001.ライク・ア・ローマン・カストルム
初投稿です。よろしくおねがいします。
「私の可愛い子供達よ、その命がある限り、全てのマシナリィを滅ぼしなさい。」
「うん、ママ。」
全てはレギオン帝国を滅ぼすため、ママは子供達にそう教える。
その子はラヴィッスマン。マリア=ベルナール。
地下に潜伏したこの実家で、ホログラム越しに映る母は聡明で美しく。恍惚に孝行をする行いから子供達はラヴィッスマンと呼ばれた。
世界に地獄蟻のように巣食う、死の聖母、女王陛下を崇拝するレギオン帝国に心底嫌気が差したと、自らをネメシス=ベルナールと豪語するママはもう長くないと言う。
マリアは涙を堪える他なかった。
サラス暦193年の地球。
人類は三つの種族に分かれた。
催奇障害、知的障害に悩まされた人類は機械と融合を果たすトランスヒューマニズムと呼べる治療法を発明し、大きな発展を成し遂げた。
経済、通貨、生活も全てデジタルでオートマチック化し、工業、貿易、軍事の管理が容易になり。
書籍、教育、通信も外部記憶装置を廃止。頭脳に人工知能のニューロチップを、埋め込み施術し、知的障害の改善。それ以上に膨大な社会ネットワークを形成した。勉学の習得も驚異的な早さである。
その中でマシナリィは不妊症の血族であり特に重篤な知的障害と催奇障害を抱えていた。
正常な生命活動のため、頭から下を鋼鉄の肉体と合体する施術をし、トランスヒューマニズムの極致へと登り詰めた。
人口の大多数であり効率的なクローン出産方法で千万無量の人種となり、全ての軍隊、採掘、農業を職業とするレギオン帝国の支配者である。
ガーターと呼ばれる元老院と最高位権力者の女王陛下を頭に持つ、完全階級社会。
その市民は自由と責任を希求しない、無自覚な消費者であり、職業選択も帝国の根幹を根差せない、労働をさせられる奴隷民族の人種。市民の労働時間は三時間と決まっており、対してマシナリィ族は眠りにつくまで際限なく働き続ける強者。だから帝国の最高種族なのである。
その奴隷市民の中でマシナリィから名誉同盟民族と階級付けられた商業連合体、アラレス商団はマシナリィの鋼鉄の肉体、マシナリィボディを生産開発し、軍事における空間圧縮レーザー武装、と高出力電荷アーマーの提供も義務付けられた。高性能な採掘製品や農業機械、医療機器もその他諸々である。
つまりは軍産複合体と、医療産複合体を両方の顔を持つ、軍需医療産複合体と呼べるアラレス商団。
そして、アラレス商団と、その重責を担わない市民は単なる奴隷、哀れ無知なプロレタリア。至極笑止千万なのである。
そしてトランスヒューマニズムや、プロレタリアとなることも拒絶した人種。
ただ一人のママから産まれた世襲制の一家。サイフォンという蒸気水圧の特性を掌握した、超能力を保有する姉妹達。マシナリィを退け、レギオン帝国を刺す最後の人種。
それが生身の肉体と人生を持つ、ベルナール家の血筋、ラヴィッスマンが物語の主役の人種なのである。
そして、ベルナール家のママは、子供達にオーダーを与えた。
広大なスエズ運河での出来事。ラヴィッスマンとマシナリィは戦争状態であった。
マシナリィの船長、キャプテン・ロカウは、レギオン帝国の研究施設を防衛するため、ラヴィッスマンから防衛陣営を張る。
「キャプテン・ロカウ、ここは持ちこたえられません。」
鉄と血の匂いの中、ラヴィッスマンはマシナリィを虐殺する。
荒野と化す夜の戦場の中、マシナリィを一網打尽にするラヴィッスマン。
生身の身体で、空気抵抗、摩擦係数、気圧演算を瞬時に計算し、プラーナにアクセスできる超高機動なラヴィッスマン。
マシナリィの銃撃を可能性の範疇外まで演算の限りを尽くす。そして、サイフォンの霧を放射線状に放つ。
サイフォンという蒸気水圧の能力の前では、マシーンのボディを持つマシナリィなど、生命維持装置をショートさせられ、心肺機能を支配する脳幹を簡単に焼き切られる。
マシナリィなどデクと同様、毒霧なのだ。
圧倒的な殺戮能力を持つ、それがラヴィッスマンなのである。
「フランク、後手に回って。前はアリサが抑えるから。」
「分かったよマリア。僕は退路を守るよ。」
