032.シジジー
「あれから三百年か。」
マリアは飲食店のバルコニーでお茶を楽しんでいた。
あれからガーディアンズは自身の細胞にヴェクター・アーキアを寄生させ、体細胞増殖を帳消しにする大食細胞の『オートマトン・マクロファグ』を研究開発をし、不老不死の身体を手に入れた。
ナスチャを失って脱け殻となったマシナリィと女帝サンタ・アナは、ガーディアンズが研究開発をした遺伝子核酸増幅システム、セントラルドグマを基盤とした『ホメオシス・ドグマ』により、遺伝子改善を施術された。
マシナリィも含む惑星サラスの人類の大半は、トランスヒューマニズムに依存しなくてもいいほど、自身の遺伝子を改善されていた。
女帝サンタ・アナは生涯を終えており、神聖レギオン帝国は形骸化をし、今まさにガーディアンズは惑星サラスを飲み込もうとしてる段階である。
「今度は少し、砂漠で暮らしてみたいわ。」
マリアはそんなことをつぶやきながら、タバコを吹かす。
「よっこらしょっと。」
謎の人物はマリアと同じテーブルに座る。どうやら相席をしたいようだ。
謎の人物はおにぎりを買ってきたのか食事をしている。
しかしマリアはお茶だけを飲んでいるので、何も食べてはいない。
「君も一つどうかね、吾がくれてやろう。」
マリアは謎の人物からおにぎり一つを貰い、食べることにした。
謎の人物は横柄でありながら気品があり、まるで王様のような振る舞いをしている。
二人はおにぎりを頬張る。謎の人物は豪快に食べていく、たくさんのおにぎりをバクバクと飲み込んでいく。
「ふぅ〜。食った食った。
おっと、葉巻きを吸ってもよろしいかな。」
謎の人物は葉巻きに火を着け、豪快に吸っていく。葉巻きの煙をきっちり肺まで吸い込み、満喫していた。
謎の人物は、女性的と男性的な身体的特徴をあわせ持ち、声も高い声と低い声が混ざった声質を持ち、まるで陰陽互根のような存在であった。
そして衣服には『天秤』と『剣』のエンブレムが刺繍されていた。そして帯刀をしている。
「地球産の食も煙草もなかなかいい。君達サラス人も、献上すべき素晴らしいお歳暮があることを誇るといい。」
謎の人物はこう言った。次にマリアはこう答える。
「しかしこの地はかなり汚染されていますよ、その地で育てられた食物です。」
そう答えるのであるが、謎の人物は全く受け答えにはならない発言をする。
「君達にとっては正に毒であるが、吾にとっては宇宙の塵芥の一つの万物に等しい。
全ては諸行無常、諸法無我、涅槃寂静であり平等であるな。」
謎の人物は超越者であった。まるで地球に旅行をしにきたかのような言動に、少し会釈をしてしまったマリア。
(この私が会釈だと。
すると私はこの人を無自覚に格上の存在だと認めてしまったのか。不覚だ。)
「律動法、タウの力を持つ戦士。カーカー・カーワァ(カラス)よ。
どうした、ほれ。」
謎の人物は飲みかけのお茶をマリアの眼の前に置いた。
「『水の記憶』を読み取れるんだろう、飲んで知ってみたらどうだね。
それか吾が直々にキスをしてやってもよいぞな、マリア=Ⓐ=カーワァよ。」
マリアは飲んで記憶を知るわけにはいかなかった、なぜなら与えられただけで負けを認めたように感じるからである。
悔しいマリアは心機一転、攻勢にでることにした。
「うらぁ。」
マリアはテーブルを蹴り上げ、表面を立てて謎の人物から視界を隠す。
そのままクリプトクロムで相手の位置を把握し、テーブル越しに刺してやろうとした。
しかし目論みは見事覆され、相手の太刀筋も読めずにマリアは片腕を斬り落とされた。
しかしマリアは片腕を失っても瞬時に細胞を増殖させ、ホメオシス・ドグマで治療していった。
「お前は、エグゼキューター・シャズァズィーか。」
マリアは相手の存在を見抜いた、執行官シャズァズィーは高らかに笑った。
「ほほう、お主もその名で呼ぶのか。サラス人は面白いのであるな。」
するとマリアの目の前に執行官シャズァズィーの家来と思われる集団が参上した。そして大きな象の背中には玉座があった。
家来達は次々と四つん這いになりながら象までの階段を作る。
執行官シャズァズィーは何も躊躇することなく家来の背中を踏んで、象の背中まで駆け上がる。
執行官シャズァズィーは象の玉座に座り、足を玉座に乗り上げ涅槃に近い体勢でくつろぐ。
そして横に立つ家来がキセルを取り出し、火を付けて執行官シャズァズィーに献上した。
「ぷはぁ。」
「何しにきたんだ。」
執行官シャズァズィーは答える。
「吾はこの惑星の政治はどうでもよいが、そのマシナリィの負の遺産、ヴェクター・アーキアの機械共が惑星各地で暴れ回っておる。
惑星サラスにおける調停者コラクスたる加良須、ガーディアンズよ、はた迷惑な『トランスクリプション・マシーネ』と呼称するマシナリィの機械兵器を撃滅してこい。
ちなみに『トランスクリプション・マシーネ』は型番をTSM―HOXとなっていてな、『ホメオティック・フルーク』が代表的だ。」
マリアはその命令を不満に思う。
「むむむ、我々ガーディアンズがケツ拭いしろと言うことか。」
しかしそんな不満も執行官シャズァズィーは覆す。
すると執行官シャズァズィーは巻物を取り出し、マリアに手渡した。
「ヴェクター・アーキアのセントラルドグマ、『プリズム・システム』の技法は知っておるのだろう、その『プリズム・システム』から派生した技法、『タキオン・ヴェクトル』の開発方法を伝授してやろう。」
その『タキオン・ヴェクトル』とは、空間圧縮により反発させた自身の肉体を、一度分子分解をし、原子に分離した自身を宇宙空間に放ち、最高光速度で移動させ、惑星間で体細胞を組成し瞬間移動をするものだった。
「それと地球産のプリモ・ポストヒューマンが、あらゆる惑星に漂流していてな。民衆を扇動して統治者になったり政治家になったり、色々やらかしておるわ。
特定して始末してこい。」
マリアはそんな宇宙の状況を呆れながらこう言った。
「宇宙に行くのか。」
そんなマリアの気持ちなど、どこ吹く風のように話を一方的に進める執行官シャズァズィー。
「お主は砂漠に暮らしたいと申しておったな、ならば火星に居を構えるといい、よいぞ火星は。
定期的にテンペスタ(砂嵐)を起こしてやるから火星に住め。」
執行官シャズァズィーは火星を推す、そして話を進める。
「吾はたまに人にイタズラをして、如何なる場面においても嫌な思いをさせるのが趣味なのだ。
ちくいち、いらんことをしてやるからの。」
「おいコラ。」
マリアは執行官シャズァズィーに苦言を呈しながら頬を膨らませる。
そして執行官シャズァズィーは未来を予測したかのような発言をする。
「後それと、未来にまた邂逅を果たそうとする波動係数が感知されたのでな。次に合うころは米を持ってこい。」
はたしてガーディアンズの結末やいかに。
「やらんかったらシバき回すのであるからの、と言うことじゃ。
じゃあな。」
「待ってくれ。」
マリアの目の前に強大な磁気嵐が形成され、閃光が渡り、強い磁場と共に執行官シャズァズィーは消え去った。
次が語られるころは、約、三億年後であろう。
「Syzygyか。」




