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赤子と不思議な時計

作者: 古賀エイ

 あるところに、不思議な時計があった。


 その時計は針を動かすことで時間旅行ができる、そんな不思議な代物だった。


 それを手にした者は、旅行するだけでなく、現在を変えるためにその時計を使ったりもした。


 そんな不思議な時計を次に手に入れたのは――赤子である。








 手に入れたのは本当に偶然だった。何故か赤子の両親が時計を持っていたのだ。当人たちは使い方を一切知らず、本当に時計として使っていたが。


 その時計の針に赤子が触れたのがきっかけだ。赤子が針を動かした途端、周囲のものが急激に早く動き出したのだ。暫く赤子は呆然としていたが……。


「あうぁ……きゃっきゃっ」


 何かが壺に嵌まったのだろう。手を叩いて笑い出した。



 赤子は時計で遊び続けた。目の前を横切る両親が、針を右に回せば高速で歩き、左に回せば後ろ向きに高速で歩く。特に反時計回りが気に入ったようだ。両親がいなくなるところまで回して、いなくなったら戻して、また針を回して。まるで振り子のように時を動かした。


 そんなことを繰り返しているうちに、誤って周囲の風景ががらりと変わるところまで回してしまった。


 部屋の風景が、現在の生活感のあるものから殺風景なものとなる。そこから針を戻すと生活感のある部屋へと仕上がっていく。


「きゃっきゃっ」


 その光景が面白かったのだろう。針を回すのに忙しく手は叩いていなかったが、赤子は嬉しそうに笑い声を上げた。


 赤子は針を今まで以上に回し始めた。反時計回りに。


 周囲からは生活感が消え、内装が消え、壁、天井、床が消え――……。









 ある日、若い夫婦から警察署に捜索届が提出された。行方不明者は、夫婦の子ども。赤子だったという。


 警察が捜索したところ……夫婦が住んでいた、赤子が行方不明になったマンションの敷地の土の中から発見された。


 だが、発見時期があり得なかった。


 マンションが建つ以前、更地だった場所から発見されていたのだ。そしてそれは、赤子が生まれるより前だった……。


 発見されていた遺体と、赤子のDNAは完璧に一致した。夫婦は悲しんだが、それよりも困惑と恐怖の方が大きかった。


 事件は真相不明のまま、捜査が打ち切られることとなった。



 たった一つの証拠とされる、壊れた時計を保管したまま。

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