013.着床
「女王陛下、お渡しするべきものがあります。」
テンプル内での死の聖母、女王陛下と全てを知る、老婆司祭がいがみ合っている。
死の聖母、女王陛下は自らを律しながらも、強い殺意に呑まれていた。
老婆司祭が祭壇の奥深くを案内したいと女王陛下に申し立てる。
渋々、死の聖母、女王陛下は行く。
祭壇の奥には扉があり、それを開いていくのだが、その奥には何とも摩訶不思議な杖があった。
「これは何だ。三日月の杖か。」
死の聖母、女王陛下は老婆司祭に聞いた。
「これは杖でなく、鎌にございます。」
白い柄に、金色の鎌の刃物が合わさったデスサイズ。しかし三日月の杖と見間違えるほどに鎌の部分はつの字に曲がっている。
老婆司祭はそのデスサイズを先代のクローン、女王陛下の持ち物であると言う。
「それと、ここにガベルの槌がございます。」
デスサイズとハンマーが目の前にあった。
「これが女王陛下、死の聖母サンタ・ムエルテと敬愛されていた由縁の正体にございます。」
死の聖母、女王陛下とサンタ・ムエルテ、それにつの字に曲がった金色の鎌の刃デスサイズとガベルの裁判の槌ハンマー。一体何を表しているのか。
そして老婆司祭は衝撃の真実を語る。
グレゴリオ暦2043年、地球。
サンタ・ムエルテは地球に来航してわずか七年で世界を支配した。
その当時の来航者、マシナリィ族は地球の惨状に酷く悲観していた。
地球人のほとんどが、催奇障害と知的障害、少数の割合で不妊症という不治の病に侵されていたからだ。
理由は大国政府が結託して、人体実験を行って、結果としての副産物が、次世代の遺伝子に悪影響を及ぼしたからである。
「静粛にしてください。終焉がやってきました。我々は貴方達を救えません。この裁きを刮目してください。我々に貴方達は救えません、我々に貴方達は救えません、我々に貴方達は救えません。」
当時サンタ・ムエルテがガベルを叩き大衆に向けて放った言葉である。
サンタ・ムエルテは地球での政府の企みのほとんどを暴いていき、各国は機能不全まで陥っていった。圧倒的な科学力と軍事力で侵略するマシナリィ族の功罪で、大国政府は民族浄化、軍事侵攻、経済支配の目論みを達成できずに、悪事を暴かれ裁判を余儀なくされ、処刑台に立たされた。
「これが貴方達が待望していた裁きです。これは警告では済まされません。我々は貴方達を救えません。これは戦争です、これは戦争です、これは戦争です。」
サンタ・ムエルテは悲しみに暮れる。
「貴方達は聞くには聞きますが、決して悟りません。見るには見ますが、決して認めません。その耳と眼は閉じています。眼で見ず、耳で聞かず、心で悟らず。悔い改める事はできません。」
サンタ・ムエルテは、政府と結託する組織を、次々と処刑していった。マシナリィ族に軍事、経済、貿易を全権掌握され、人類は完全に敗北し衰退した。それでも人類は遺伝的疾患を抱えたまま、次世代に影響する遺伝子を改善することは不可能だった。
「貴方達が存命している事象は錯覚であり、名前を贈与されただけで、事実は死亡しています。覚醒して、瀕死の人々の助力となる人類に進歩してください。我々は貴方達の技術が、全ての我々の神である御前に完全であるようには確認できません。」
サンタ・ムエルテの演説は大衆を扇動する。
「貴方達はこの情報に感染する以前の記憶を、知識として、追憶できる教訓を刻印しなければなりません。」
サンタ・ムエルテは大衆に植え付ける。
そして。
「全人類は社会的規範意識の中で、生命倫理の冒涜を助長しました。利己的遺伝子の反逆です、技術的特異点を歩んでください。」
2045年。
