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Ravissement <ラヴィッスマン>  作者: 轟喜蕎弼
機械仕掛けのプロレタリア
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004.ホメオティック・アジェンダ

もっとオシャレな会話を目指したいです。

「最悪だ。」

「どうしたんだプルト、そのザマは。ラヴィッスマンに見惚れて恍惚ビームでハートを射抜かれたってツラだな。」

「プルトはそれでも鬼なのよ。確実に惚れさせる。」

「ケレス、ユノ、黙れ。私は後ろから不意打ちでファックされたんだよ。クソ忌々しい双子の不意打ちでな。」

「ケッへへ。お前が泣き叫ぶ度に唾と血が混じった体液が飛び散るんよ。きったねーのな。」

「私の血を浴びれる機会なんてそうそうないぞ。そういう男はクル前からみんな死ぬし、私が一番強い。

 もう塞がらないんだよ、着弾と同時に銃創灼かれるし。生きた組織が血管を伸ばし無駄に足掻く。

 私の左肺はもう体液で満たされている。残虐兵器だわ。」

「プルト、それならその肺を摘出すればいい。この私が手術してやるぞ。素手で。」

「アテナ私を殺す気か。おいアポロ。」

「命令すんな鬱陶しい。お前が一瞬でカタを付けておけばなんも問題なかっただろうが。お前の穴埋めのために幾つ時間が無駄になると思ってる。」

「時間って何だ、半減期のことか。時間という定義の意味が分からない。」

「そんな軽口が叩ける程度なら空いた穴にウラン235の鉄心ブッ刺して溶接しとけばいいわ。」

「ベスタそいつは名案だ。穀潰しの爆弾だな。プルトはラヴィッスマンと友達になってこい。」

「お前達の愛情は伝わった。マジでやってくるわ、クソ供が。」

「ぶっちゃけ次の喧嘩で最低一人殺っておかなければ気味の悪いマシナリィのラボに出荷されるぞ。」

「マシナリィなら放射線耐性あるからプルトでも長続きするんじゃね。俺達の代わりに嫁ぎに行けよ。」

「物心ついた頃からペニスもヴァギナもないような化け物だぞ。何されるのか分からないわ。」

「随分利己的な兄弟だな。自分が生き残るためなら親族を犠牲にしても構わない。」

「次はアポロ、お前の番だ。これは偵察任務よ。一人でどれだけのラヴィッスマンを屠れるかの実験よ。皆殺しにしてこい兄弟よ。」

「ちっ。ポストヒューマンの責任は重大だな。俺は勝ちにいくぞ、飽くなき闘争をな。」


 プルトの後に続く会話。ネウロパストゥムの者なのか。


 ラヴィッスマンの実家。食卓を囲む姉妹達の仲、マリアとフランクだけは昨日のカンダの件で項垂れていた。

 なぜフランクと瓜二つの顔をしたカンダが、訳ありな社会情勢をラヴィッスマンの無知を引き合いにして、皮肉を投げかけるのか。

 これは明らかなラヴィッスマンに対する諜報戦であると憤るしか納得できなかった。


 今日のオーダーはウァーグナー記念病院にある機密文書とコードの奪取である。


 昨日の対策のためラヴィッスマンは各自刀剣で武装しなければならない。全力を賭けネウロパストゥムを滅ぼさなければならないからだ。


 ママから武器庫の扉が開けられた。


 古き良き装飾を施した美しいインド・イランの刀剣。ベルナール家に代々伝わる殺意の証なのである。


 マリアは、フィランギを手に取る。

 フランクは、タルワールを手に取る。

 アリサは、カンダを手に取る。

 ブルースは、ガンダサを二つ手に取る。

 デビッドは、プルワーを手に取る。

 アビゲイルは、シャムシールを手に取る。

 シルヴィアは、シミターを手に取る。


「それでは気を付けて行ってきなさい。子供達よ。」


 目的地はウァーグナー記念病院。


 ラヴィッスマンは出陣である。


 そしてここは、ウァーグナー記念病院。そこは百年と数十年と忘れ去られた場所。

 ツタが巻き上がり、フェンスは錆付き、窓は割れていた。

 その周りを良く確かめるラヴィッスマン。奇妙な場所である。


「なかなかの廃虚具合だな。生きとし生ける者がプールの様に蔓延っている。」

「医者は命を弄ぶのが仕事。その医者が離れた途端に生命の育みが始まるのよ。」


 なかなかに言葉を選ばないネメシスの申し子ラヴィッスマン。デビッドとアリサはそんな事を言う。


 廃虚のドアを壊り中に侵入する。だが今回は目的の場所が判明していない。ウァーグナー記念病院でも巧妙な座標隠蔽を計られたから、ママの科学技術ですら衛星目視の座標確認で特定するしかなかったのだ。