フランク=ベルナール、アリサ=ベルナール。同じラヴィッスマンの子供達である。
今回の目的はキャプテン・ロカウの刺殺および、アラレス貿易ルートの制圧と、レギオン帝国最高機密データ、『コード:サテッレス』の奪取である。そこはスエズ運河に位置する。
ちなみにキャプテン・ロカウはおまけである、たまたま今作戦で将校として相見えたから殺害されるだけだ。
立ち塞がる全ての怨敵を職滅する、それがラヴィッスマンである。
「十億殺しのマリオネットめ、殺戮の限りを尽くしおって。貴様らマリオネットが何十人も捕まり犠牲を払ったと思うのか。
貴様等は、我々の遺伝子を修復し、我等次世代の子供を遺す贄となるのだ。そのために我々は存在し貴様等が代償を払う。絶対に後悔させてやる、産まれてきた事もだ。
厚顔無恥、哀れ無力で愚かな存在、一族郎党総家畜、親がいなければ何一つ自分で決めることもできない出来損ない、帝国の最下層で虐め抜いて拷問してやる、何がネメシス=ベルナールだ、貴様等の愛しきママを最も惨たらしい方法で殺してやる。
貴様らのママの本名をガーターに教えろ。」
キャプテン・ロカウが咆える。しかし挑発しようがしまいがマシナリィの劣勢は続く。
陣営など瞬く間に崩され死骸の山が積み上がるマシナリィ。
マリアとロカウの位置は一直線であり距離は間近、サイフォンで周囲に結界を張り巡らしながら一点のみを狙い、大気とマシナリィから発せられた蒸気を利用しロカウの陣地内の座標を捉えた。
「霧が濃い、そうか私は死ぬのか。マリオネット供を媒体にして子孫を遺す権利が欲しかった、ガーター仇を討ってください。」
帝国からラヴィッスマンは、マリオネットと侮蔑される。
キャプテン・ロカウは無様にもショートし、心肺機能が停止した。残りのマシナリィは統率を失い来た道を命懸けで逃げていく。
しかし今回は貿易ルートを確保することだ。追い打ちは不要、また殺せばいい。
必要な貿易ルートの施設を確保し、防衛システムをハックする。目標をアラレス商団にセットしプログラムに攻勢を持たせる。これで防衛システムは自動的にアラレス商団の貿易船に攻撃を仕掛ける。
レギオン帝国は、自分で作った兵器に殺されるのだ。そしてママに託されたオーダー通りに、施設に隠されてた最高機密データの、コード:サテッレスをインストールする。
殺戮と略奪の限りを尽くしたラヴィッスマン。
ここを立ち去るとき、ラヴィッスマンに何も思うことはない。
「おうちに帰ろう。」
ただそれだけだった。
ここは、マシナリィの長。死の聖母、女王陛下の住まう場所。
レギオン帝国、『ヴァラム・カストルム』。
全てが金属の外壁で建造された鉄壁の要塞。電子機器で全てが繋がれており、その膨大なマシナリィの意識の集合体、マザーコンピューターは、死の聖母、女王陛下が全てを統率する。
そして、死の聖母、女王陛下が元老院と会話をする。
「参上致しました、女王陛下。予定より遅くスエズ運河が抑えられました。別の勢力は咎められぬ故、しばらく外にお出掛けになられてくださいませ。」
「船の準備は済ませたのか。」
「御意、早急に。」
「あのネメシスとかいう魔女、やはり心当たりはあるのだが名前が思い出せない。どうやら相当進行してきてるようだ。」
死の聖母、女王陛下はネメシスの本名を知りたがる。本名を知る事ができたなら、呪い殺せるからである。
「陛下がお手を煩わせる必要はございません、あの計画は既に実行済みでございます。」
「そうかご苦労、これで同胞達も報われると言うものだ。別勢力はどこまで嗅ぎ回っているんだ。」
「進行は遅いようです、抑制剤の頭数が、残り少ないと推測されます。」
「それはいい知らせだ。奴等も我々と同じ病に罹っているものだ、いつ死んでもおかしくはない。後はベルナール家に親族同士で殺し合いさせればよろしい。」
「ネウロパストゥム供をけしかけて参ります。」
ネウロパストゥムとは一体何であろうか。
「何がネメシスと名乗れる器量があるんだ、我々は同胞の全てが憎しみで満たされているのに。」
「ごもっともでございます、見当違いもおこがましき限りでございます。」
「では、散れ。」
ガーターマシナリィの会話である。