サンタ・ムエルテは記念病院を次々に占拠をしていった。催奇障害、知的障害を改善に至らしめる、トランスヒューマニズム施術が人々に強制された。当時のマシナリィ族の技術は、今のマシナリィ族の技術を遥かに超越しており施術成功率は完全無欠であった。
脳内に人工知能のニューロチップを施術し知的障害は完全改善、トランスヒューマニズム技術で身体能力は社会適応能力にまで飛躍した。
施術不可能な個体は、背骨と頭部のみを残しながら首を切断し、マシナリィボディに施術した。
それでもホメオティック遺伝子に反する事なく、人道的に全てを救おうとしたサンタ・ムエルテ。
その強制執行から人々はマシナリィ族を完全に恐怖した。
そして2050年にグレゴリオ暦を完全撤廃し、サラス暦を制定されることとなる。
レギオン帝国は誕生した。
そして慈悲深い、サンタ・ムエルテはレギオン帝国市民間での人種差別や性別差別を根絶すべく、人種や性別の概念そのものを消去した。
人々は屈従するしか生きる道はなかったのである。
しかしマシナリィ族にも問題を抱えていた。後天的遺伝子変異による不妊症と、トランスミッシブル・スポンジフロム・エンセファロパシィでの短命。それによるクローン出産への不可抗力で、外部記憶装置からの記憶引継ぎに情報変異が起きるのである。
遺伝性記憶媒体における、ミームが変異しやすいのである。
その弱点に人類は反旗を翻しマシナリィ族をあの手この手で騙していった。
そしてマシナリィ族はいつの間にか医療技術と重工技術の全権を気づく事なく剥奪された。
そして、サンタ・ムエルテは象徴として、デスサイズを贈呈された。
いつしかマシナリィ族は人類に、支配者は軍人であり、探鉱者であり、農家であると教えられ、マシナリィ族は馬車馬の如く労働したのだ。レギオン帝国内における、内需そのものがマシナリィ族の労働力。機械仕掛けのプロレタリアはマシナリィ族であったのだ。
バア、バアと鳴く、黒羊の声が聞こえる。
本当の愚鈍の奴隷とは、マシナリィ族であったのだ。
そして、マシナリィ族は被差別民族へと転落した。
「なぜ人体実験をして人々を苦しめたのだ。」
話を聞いて疑問に思う女王陛下。
「我々もトランスヒューマニズムの実験をしとうございました。まずは人体実験をしなければならなかったゆえ。」
老婆司祭はそう返し、また答える。
「我々ははっきり申し上げて、永遠の命が欲しかったのでございます。そのために民衆を使ったのでございます。」
老婆司祭は権力者の利己主義だと白状する。
女王陛下は更に聞く。
「では技術はあったのか、成功でもしたのか。」
「いいえ技術は難航を極め可能性は低いとされました。だから我々ある技術を開発したのです。」
老婆司祭は続ける。
「それはサイフォンでございます。」
老婆司祭は語る。
サイフォンとは水蒸気圧力を利用して、生体情報をハッキングする技術であると。
トランスヒューマニズムにおける体内圧力を操作する作用と、臓器における損傷頻度の調整を可能にするホメオパシーの自己修復機能である。
しかし意識に接続するあまり、意図的に臓器を破壊できる相対性も保持しているので、自害も可能である。
前提として臓器の位置を知識として持っておかなければならない、なぜなら想像しなければ意識として接続しないからだ。だから加齢による認知症になれば使用もできない。
「もっともこの技術は、人を殺すために使える事の方が、簡単ではありましたが。水は情報を記憶するものです。」
老婆司祭は冷酷な話をした。
「では我々マシナリィを篭絡した愚か者がアラレス商団であるのか。」