 ラヴィッスマンは記念病院の中を散策する。

 広いホールから抜けた辺りの、受付カウンターを飛び越える。

 そして文書を手に取り、ページを開く。


「まるで情報の墓場ね。読めない文字ばかりで紀元前って感じ。」

「二百年前の人間は随分仕事熱心だな。山のような紙の数に全部手打ちで書き込んでる。人類誕生の福音ってこのことか。」


 アビゲイルとフランクは、そう会話をする。


 古代の人間の文書量に関心を高めるラヴィッスマン。

 ページに群がっている虫達のお陰で、掌が痒くなるラヴィッスマン。

 くしゃみも出るわ、目も赤くなり散々だ。


 この文書は後ほど焼却せねばならない。ウァーグナー記念病院ごと放火する段取りだ。


「虫ちゃんが可哀想だけど、ママからのオーダーだから仕方ないわね。ちゃんとより良い未来を築いてあげるからね。」


 シルヴィアは小さな命を尊く思う。


 中央ホールまで散策する途中、思わぬ感覚に襲われる。


 ラヴィッスマンは警戒している。いつネウロパストゥムが奇襲を仕掛けて来るか分からないからだ。

 しかし何も心配することも、回避することもない。何故ならネウロパストゥムはいつも正面切って自らの存在を啓発し、目の前に見参するからである。


 目の前に一人の少年が現れた。どう見てもネウロパストゥムであろう。


「現れたかネウロパストゥム。お前は誰だ。」


 デビッドが咆える。


 ここからネウロパストゥムが一人、見せ場を与えられる。


「俺はアポロ。プリズムの男神。聡明を貫き悟りを目指す者。君達生徒に宿題を与えよう。さぁ授業の時間だ。」


 その少年はアポロと名乗り、次に獲物の紹介を始める。


「これは俺の神器。セントラルドグマ。このプリズムの中には遺伝子を屈折させた物の、サイレンサーが内包されている。つまり遺伝子のプールと言えよう。」


 アポロはプリズムが付いた杖をラヴィッスマンに見せ付けた。


「つまり俺達ラヴィッスマンに遺伝子を転写させようと言うのか。」


 知識だけはキレ者であるラヴィッスマン。アポロはその答えに右頬を上げた。


「いい答えだ。育成しがいがある。君達は刀剣で武装してるようだが銃を持ってきたほうが良かったかな。この光に当たるなよ。これは脅しではない、実験だ。」


 アポロ

 白色の肌を持っており、髪色はゴールド。ヨーロッパ系の顔立ちをしている男性的な人物。


 アウターとパンツは、ドライバーズジャケットを基盤に、薄茶色のセットアップを着ている。

 インナーは、白色のダンガリーシャツ。

 紺色のキャンパススニーカーを履いている。


 真鍮の、コインモチーフのネックレス、サークルリングのイヤリング、カレッジリング、レザーベルトの腕時計で装飾している。


 するとアポロは霧を発生さた。高い水圧で、アポロ自らとラヴィッスマンに外傷を負わせる。相当な自信家のようだ。

 アポロはプリズム攻撃を始める。だがしかしラヴィッスマンの刀剣に光を遮られ詰められる。刀剣で良かったのだ。


「なんだ、楽しいじゃないか。素晴らしい機動力だ。」


 このプリズムの光に当てられようなら、人体の遺伝子配列が書き換わり、急激な体細胞の蛋白質異常を引き起こし、生きては行けない身体に改造されるだろう。

 アポロの振りかざす放射線状の光は、体細胞内に確実に作用する、死の因子そのものなのだ。

 霧である水蒸気の乱反射の振る舞いまで、確実に見抜かないとならない。


 するとブルースは両手に持つガンダサの柄を合体させた。

 ブルースのガンダサはハラディへと変化を遂げた。


 ブルースは両剣であるハラディを回し、あらゆる光の乱反射を演算し、アポロの死の因子を掻い潜る。

