナ侯爵家より結納金が支払われることになっていました。
私との婚約を破棄したら、結納金は支払われませんけど、大丈夫なのでしょうか?
「……ところで、どうして、私との婚約を破棄することになったのですか? 理由を教えてください」
「理由? それは、お前が『ギャンブルをやめろ』とうるさいからだよ! ギャンブルは俺の生き甲斐なんだ!」
ロジャーは、昔は真面目に騎士として働いていたのですが、いつしかギャンブルにのめり込み、仕事をサボってまでカジノに入り浸るようになりました。
当然、騎士団の仕事はクビになり、ロジャーが抱える借金は増えるばかりです。
「……馬鹿なことを言っていないで、ギャンブルを辞めて、早く次の仕事を見つけてください」
「うるせえ! お前なんか大嫌いだ! こんな所出ていってやる! もう二度と帰って来ねえからな!」
そう言い残して、ロジャーは家を出ていきました。
その言葉通り、ロジャーは二度と帰ってきませんでした。
こうして、私は婚約破棄されて、自由の身となりました。
◇
それから、一週間が経過しました。
私の元には、多数の婚約オファーが届きました。
名門貴族家の令嬢として生まれ育った私の仕事は、良い方と政略結婚して、実家のために貢献することです。
早めに、次の婚約相手を探さなければなりません。
「アリシア。焦らないでいいから、ゆっくり考えてくれ」
父は、そう優しく声をかけてくれましたが、これは建前上の話です。
これを真に受けて、本当にゆっくりしていたら、行き遅れて婚期を逃し、修道院に入って寂しく一生を終えることになります。
届いた婚約オファーの中で、一番条件が良いのはギュンター騎士団長様でしたので、私はギュンター様に会ってみることにしました。
◇
「はじめまして、アリシアさん。あなたの事は、ずっと前から好きでした。こうしてお会いできて、光栄です」
ギュンター様は、金髪碧眼で長身の、礼儀正しい貴公子です。
ギュンター様はとてもカッコいいので社交界では人気で、よく女性からプレゼントを贈られていましたが、お付き合いしている方はいませんでした。
「……ギュンター様、私たち、お会いしたことってありましたっけ?」
記憶を辿りましたが、ギュンター様と会った覚えはありません。
「いえ、私が遠目から一目惚れして、勝手に恋に落ちただけですから、こうして会話させて頂くのは、これが初めての機会になりますね」
そう言って、ギュンター様は紅茶を飲み始めました。
このちょっとした仕草でも、絵になりますからイケメンは反則ですね。
「そ、そうだったんですか……。実は、私もギュンター様のファンクラブに加入していまして、ずっと会ってみたいと思っていたんですよ」
「おお! それなら両想いですね!」
こうして、私たちは婚約することになりました。
◇
ギュンター様と婚約して、半年が経過しました。
もうすぐ、結婚式が開かれ、私たちは正式に結婚します。
ロジャーは、ギャンブルで抱えた多額の借金が原因で奴隷堕ちして、今では鉱山で働かされているようです。
昔のロジャーは真面目に努力していましたし、剣の腕も優秀で、将来を期待されていたのですが、ギャンブルに嵌ってから歯車が狂い始め、今では奴隷にまで落ちぶれてしまいました。
現在、私たちは、結婚式の衣装の試着をしています。
華やかなウェディングドレスを着て、私は試着室を出ました。
「どうですか? 似合ってますか?」
私は、その場でくるりと一回転して、ギュンター様にウェディングドレス姿を見せました。
「……可憐だ」
そう、ギュンター様はぽつりと呟きました。
「ギュンター様のスーツ姿も、よく似合ってますよ!」
普段は、ギュンター様は騎士鎧を装備しているので、スーツ姿を見るのは新鮮です。
「……そうだ。君に、渡したいものがあるんだ」
そう言って、ギュンター様は懐から小さな箱を取り出しました。
箱を開けると、ダイアモンドの結婚指輪が入っていました。
「これ、本当に私が貰っちゃっていいんですか?」
「当たり前だろう。ほら、付けてみてくれ」
すごく高そうです……。
思わず、手が震えてしまいます。
結婚指輪を嵌めてみると、サイズはぴったりでした。
「君に出会えて良かった。実はね、ロジャーを最初にカジノに連れて行ったのは私なんだよ」
「……え? そ、そうだったんですか?」
「ああ。軽い息抜きとして誘ったんだが……まさかこんなことになるとは思わなかったよ。ロジャーには、申し訳ないことをしてしまったね」
「気にしないでください。自制心がないロジャーが全部悪いんですから。ギュンター様には責任はありません。それに、ロジャーがギャンブルに嵌って破滅してくれたおかげで、私はギュンター様と結婚して幸せになれたんですから、これで良かったんですよ!」
私とロジャーの間に、愛はありませんでした。
ずっと昔から、私は愛のある幸せな結婚に憧れていました。
そして、私の夢はようやく叶いました。
今、私は幸せです。
「結婚式の前に、キスの練習もしておこうか」
「……そうですね」
私たちは、何度もキスを重ねました。