「おっしゃる通りでございます。かつて我々が従えておりましたソサエティは、死の聖母、女王陛下からの処刑裁判から逃亡できました。残党めが結成した組織にございます。」
肝心なところをソサエティなどと抽象的に茶を濁す老婆司祭。
「我々マシナリィ族がこの帝国を繁栄させるためどれだけの労力を尽くしたのか。」
「帝国などのためではございません、我々司祭達のために犠牲になってくれたのでございます。
この私の身体は女王陛下の技術で延命されました。庶民の皆さんからも臓器をいただく事ができました。
三百年以上生かしていただいて、誠に感謝しております。」
死の聖母、女王陛下は頭を抱え後悔した。
「我々マシナリィ族の唯一の失態は貴殿らを皆殺しにできなかった事だ。」
「地球に侵略してきても女王陛下は魔女狩りをなさいませんでした。事実と反証を精査し確実に犯罪者と確定した者を処刑なさったのです。司祭達は確実に擬態して女王陛下に組入りました。」
クレバーなアリバイと言うものである。
すると老婆司祭は死の聖母、女王陛下に初めて質問をした。
「女王陛下はもしやアナスタシア=ベルナールという人間をご存知であられますか。」
死の聖母、女王陛下は眉をしかめた。
「我に口を問うな無礼者。」
「申し訳ございません。」
女王陛下は明らかに焦燥してる。足りない頭を回す事を努力している。
「今日はこのくらいで失礼する。この鎌と槌は持ってゆく、貴殿を裁くために。次は死闘であるから貴殿もあるなら砥いでおけ。」
「御意。またお待ちしております。」
死の聖母、女王陛下にはアナスタシアと言う名前は懐かしいものなのだが、それがどうもベルナールとは結びつかない。
そう考えながらテンプルを後にした。
すると死の聖母、女王陛下に一本の連絡が入る。
「アナスタシアか、何ごとだ。」
アナスタシアことナスチャ=バラノヴァ、原爆大帝プルトからの連絡であった。
「しくじりました女王陛下、私の身体は無様に斬り刻まれました。コードも奪われました。」
「それはユノであるか。穏便とはゆかぬな。」
ナスチャはユノに手足を斬り落とされ、臓器も多大な損傷を極めていた。
ユノは愉悦感からナスチャが這いつくばる姿を見物し、意図的に野垂れ死ぬ様にとどめを刺さなかった。
そしてナスチャは女王陛下に救いを求めたのだ。
「女王陛下、申し訳ございません。私を原子力発電所の原子炉の中に隔離してください。」
「自らをプラズマに閉じ込め核融合で治療するというのか。もはや人には戻れぬぞ。」
ナスチャはそれでもいいと言う。サイフォンの自己修復機能を使えば、ナスチャはプルトニウムでも簡単に、人体を構成できる。
女王陛下はマシナリィに通達を与えナスチャを迎えに行く。
ナスチャを見つける事など簡単で、ガイガーカウンターさえあればいい。
マシナリィは慎重に搬送をし、原子力発電所に向った。
原子炉に到着したナスチャは、すぐさま原子炉の中に入院した。
「これから私はしばらく眠る、運んでくれてありがとう。」
ナスチャのマシナリィの付き人サラマが原子炉を管理する。
「あー、ナスチャ。起きたら本物のプルトニウムでイエローケーキを作っておくね。きっと食べないと死んじゃうからさ。」
サラマはこの後のナスチャの性質を予測する。
ナスチャはしばらくの眠りについた。
カンダ一行に連れられて、マリアとフランクは、アリサを抱えて村に入る。
村は予想以上にごった返し、まるで秩序が少ないスラム街だった。
カンダはいつも笑っている。そして中を通し色々な事を説明する。
「まずは治療室に行こう。俺らもエシナケアーを持っているんだ。ラヴィッスマンはもうアンプルを壊しちゃ駄目だよ。」