 ラヴィッスマン全員もその活路にあやかるが、アポロはなぜか笑う。

 アポロには秘策があった。建物の床に爆弾を仕掛けてたのだ。これを爆破して、捨て身で何人か道連れにするつもりであったのだ。


「ラヴィッスマンホイホイだ。覚悟しろ。」


 見事爆破に成功したが、アポロは阿呆だったのか、一人だけしか罠に落とせなかった様だ。

 アポロはラヴィッスマンの一人ブルースと取っ組み合いになり落ちていく。


「ブルース。」


 取り残された六人のラヴィッスマン。


 地下に落ちて瓦礫に埋まったアポロとブルース。

 ブルースとアポロ死ななかった。だがブルースだけは瓦礫が足に挟まり身動きが取れなくなっていた。


 床は完全に瓦礫で覆い被さった。残りのラヴィッスマンは足で地下に行く。


「みんなと離れてしまったね。ブルース君。」


 辺りを確認するブルース。


「これは、マシナリィのボディ。なぜ病院なんかに。」


 ワーグナー記念病院の地下はマシナリィボディが大量に破棄されている、生産工場の形跡が見えたのだ。


「とは言ってもかなり古い型だがね。時に君、なぜマシナリィは恐れられ、邪険にされると思う。」


 アポロはブルースに問題を投げかける。


「クローン技術で圧倒的に個体数を増やす上に、頭から下を機械化しないと生きてもいけないからだ。人間である部分が極端に少ない。」


 ブルースの答えに、あまりにも論点がズレていると思うアポロ。


「しかしマシナリィも人間の遺伝子を保有している。では人間とは何を指す。機械化だけなら、トランスヒューマニズム化をしている人種は全て、人間だと認める訳にはいかないのではないか。」

「でも彼等は人類の敵だ。」


 アポロの切り口に、高尚な答えが返ってこないブルースの問に困る会話。


「いやいや敵であっても差別の話だ。差別はいけないよ。差別は。しかし俺が敵であるにも関わらず、殺すのを躊躇った、それはどうしてか。

 そうママにマシナリィの歴史を教わっておいて、ママの言い付けを守れなかった。」


 ブルースは黙ってしまう。ブルースは落ちて行くその狭間、刺し殺すのを躊躇したからだ。

 そしてアポロは、ブルースとの会話が成立するように、答えに近い問題を提出した。


「なら生命体が、その身体の構造を定義付ける、因子は何だと思う。」

「ホメオティック遺伝子だ。」


 ブルースは完璧な答えを出した。


「そうだ。ここに廃棄されてるのは、旧マシナリィの身体。皮肉にもこの鉄屑は、彼等の遺伝子の表現形が込められてる。また我々も、マシナリィと同じ立場であれば、この鋼鉄の肉体と酷似した形式を求めるだろう。

 つまりこれは人間そのもの身体であり完成形、人類共通して希求する肉体だ。例えサイフォンの餌食になるような鉄屑でも。」


 アポロの授業は続く。


「闘争を望むマシナリィであるのに、出生時からトランスヒューマニズムをするボディに、何の戦闘的武装がない理由も教えよう。」


 アポロの一方的な授業だ。


「ホメオティック遺伝子が、人間の形式を取り入れようとしているからだ。彼等は戦車の無限軌道や、戦闘機の両翼を、生涯の肉体として選ばない。なぜなら人型ではないと、必ず精神的苦痛を味わうからだ。

 しかも生身に何一つ武装を施さない。戦闘時には必ず鋼鉄の肉体に、もう一枚アーマーを着てライフルを装備する。便利な技術を利用することもなく、完全に人類の生活模式を採用している。

 我々人類は猛獣の爪と牙を持たず産まれてくる、だから生身に、戦闘に至る殺傷武装を施さず、準えたトランスヒューマニズムをせねばならない。それが人間のホメオティック遺伝子だからだ。」