いつも軽い雰囲気で接するカンダ。ラヴィッスマンにとってはカンダは面倒くさい部類に入る。
「このベッドにしようか。すぐ処置に入ろう。」
マオはさきほどのグロスフスMG42を手放したばかりの手で処置をしようとする。
衛生管理は最悪だ。
「大丈夫さ。手を洗えばなんとかなるよ、硝煙だらけでも大丈夫。」
一応手は洗うみたいだ。ただエシナケアーを投与するだけ。そこまで心配する事はないのだ。
「アリサ、もう大丈夫だ。いつでも側にいる。」
マリアとフランクはアリサを元気づける。
ネウロパストゥムの血筋の事、親族を殺してきた贖罪、これからは清く正しく姉妹達と向き合いたい。そして、もう二度と親族殺しはしないと誓う。ベルナールのためだ。
アリサの手を握り、頭を撫でるマリアとフランク。もうそろそ夕方だ。
さすがに空腹である。するとカンダに呼ばれる。
「そろそろ腹減っただろう。屋台で配給してるぜ、食いに行けよ。」
どうやら配給制のようだ。アリサは流動食しか食べれないので、マリアとフランク二人で屋台に行く事にする。
「沢山あるんだね。」
様々な文化の入り交じるこの素敵空間。まるで、その日の体調次第で選んで調理するスパイスの様な種類。
とても食欲がそそるが欲張っては駄目だ。来訪客だからだ。
「そこの若いの。うちで食ってけ。」
芳醇な香りが漂うスパイスに連れて行かれるマリアとフランク、マリアはチキンカレーを選んだ。
「僕はあっちのケパブを頼んでくるよ。」
マリアとフランクはしばらく離れた。
マリアはチキンカレーをしばらく待つ間に後ろから奇妙な発音をする少女に出会う。
「バア、バア。」
マリアは振り向く。初対面である。
「初めまして、見ない顔ね。」
少女は一パイントのビールを片手にマリアを凝視する。
「は、初めまして。今日からお邪魔してるの。」
少女はチキンカレーを見ながら少し溜め息をついた。
「三国料理の一つね。デジャヴュだったら最悪ね。」
少女はまた妙な事を呟く。
「フレデリック氏は見なかったかな。」
マリアは少女の質問に誰かを探していると理解し、自分は知らないが、ディナーの後でなら一緒に探そうと言う。
「いいや、大丈夫。どうせ尻尾巻いて逃げたから。」
マリアは喧嘩だと思い、この件には関わらないと思った。
「貴方、名前はあるのかな。」
「私はマリアって名前よ。貴方はどんな名前。」
少女は答えた。
「私はスクィーラー。バア、バア。ゲフッ。」
スクィーラーはだいぶ酔ってるみたいだ。羊の様な鳴き声を真似をする。
するとスクィーラーはマリアの肩に手を置いた。
マリアは驚愕した、スクィーラーの腕力に。
まるで人間の握力ではなく、人間以外の動物の様な力を感じて、恐れた。
「ごめんなさい。もう舐めた態度は取りません、許して。」
するとフランクがマリアの元に帰ってきた。
震えるマリアに察したフランク。当然止めに入る。
「すまない、マリアが嫌がってるんだ。このくらいで勘弁してくれないか。」
スクィーラーは不敵に笑い、マリアとフランクにこう言った。
「ごめんね、男連れだったのね。美男美女じゃん。私はもう行くわ、いい夢見ろよ。」
すると、スクィーラーは去り際に何かの忠告をする。
「一つ注意して欲しいんだけど。もし夢の中で、二足歩行するような野良猫に会ったなら、そいつらの戯言は聞き流す方がいいよ。まぁ、長靴を履いた猫じゃないけど。」
二人は置いて行かれた様に状況を読めなかった。
二人は夕食を食べ終わり、アリサの病室へ行く。
アリサに寄り添いながら昔話をする。
すると何やらアロマオイルの様な香りが病室に漂い、強烈な眠気を誘う。
三人はついに気を失い、深い眠りに着いた。