 まだまだ続けよう。


「マシナリィであっても、何が人と違う。それでも人型のまま維持しようと機械化するレギオン市民や、マシナリィの愚痴なトランスヒューマニズムと、五体満足で産まれてきた君達、ラヴィッスマンとの間の、身体的な特徴に何が変わらないと言うのか。」


 その問に、ブルースの心は答えなければならないと、義務感を持った。

 ブルースは自らの行いの中で、確かな感情を持ち合わせていた。それは禁忌でもあり、全ての感情を内包するものでもあった。


「確かなことは分かっている。僕の心は相反していることに。

 例えば心臓が悪くなり、ペースメーカー手術を施しても、トランスヒューマニズムである事は変わらない。

 先天的に身体の何かを喪って、それをカーボンや鉄骨と、シリコンの肉でコーティングしても同じ。そして、後天的に喪った身体を、何一つ補わず、ありのままで生きる姿も、人間的で正しい。

 なら補うことでしか生きてはいけないプロレタリアと、五体満足の僕達から生じる、差別的意識の感情それは。

 自身の目的の中の、僕の道徳心が、ママの憎しみのサイズが凌駕し、意志が取り込まれていたからなんだ。これは僕達の望んでいる殺し合いではない。

 君には同じ人間として、親近感を覚えるよ。」


 アポロはこの上なく満足した。


「その答えを待っていた。素晴らしいよ。

 地球に遺伝子が誕生して、今や現在に至るまで。この社会構造は遺伝子に刻まれていなかった。

 それすなわち、この状況は、予め遺伝子外の思想で、それを行わせる行為に、錯覚させるため、巧妙に仕組まれていたんだ。

 全ての差別は、巧妙に仕組まれた社会システム。つまり後付の動機そのものであり、全部は幻想と妄想だったんだ。

 そしてその差別と被差別、これらから脱却するには、予め刻まれていない外的な心理作用する部分を否定し、捨てる事なんだ。

 科学や哲学を勉強し、事実と現実を知る事で、一方的に理解をし、全てを切り捨てる事ができる。

 その矢先に残る遺伝子が、先天的に刻む感情はなんだか分るかね。それは純粋な闘争心だよブルース君。無差別的な殺意こそが、全ての社会システムの支配からの脱却を意味するんだよ。

 俺はネウロパストゥムの兄弟達や、君達ラヴィッスマンに何の親近感も慈愛も沸かないんだよ。ただただ全てに勝ちたいという気持ちだけでしかない。殺し合いできるなら誰でもいいよ。

 君は優しすぎたね。無事に卒業できるよぉ。」


 ブルースは吐き気を催した。ブルースはそれでも人を殺したくないと思うのに、アポロは純粋な闘争を求めているからだ。

 そしてアポロはブルースにプリズムをかざした。


「でも闘い方はFマイナスだったね。落第だ。」

「ぐぁぁぁあ。」


 ブルースに逆転写をしかける。もう助からない。ブルースは遺伝子的には別の生き物になってしまい死の因子を組み込まれたのだ。ブルースの身体は既に末期癌であった。

 そして丁度ラヴィッスマンが追いついた。


「ブルース。」


 遅すぎたのだ。ラヴィッスマンは後悔した。

 最後の報復としてアポロに闘争を仕掛けるラヴィッスマン。そして数で押されるアポロの抵抗も虚しく、取り上げられたプリズムで、アポロは口の中に詰め込まれ、プリズムを飲み込んでしまった。


「あっ、飲んじゃった。えっ、マジこれ何を逆転写してんの。ぐぁぁぁあ。」


 アポロはもがき苦しみ溶けていった。

 プリズムはどこかに転がって行った。


 ラヴィッスマンはブルースを抱き寄せる。


「ブルース。君を喪いたくない。」


 最期の言葉をブルースは言う。


「ここから先は、疑うことを忘れないで。」


 ブルースは息絶えた。ラヴィッスマンは涙した。しかしここの地下に、マシナリィのボディが夥しい量を生産されている。

 ラヴィッスマンの不信感が拭えない


 病院とマシナリィ、一体何の関係があるのか。

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